親愛なる我が黎明へ 其の二
なんというか、大盛り上がりだ。
一応万が一の可能性を懸念してサバイバアルとヤシロバード………そういうのに対応できる奴らが目を光らせてはいるが、杞憂で済みそうではある。
それにサイナも別に遊びで抱え続けているわけではないしな。少なくとも俺があの時されたような事を二度看過するつもりはない。というか二度目があるなら俺にやって欲しい、盛大に………それはもう盛大に、歓迎したいからな。
ともかく、この数の一大戦力を確保できたのは大きい。
聖女ちゃんが予言するレベルとなると五人十人では理論上でもクリア不可レベルの規模になるというのはジークヴルム戦で実証されている。
ボスドゥニーネは群体型のボスであり、巨大ボスであり、そして本体そのものが強力な人型ボスでもある。
どういう方式でユニークシナリオEXが進行するのかは不明だが、毒人形軍団と龍蛇四体には絶対に人手がいる。
毒人形対策は今ここに。
龍蛇対策もやれることはやった。
あとはボスドゥニーネに本隊をどこまで辿り着かせられるか……
「………」
ユニークシナリオEX「果て亡き我が闘争」はゴルドゥニーネとの契約を成立させることで発生するユニークシナリオ。それはつまり非契約者はこのシナリオの発生条件を満たせない、ということだ。
因縁があろうがなかろうが同じユニークEX「来たれ英傑、我が宿命は幾星霜を越えて」が発生したジークヴルム戦とはおそらくクエストの構造が違う。
一大イベントとしてのユニークEXは単にボスドゥニーネを倒せばいいのかもしれないが……他のゴルドゥニーネと契約したプレイヤーに限っては、恐らく契約したゴルドゥニーネを同伴した上でボスドゥニーネとの決着をつけなければならないと見た。
単純にボスドゥニーネを倒すだけならウィンプはスカルアヅチに配置して拠点防衛のついでに守ってもらった方がいいが、この仮説ゆえウィンプに最前線で旗振り役をさせている。
前に出す以上は完全に隠すのは不可能に近い、ならば逆に派手に目立たせた方が事を運びやすいと割り切る。
「さて……」
ウィンプがサイナと共に注目を集めている間、俺はこそりとその場から離れてもう一つの待ち合わせ場所へと向かう。
◆
「よっ」
檄文で集まったプレイヤー達のいる場所から少し離れた森の中……そこにひっそりと集まるプレイヤー達。
王我星、シユー……そして二人が契約したゴルドゥニーネ達。
「やぁ……こんばんは」
「こんばんはっ!!」
元気でよろしい。
スキンヘッドのマッチョが甲高い声で挨拶する姿は、なんというかゲームならではの異様な光景だが……指摘すべきはそこではないだろう。
「なんていうか……随分、鍛えたみたいだな」
王我星というプレイヤーは初対面の時点でマッチョムキムキ脳筋フィーバー、という感じの分かりやすいビルドのプレイヤーだったが……明らかに初対面の時よりも鍛え上げられている……肉体的にも装備的にも。
「先生と一緒に鍛えたんだから! 今の私は、どんなやつにも負けないパワーがあるっ!!」
彼女の頭上に馬鹿でかい鉄塊が浮いている。
否、その鉄の塊には槍と見紛うほどの柄が刺さっている……つまり、浮いているように見えたその鉄の塊は振り回されることを前提とした規格外の鈍器ということ。
「ドラゴンの頭もペシャンコにできそうなハンマーだな………」
「あのでっかい蛇だってこのパワーでぶっ飛ばすんだから!」
うーん、元気でよろしい。
だが実際のところ、明らかに装備の質が良くなっているのが鎧や超大槌のディティールの細かさから伝わってくる。明らかにいい素材を使って作られた一級品、といった様子だ。
……「先生」、か。なにか素材マラソンに付き合ってくれるフレンドでもいたのだろうか。
「期待してるぜ王我星」
「任せてっ!」
明らかに俺よりもかなり歳下の気配がするが、レベルと装備は年齢の影響を受けない。あの時は不意打ちで数的不利を強いられた、というのも敗因の一つだからなぁ。
「で、楽しく復讐する準備はできたかよシユー」
そしてもう一人。あの時同じ場所にいて、そして同じようにボスドゥニーネの軍勢に呑み込まれた負け犬仲間。
一度会いに行った時は「このゲームを引退します」みたいなツラをしていたが……どうやら、暫くのうちに無事モチベは回復したようだ。
「ああ……うん。大丈夫だ」
上に一枚ボロボロとはいえシャツを羽織っている分、俺よりはマシとはいえ剣と魔法と爪と牙、たまにビームが飛び交う世界観では異常とも言える薄着。
アバターの線の細さもあって、戦うにしても支援職だろうとしか思えないが、その実シユーはガチガチの前衛だ。
なんかゴリラっぽいオーラを纏って戦う姿は、やはり見た目だけで対人的な判断をするのはよくないということを思い出させてくれる。
今も一見して無人島に遭難して二年、という格好に変わりはないが頼れる戦力として不足はあるまい。
そしてあの日かろうじて生き延びたものの、腕や両脚を失っていたはずのゴルドゥニーネ達。
髪を隠すようにフードこそ被っているが、その腕も脚も失った事実など初めからなかったかのように五体満足で立ち、俺をまるで……いやまるでもクソもないが不審者の如く睨んでいる。
報酬先払いは流石に無謀かと思ったが頼んでみるもんだな。聖女ちゃんの力は完全に失われた部位すら無から再生させる……だがかなりの無茶振りだったのは事実。
きっと性別を変更せずにこの無茶を通しに行っていたならば、細めた目から猛禽の如き眼光を見せていたジョゼットに闇討ちされていたかもしれない。
私利私欲私情で聖女ちゃんを悪用するなら覚悟しておけよ、って顔だったなアレは……
だがこれで準備はほぼ整った。
あとは応援が来るのを待つだけだが───
振り向きながらインベントリ操作。銃を取り出しながら背後に突きつけたそこには、
「……銃はズルくないかい?」
「幕末でも銃火器あったろうが泣き言か? 辞世の句読む? 冬の季語分かる?」
「言ってくれる……!!」
こちらの眉間に刀の切先を突きつけた京極が半ギレしていた。
天誅するなら3メートル時点で走り出すべきだったな、2メートル圏内なら流石に無音でも気づくんだよ幕末志士はな……!!
ちなみにレイドボスさんは5メートル時点で壁越しに気づけるらしい。五感のどれを使って察知してるんだ……シックスセンス?