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12月24日:聖夜返上

私用+〆切でここまで間が開いてしまいました、申し訳ないです

今現在進行形でメタファー:リファンタジオに激しく時間を食われていますが、恐ろしい勢いでインスピレーションがモリモリ湧いてきたので今の硬梨菜に足りなかったのはハイファンタジーの味だったのかもしれない


───12月24日。

世間一般にはクリスマス・イヴと呼ばれる日。一年を通して「大きなイベントといえば」と問われれば五指には間違いなく入るビッグ・イベント………


だが、「彼ら」はクリスマス・イヴだからこの場に集ったのではない。

彼らにとってのXデーが偶然12月24日だった、ただそれだけの理由。だがそれだけの理由が彼らに聖なる夜を返上してこの場に集まる動機……何よりこの場に集まった数十人、あるいはもっといるかもしれない結果を齎したのだ。


多くの人が集まるが故の騒がしさこそあれど……不思議と彼らの中には「静寂」があった。

それは熱を孕んだ静寂。彼らの中で今にも弾けて暴れ出しそうな熱が、しかしながら「今ではない」と寸前で踏みとどまっているような。

ざわめきながらも、息を潜めるように。


「イヴの夜にまぁこんなぞろぞろと……」


「なんだぁ……?死にてえのか?」


「まぁまぁ……この後(・・・)いくらでも死ねるでしょうよ」


「え? 背中から斬られるのあたし」


違う意味で殺気立ってもいるが、殺意もまた熱の中へと溶け込んでそのボルテージを静かに上げるスパイスとなっていた。

彼らは待っている、サンタを待つよりももっと刺激的な夜を。

彼らは待ち構えている、七つの最強種が一つたる無尽の蛇を。

彼らは待ちかねている、今宵新大陸にて始まる蛇との決戦を!






いやはや、大盛況である。

元々公式声明という名の聖女ちゃんの予言があったとはいえ、さらにそこから伝手を借りてのプレイヤー輸出計画。

人手は欲しいがギリギリ声が届く範囲に収まる人数が理想……サバイバアルとヤシロバードに相談したのは正解だった。


「百人は超えてるよなこれ」


「知り合いの知り合い、くらいまでは情報が伝わったみてえだからな」


「午後十字軍は……あ、カローシスさんだ。あんな元気なカローシスさんマジで久々に見たかも」


サバイバアルを通して檄文を送った奴ら、ヤシロバード経由で送った奴ら、俺がライブラリにリークしたことで集まった奴ら、そしてそこからさらに派生して……兎にも角にも集まってくれたことには感謝しかないぜ。


………これからゴミのように薙ぎ払われかねないからな、頭数は多いに越したことはない。


ユニークモンスター「無尽のゴルドゥニーネ」は大型ボス戦と軍対軍戦、そしてボスドゥニーネ本体との人型ボス戦の全てが複合した極めて脳筋な全面対決だ。


あの初遭遇時は数も質も足りなかった、ジークヴルム戦の時点でうっすら思ってはいたが……リュカオーン、ウェザエモン、クターニッドと「いちパーティ」単位で戦うユニークを経験していたからこそ、「ユーザー全体」想定のユニークモンスターの可能性をもっと重く見るべきだった。


「やっぱ聖女ちゃんの告知は便利だな、プレイヤーが声上げたって今どきこんな集まらないぜ」


「いや……そうでもないと思うけどね………王国騒乱イベントじゃ大暴れだったじゃないかサンラク。あれでもかなり人は集まったんじゃないかい?」


そうは言ってもアレは偶然集客力の高い配信者ガル之瀬とエンカウントできたからこそだ。

不思議と他人の気がしないシンパシーを感じる相手だったが……それを差し引いても彼の戦力は欲しい。果たしてこの場にいるのかどうか。


「とりあえず数は集まったぜサンラク」


「あとはまぁ彼らの奮戦に期待、って感じだけどな………」


王国騒乱イベント中はリスポーンに制限がかかってる上にデスペナルティにアイテムぶちまけが追加されてたせいで下手に死に戻りもできなかったが……今はもう違う、実証もしたからな。

デカ蛇四体だろうが毒人形だろうがどうってことはない、この世界(ゲーム)で一番しぶといゾンビ共の波濤を見せてやるぜ。


「んで? 指揮とかはすんのかよ?」


「したところで従わねーだろ、烏合の衆のままぶつける」


このユニークシナリオにおいて、彼らの役割は「主役」のそれとは異なる。

どちらかといえばモブ寄り、本命からは遠ざかってしまう。だからこそ、頭を張ったところではい分かりましたとはいくまい。


それはそれとして、


「旗持ちは必要だろ?」


少なくとも檄文で来たプレイヤーの何割かは彼女(コイツ)が目的だろうしな。


「というわけで何か一言、ぶっつけ本番で」


「うそでしょ……!?」


何を言うかウィンプ、お前が今回の旗印なんだぞ。


「え、えぇ……?」


別に歴史に残るような名演説をしろと言っているわけではない、ぶっちゃけ言葉ではなく姿を見せるのが重要なのだ。

なにせ檄文のネタに「新大陸でアルビノツインテールメイド服美少女と握手!(意訳)」って書き込んだからな………


突然舞台に立てと言われたウィンプが慌てふためくが、逃すわけにはいかない。


「サイナ、連行」


「了解:」


がしっ! とサイナが両手でウィンプの脇を掴んで持ち上げる。ジタバタと暴れるがどうにもならないその(ザマ)はまるで捕まった猫のようであった。

メイド服を着た征服人形がメイド服を着た蛇女を抱えてズンズンと現れる姿は、好き勝手に喋っていたプレイヤー達の視線を根こそぎ奪うに足るものであった。


「……サイナちゃんじゃね?」


「マジか、いや発起人にツチノコさん混じってるなら当然か……」


「抱きかかえてる子かわいー!」


「ほら、あの子だよ! メッセージに添付されてたスクショの!」


「メイド服着てる~!」


「あのキモいくらいのクオリティの高さ………作った奴に激しく心当たりがある」


ざわめきが段々と消えていき、視線は一点に集中していく。

日光を虫眼鏡で集めれば、それは熱を生み出すように。数多の熱が集中する一点となってしまったウィンプであったが、ここに集まった開拓者(プレイヤー)達が自分を発端としていることくらいは自覚しているらしい。

それでも信用されていないのかサイナによって猫の如くぶら下げられたままだが、ウィンプは覚悟を決めたのか息を大きく吸い込み……


「……わたしゅびゅぶっ!!?」」


開口一番に噛んだ。


「おお…………もう…………………」


フルダイブVRだというのに何故か眩暈がした気分で頭を抱えた俺だったが……


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」


「掴みは完璧、か……やるじゃねえかウィンプちゃんもよ」


「えぇ……?」


これでいいらしい。

うんうんと頷くサバイバアルを半目で睨みつつも、塞翁が馬ということにしておこう。

猫みたいに抱えられた女の子が激しく舌を噛んで(二股に割れた舌チラ見せ)悶絶している光景


掴みは完璧、か………

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