親愛なる我が黎明へ 其の一
アニメ放送中くらいは週一投稿をしなきゃあいかんでしょう、という決意のもと頑張ってリハビリをしている
そしてようやっと、本当にようやっとこのタイトルを使う日が来ました。本当にお待たせしまして………
えぐえぐと半泣きでぷるぷる震えるウィンプの姿は、開拓者たちの旗持ちとしてはあまりにもみっとも……もとい、情けない有様であった。
だが、人というものは猫や犬に警察組織の所長という権威を一日くらいなら渡してしまってもいいかな、と考えてしまう割と文字にすると正気を疑いたくなるような不合理を愛する生き物だ。
「うーむ……推せる」
「俺はもう推したが? 乗り遅れてるんじゃないか……? この”波”によ……!」
「まだ波浪警報すら出てねえだろその波」
「”渦中”、って言うだろ?俺達は波の中にいるのさ………」
ウィンプの小動物的仕草に脳をやられたのか、愉快な理論が人ごみの中から聞こえてくるがツッコミを入れるのはギリギリ野暮か。これがサバイバアルだったら一発入れても許されそうなもんだが。
とはいえ、演説慣れした態度よりは好感触っぽいのでそのままゴーだ。
「えう…………あの、ええと……………きてくれて、ありがとう?」
「「「「おおー………」」」」
何がおおー、なのか。なんというか生まれたての仔馬が初めて立った時みたいなリアクションだ。
とはいえウィンプも別に完全にぶっつけ本番でこの状況に放り込まれた訳ではない。人を集めている、という話は伝えてあるし、そもそも聖女ちゃんの予言で今日この日に奴との決戦になることも事前に分かっていたのだから。
つまり「ウィンプにとって因縁の戦いに、わざわざ命を放り込みに来た奴ら」に対して何か言う、という前提はウィンプも承知しているということだ。
「きっと、たいへんなたたかいになるけど、ちからをかして……えと、おねがいします」
猫の如く抱えられているので頭を下げる、というよりは首を若干カクンと傾けた、という感じだったが………言葉は投げられた。では受け取った側は、如何に。
───沈黙。
「うあ…………え…………あの………………」
返事もなく、ただじっとウィンプを見つめる数々の目。中には視線を逸らす者、瞑目する者………少なくとも「返事」というには静かすぎる有様。
自分が何か失敗してしまったのか、彼らの”癪”に障ってしまったのか。そんな不安が膨張しているのが表情からありありと伝わってくる。一体どういうAIをしているのやら、実際にそういう状況になった人間をサンプリングでもしないと再現できないだろうあんなの。
その時だった。
「……………」
一人のプレイヤーが、すっと前に出てきた。多くのプレイヤーが差異は激しくとも鎧やローブ、戦うための衣装を着込んでいる中で不自然なまでに気の抜けたタキシードを着たそいつは、ウィンプの前まで来ると恭しく一礼。そして口を開いた。
「握手を…………していただいても、いいですか」
「………………えっ?」
意味不明すぎる。
だが傍から聞いている俺と異なり、その意味不明のお願いが直撃しているウィンプの混乱はさらにそれ以上なのだろう。
スッと差し出された手を、ウィンプは反射的に応えてしまう。
「……ん? あいつ…………」
突然握手会をおっぱじめたアホ………その頭上に表示されたPNに、見覚えがある。いや見覚えがあるというかどっちかというとお得意様というかなんならフレンド登録している。
「……………エンカウント成功、か」
その名はプレイヤー「煉牙」。誰かと思えばフィロジオに脳を焼かれ過ぎてシャンフロのメインコンテンツを殆ど放棄したカードゲーマーではないか。
「ありがとうございますウィンプさん。俺の命は好きに使ってもらって構いません、というか強敵に率先して突っ込ませてほしい」
「えっ……えっ」
「あと今後蛇デッキで使いまくるので今後ともよろしくお願いします」
「……………???????」
ダメだ、ウィンプは未知の言語で話しかけられて完全に思考が止まっている。というか「ゴルドゥニーネ」のカードゲットするために念のために握手しにきたなあの野郎。
「すいません、俺も握手いいですか。蛇型ミッドレンジ極限環境ガチってます、ファンです」
「………………??????????」
別ゲーの用語など、同じ人類ですら外国語より解読できないもの。いわんやファンタジーの住人に向けたところで「何か喋ってる」くらいにしか伝わらないだろう。
煉牙と入れ替わるように別のプレイヤーが握手。「ハイローラー」と表示されているが、女性アバターで煉牙と同じく何故かタキシードを着ているが…………まさかフィロジオのクリアで何かしらの装備が獲得できるのか?
そんな話は聞いたことないがまさか秘匿して…………いや違うな、ジョブだの装備だのを変えたところでフィロジオに影響しないから言及すらしなかっただけだな、確信がある。
いつだったか煉牙と商談をした際、ごくごく当たり前のように「征服人形ってスタッツどんなもんスか?」ってもう俺がカードを引いてる前提で質問してきたのは記憶に新しい。
だが、フィロジオニスト二人がフライング気味にスタートダッシュを決めたことで、沈黙を貫いていたプレイヤー達……今ならわかる、単純にどうカッコつけて返事をするか迷ってただけだこいつら……が爆発したかのように湧いた。
「ずるいっ! アタシらだってウィンプちゃんとチェキ撮りに来たようなもんなのに!!」
「うおーっ! ウィンプちゃん好きだ―っ!! 捨て駒にしてくれーっ!!」
「握手まではセーフなんすか! 握手まではセーフなんすか?!」
「サイナちゃん結婚してくれーっ!!」
安心しろよウィンプ、わざわざクリスマスに予定空けてここに集まるような奴なんざ神殺しだったとしても先陣切れる頼れるアホ共ばかりだぜ。
そんな、強敵に突撃するだけでタダでカードプール増やせるなんて……フィロジオ、なんてすばらしいカードゲームなんだ………
これは他のプレイヤーもやるべきだろ……………