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親愛なる我が黎明へ 其の三

米国太平洋標準時採用なのでまだ日曜日です。セーフ!!



突きつけられた切先。だが「突きつける」で止まっている時点で、その刃にはもはや脅し(びっくりさせる)以外の機能は無い。

今から凶器としての役目を自覚させようにも、既に相手を殺す自覚を持っている銃の引き金を引く方が速い………要するに、だ。


「詰めが甘いな京ティメット、幕末なら四度死んでいたぞ………」


「やっぱりあっち(・・・)で完膚なきまでに天誅しなきゃその師匠ヅラは剥がれないみたいだね」


分かってるじゃないか。仮にここ(シャンフロ)で京極に百回PKされたとしても、それは幕末とは無関係。

心技を継げても、(アカウント)は別々なのだから。


「で、いきなり暗殺アピールして何の用だよ?」


突然現れたPKプレイヤーにシユーと王我星の警戒はMAXだ。無理もない、プレイヤーキラーに煮え湯を飲まされたからこその今だ。


「……ていうか【旅狼】は別働だって話、聞いてないのか?」


実のところ、俺が組み立てたプランでは三つのグループを形成してボスドゥニーネを仕留める予定なのだ。


一つは、檄文で集めたプレイヤー集団。奴らには龍蛇(ナーガ)と毒分身共の対処を期待している……というか、大混戦になる以上参加プレイヤーは全員あれらと戦うことになるわけだが。


そして「ゴルドゥニーネ」の契約者集団……つまり俺達。言うなればシナリオ攻略班と言ってもいい。あまり大々的に存在を明かしても身動きが取れなくなるだけなので隠密という形を取っているが、ボスドゥニーネとのエンカウントを最低条件としてボスドゥニーネの撃破を目指す。


最後に……契約者組を支援しつつ、所属メンバーの火力支援(・・・・)性能が故に檄文組の方にも参戦する遊軍としてクラン【旅狼(ヴォルフガング)】の面々。いうなれば二つの組の緩衝役であり、檄文組の援軍であり、そして契約者組の護衛だ。

今の今までどこで何をしていたのか全く分からなかったが故に、王国騒乱イベントでも顔を見なかった京極だったがSNSで情報の共有はしたはず。事前に顔を合わせて何か相談する、なんて予定はなかったはずだが…………


「ふふ、ここに来たのは二つ理由があるんだよね。当ててみなよ」


「幕末以外で天誅ネタ持ちだしてイキり散らかしたのを自慢しに来たとか?」


「……………………………………ははは、面白いジョークだね。小説家になれるんじゃない?」


ほーん? 天誅を幕末外に持ち出すのは切腹案件だが…………今は詰めないでおいてやろう、後でゆっくり聞き出すとするとしてもだ。

目が自由形で泳ぎ出した京極を半目で睨みつつ、答えを促す。

ごほん、と咳ばらいをした京極はインベントリを操作すると…………それ(・・)を地面に落とす。


「お前これ………!!」


「実は拾ってね(・・・・)


ゴトン、と重厚な音を立てて地面に落ちたそれ。漆黒の黒曜、瑠璃のコーティング、そして金と薄く青みがかった水晶。

それは、あの日失われてしまったもの。失われた、というよりは十中八九”奪われた”はずのもの。


煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)………!!」


そして、一瞬布の切れ端か何かが引っかかっているのかと見間違いかけた、小さな布……否、手袋。鮮やかな琥珀の輝きの中心に、黒く節くれ捻じれた()を封じ込めたそれもまた。


封雷の撃鉄(レビントリガー)(ハザード)…………」


にんまり、とドヤ顔を浮かべる京極に何か憎まれ口を叩こうとして……やめた。発端は俺の落ち度で、変換は京極の善意だ。こればっかりは言葉でマウントを取っても俺の負けがより惨めになるだけだ。


「参ったな、どこに落ちてたんだ?」


「樹海の中で、ね。色々拾った中にそれがあってさ………こんなお手軽重傷入院アイテム使う奴に心当たりなんて一人しかいないし」


「拾った、ねえ……………できれば自分で見つけて拾いたかった(・・・・・・)んだけどな」


落ちていた、拾った……なんともまぁ白々しい言葉だ。あの時、俺を襲ったPKプレイヤー………なんていうか、今までに遭遇したことが無いタイプの度し難い人間だったが奴を京極がPKした、ということだろう。

あの野郎のせいでこっちは大損こかされたのだ、見つけ出してログアウト逃走するまでブッ飛ばすつもりだったのに、大義名分の一つが無くなってしまったじゃないか。

ま、無くなったというならそれはそれでまた新しく(タネ)から捏ねて膨らませればいいだろう……憎しみはイースト菌よりも強力に膨らませてくれるのだ、「お礼」の気持ちをな。


「で、もう一個の理由は?」


「もう一つの理由は………………ほら、来なよイスナ」


聞いたことのない名前。だが京極の呼びかけに応えたそれは木の影から這い出てきたかのように、まるで気配を感じさせることなく姿を見せた。


どこか気だるげな、というより身も蓋も無い言い方をすると物凄く嫌々この場に立っている、という気配を隠そうともしない細身の少女だ。純白というよりは色そのものが抜け落ちてしまったかのような白い髪に白い肌。それ故に光っているようにすら錯覚するほどに白の中で目立つ赤い眼光。


「僕もこっち側(・・・・)なんだよね、よろしくお仲間諸君」


見間違える筈もない、京極はゴルドゥニーネを連れてきたのだ。


「お前それ…………」


その瞬間だった。


「あ、あんたッ!! あのヒイラギってやつと一緒にいたやつじゃない!!」


それまで、口を挟むことが憚られたのかもじもじと黙り込んでいた王我星が吠えた。


「…………成程」


京極は不発弾よりなお始末の悪い落とし物(・・・・)を拾ったらしい。

あの日「同じ境遇同士仲良くしよう」とヘラヘラ笑いながら話しかけてきた女の、傍らにいた女

自分の「おともだち」と似ているからこそ、よくよく覚えている



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挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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