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親愛なる我が黎明へ 其の五


ひとまず……そう、ひとまずパーティの瓦解は防ぐことができた。

全く、イベントが始まってもないのに壊滅とか笑い話にもならない。人間関係とは猛毒を秘めた毒竜の如し……そりゃ信長もカエサルも死ぬわけだ。


とはいえ、なんとか火のついたマッチ……じゃない、火のついたマッチョを鎮火することには成功した。

京極の奴が持ち込んできた案件はまさしく”爆弾”と呼ぶにふさわしく、火のついたマッチョなんて近づけたら大爆発するところだった。

丸く収まった、というにはまだ燻っている感はあるが………呉越同舟でも同じ船に収まったなら良しとすべきだろう。それにそもそも少し離れた場所には烏合の衆がひしめいているわけだしな。


「イベント開始は夜九時から、現時刻が九時まで五分前……」


はてさて、"奴"はどんな登場をしてくれるのやら。

まぁどんな登場であれ、決戦であることに変わりはない。何が出てこようがここで勝てなきゃ全部ご破産だ。


「王我星、シユー……あと京ティメットも、作戦の最終確認だ」


頭数が増えたからにはもう一度作戦のすり合わせをしなきゃならない。新たに増えた京極とイスナも含めて今回の作戦……対ボスドゥニーネ決戦のプランを共有する。


「これから戦うあのゴルドゥニーネは四体の巨大龍蛇(ナーガ)と大量の毒分身をけしかけてくる。つまり数的有利も単体戦力的な意味でも人手が足りなすぎる……前回のエンカウントで負けたのはそれが原因だった」


故にこそ、それに対抗できるだけの戦力を集め……今日この日まで備えてきた。


「俺はあっち行ったりこっち戻ったりと忙しいが……やることはシンプル、分身や龍蛇の注意があっちのプレイヤー軍団に引きつけられてる間に大元を叩く」


大元、すなわちボスドゥニーネ……否、ここに至っては奴こそがユニークモンスター「無尽のゴルドゥニーネ」ということだろう。


「正直プレイヤー三人四人で倒せるかは怪しいが、ウチのクラン……【旅狼】がアシストに入るから勝てなくてもとにかく生存優先だ」


最悪のパターンは龍蛇四体+ボスドゥニーネの形を維持されること。だからどうにかしてあの龍蛇共を別の場所に引きつけなきゃならない。

マジで四体もいるのなんなんだよ……


「もしこっちに龍蛇が来た場合は?」


「場合、っていうか十中八九一体はボスドゥニーネの護衛につく、と俺は思ってる……だから【旅狼】の面子は最終的に龍蛇を引き剥がすことに専念するから本体は「ゴルドゥニーネ」と契約した俺たちでやるしかねーんだ」


ここで王我星が挙手。


「そもそも、どうして私達だけで戦うことになったの? 他のプレイヤーをいっぱい集めたなら、強い人をこっちに回してもいいんじゃない?」


「簡単な話だ。ユニークシナリオは……特にユニークモンスター絡みのEXシナリオは選択肢をミスると容赦なくバッドエンドで終わりかねないからだ」


例を挙げるなら墓守のウェザエモンが顕著だ。あれは効率的な(・・・・)攻略をするとむしろ評価が下がる。

クターニッドやジークヴルムも多かれ少なかれ、「正解」の攻略法があるのと同時に「不正解」の攻略法でもシナリオのクリア自体はできる、という罠がある。

そういう意味で言えば、「ボスドゥニーネを倒す」とは別にゴルドゥニーネとの契約なんてものが存在するのはあまりにも露骨だろう。


「ウチのクランメンバーが同行するのは「契約者以外のプレイヤーが混ざってもいいのか」を試す部分もある。ちなみに最悪のパターンは戦闘開始時点で契約者プレイヤー以外が締め出される、って場合だ」


ウェザエモンも、クターニッドも、オルケストラも……「特別なステージ」で戦うタイプのユニークモンスターだ。七体中三体がそうであるならば、むしろジークヴルムが例外枠と考えるのが自然。リュカオーンに関してはEXシナリオでの戦闘は俺含めまだ誰も経験したことのない未知であるが故に不明。

ただこれはあくまでも最悪の想定であって、ゴルドゥニーネはジークヴルムと同じで不特定多数のプレイヤーを強制的に巻き込むタイプのイベントを引き起こしている。

だからボスドゥニーネとの決戦であっても他のプレイヤーは参加できる、と俺は睨んでいるが………結局、軍隊並みの数が生み出される毒乙女や地上版アルクトゥス・レガレクスみたいな龍蛇(ナーガ)がいる以上は全員一丸でボスドゥニーネに挑むのは愚策だろう……デカいひとかたまりになった軍勢(しかも烏合の衆)を殲滅するだけなら囲んで叩けばいいのだから。


ゴルドゥニーネ側にはそれを可能とする質も数もある。囲まれてなお何とかするには群ではなく軍にならないとどうしようもない。それが出来ない以上は、分断策がベストなはずだ。


………正直言って、あのボスドゥニーネ一体なにをしてくるのかなにを企んでいるのかを推し量ることは不可能に近い。

奴とはこれまで二度エンカウントしたが、そのどちらも惜敗と強がるのも烏滸がましい惨敗という結果に終わっている。


二度の対決、そのどちらも俺は奴の冷や汗も苦悶も見ちゃいない。

つまり「おおよそどういう攻撃をしてくるか」くらいしか俺は把握できていない、ということ……初見でクリアするよりも一、二度しか情報を集めきれてない中で勝つ方がよほど難しい。

半端に知恵をつけるのは無知よりもドツボにハマりやすいというのが俺の持論だ。様子見をするか、あるいは「当て馬」を用意…………


「いや、違うか………」


「?」


突然の独り言に王我星が首を傾げる。


「いや、ちょっと決意を新たにしてただけ」


「ふぅん」


泥でも雑草でも烏合の衆でも今集められる全部をかき集めて作った最強の泥玉をぶつけるんだ、「勝つために頑張ろう」じゃあ腰が引けてる投球フォームだ。


「復讐は楽しく痛快に、派手(ゴキゲン)に勝とうぜ」


───九時だ。




やることが……やることが多い………!!という作者の泣き言を八つ当たりで主人公にも吹っ掛けている。

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