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半裸と愉快な仲間達inゴーレムパラダイス

それは過去であり、墓標であり、爪痕であり、残滓である。遥かな昔、神代の文明が存在した事は発見される遺跡、発掘されるアイテムから実証されている。

その中でも特に神代のアイテムが発掘される場所として有名な場所といえばやはりここ、「去栄(きょえい)残骸遺道(ざんがいいどう)」だ。

かつて神代の文明に何があったのか? 何故神代の文明の殆どは失伝し、散逸し、損失してしまったのか? 答えはまだ分からない、だが何となくのヒントはこのエリアに足を踏み入れた瞬間に否応にでも理解できる。


「っはぁー……こりゃあまた、現実離れ(ファンタジー)な光景だ事で……」


見上げた先、このエリア全体をドームの天井のように覆っている、巨大という言葉すらそれを言い表すには不相応な程に巨大な人造の背骨と肋骨(・・・・・・・・)に俺は思わず感嘆のため息をつく。

それは生物のものではないだろう。薄暗いとはいえ、リアリティを最重視したゲームではない故にそれなりの明度で見つめる先、中規模な街程度ならすっぽり収まってなお余裕がありそうな程の大きさを持つその背骨と肋骨が生物に由来するものではない……金属を組み合わせて作った道具(・・)である事がはっきりと見て取れる。


こんな代物を作る必要があったということ、完全に破損しきったものとはいえこのエリアからは「遺機装(レガシーウェポン)」が発掘されること……何故神代の文明が滅んだのか、答えは分からないが少なくとも「何かと戦っていた」という事だけはハッキリしている。

それがユニークモンスターなのか、それともこのゲームのラスボスなのか……個人的にユニークモンスターだと困る。こんな巨大な「何か」を作らなければならないような相手は倒せる気がしないからな。


「怪しいのは「バハムート」……いや、今考察すべき事ではないな」


思考が脱線するのは悪い癖だな、まぁそれだけ考える事が多いという意味でもあって不快なものではないのだが。

とはいえエリア考察自体は重要だ、恐らくこの場所は元々は工場か何かだったと思われる。

なにせ、こちらに気づいて近づいてくるゴーレムの腕は工業用と思しきバーナーなのだから。


「デラックスキングメジェド、合体解除!」


頭装備を凝視の鳥面に変更、それと同時に頭にへばりついていたエムルが、背中にしがみついていたビィラックが、手で抱えていたアラミースが俺から分離する。

さながらバーナーを炎の剣のように振り回すゴーレム、だがその動きは巨人系モンスターの宿命として高い威力の代償に速度と精度が死にきっていた。


「強いて言うなら思っていたよりも当たり判定が長いくらいか……」


あとは見た目通り頑丈かつタフネスなデザインのモンスターなのだろう。さて今の自分の火力がどれだけ通るか……と湖沼の短剣【改二】を構えた瞬間、頬を不自然に鋭い風が撫でた。


「? なん……」


「ははははは! 彷徨える神代の鉄巨人よ、永き彷徨いにこのアラミースが幕を引いてくれよう!」


えっちょっまっ


「 【従剣劇(ソーヴァント)独奏(ソロ)」・至高の一閃(プライマルスラッシュ)】!」


あと一歩横にズレていたら直撃していただろう軌道で俺のすぐ横を斬撃のエフェクトが飛ぶ(・・)

犯人(アラミース)とバーナーゴーレムの距離は目測5メートルは離れていたにも関わらず、恐ろしい速度の発生から着弾の流れは、バーナーゴーレムの爆砕という結果で威力をアピールする。


「ふふふ……乙女よ、それに君達よ安心し給え、この僕「吹き荒ぶ旋風(ワイルドウィンド)」アラミースがいる限り、如何なる敵も障害足り得こうとうぶぁ!?」


「アホか! アホかおどりゃはぁ! 作業用ゴーレム一体倒すのに対竜規模の技を使っとるんじゃないわ! この……っ、アホォ!」


対竜規模ですってよ奥さん、下手したら俺の左半身消し飛んでましたよ。

木っ端微塵に吹き飛んだゴーレムからは当然ドロップアイテムなんてものはなく、というかドロップアイテムが落ちていたとしても今の一撃でロストしたっぽいな。


「あー……そうだなぁ……アラミース、悪いが大技ブッパは控えてくれ」


「さ、流石にハンマーは不味あふんっ…………りょ、了解した……」


脳天にゲンコツならぬスレッジハンマーを落とされたアラミースは頭を抑えて悶絶しつつも、俺の言葉を承諾した。












「遅かれ早かれここには来るつもりだったけぇの、わちは色々この場所について調べてあったんじゃ」


「なるほど」


「例えばこの場所では兎にも角にもまぁアホみたいにゴーレムが湧く。それも二種類のな」


「ほうほう」


「まず一つ目に神代の時代のゴーレムじゃ、彼奴らぁは全体的に鈍臭いがその代わりに頑丈じゃ。伊達に神代の頃から動き続けとるだけのことはあるけぇの」


「なるへそ」


「そして二つ目、この場の素材か(・・・・・・・)ら生まれた(・・・・・)ゴーレム。こいつらは脆いが何をして来るかわからん」


「よく調べてるんだな、だがな……?」


半泣きでマジックエッジを連射するエムル、早々に大技制限を解かれて高笑いしながら剣を振り回すアラミースを横目に俺はジャガイモに足だけ生やし、されどサイズはスイカ大の「玉ゴーレム」とでも言うべきモンスターを蹴り飛ばしながら叫ぶ。


「そう言う情報は先に言ってくれ!」


「言ったところで結果は変わらんかったじゃろうが!」


「心構えの問題なんだよ!」


「ぴゃぁあ増援ですわぁぁ!?」


今しがた蹴り飛ばした玉ゴーレムが落下地点にいた別の個体にぶつかり……起爆。さらに爆炎は周囲に連鎖する。


「八コンボかな」


「悲報じゃ、九体追加された」


「差し引き黒字かよあの野郎!」


視線の先、見ようによっては口を大きく開けた顔に見えないこともないゴーレムが玉切れの様子もなく玉ゴーレムを量産している姿に思わず毒づく。

くそ、出来の悪い粘土細工みたいなツラしてるくせにAIが結構賢いぞ。

最高レベル(アラミース)飛び道具持ち(エムル)がこちらに来る量以上の玉ゴーレムに抑え込まれているのを脇目に、俺はこちらへと迫る玉ゴーレムの群れを見回す。


「……よし、見えたぞルート! ビィラック、掴まれ!」


「よっしゃ!」


ビィラックが背中に飛びついたのを号砲代わりに、俺は前へと飛び出す。

玉ゴーレムの物量が脅威であることは事実であるが、俺達四体の()全てを封殺する事は出来ないらしい。

地面を埋め尽くすほどの文字通りの意味で絨毯爆撃を向けられているエムル、アラミースとは違いこちらに来る玉ゴーレムの物量は所々に地面が見える「穴」がある。


「なんだっけかあの粘土のやつ……そうだC4だ。信管じゃなくて魔力で起爆ってか?」


ミリタリー系のゲームじゃ大体出てくる粘土状の爆弾。厳密にそれと決まったわけではないが、あの玉ゴーレムの性質はほぼそれに近いものだろう。

自爆系モンスターという、戦闘的な意味でもアイテム集め的な意味でも極めて厄介なモンスターが物量と高性能AIを得る。

なんともまぁ酷いモンスターだとは思うが悔しいことに性能が高いからこそ対策も浮き彫りにされている。


「レベルが一番高い奴以外にも、遠距離攻撃持ちを封じた時点で弱点を朗読してるようなもんだぜ……!」


六艘跳び起動、高い判断力を持つが「罠」を用いないC4ゴーレムは、最大の脅威たるアラミースと遠距離から自身を屠る可能性を持つエムルの封殺を優先したために、近距離武器しか持たない俺とビィラックへの対処をおざなりにした。

俺はビィラックを背負った状態で跳躍し、迫る玉ゴーレムの隙間を浮島代わりに爆弾の海を跳び抜ける。


「頼むぜ打撃手(ストライカー)!」


「ゴーレムの弱点はぁ……いずれも核じゃあ! マテリアルデストロイ!!」


俺が攻撃しても良かったが対物攻撃に補正が入るスキルを持つビィラックの方が一撃でゴーレムを屠ることができると言うことで俺は運搬手(キャリアー)に徹する。

聞くにゴーレムの核は神代製の(リアクター)であっても、現代製の(コア)であってもその大抵は身体の中心にあると言う。

故に歌う瘴骨魔(ハミング・リッチ)の時と同様に真下から真上へとカチ上げによって、大きく開かれた玉吐きゴーレムの上顎の裏へとスレッジハンマーが叩きつけられた。


快打(クリティカル)じゃあ!」


「……? やっべ全員退避!!」


「おりょわっ!」


さながら頭頂部が噴火したかのように砕けた玉吐きゴーレムがびくりと震える。

不自然な停止からガタガタと震え始めた挙動に嫌な予感を抱いた俺はビィラックの首根っこを掴むようにして抱え上げ、不自然に動きが止まった玉ゴーレムを蹴散らしながらその場を離れる。

エムルとアラミースも距離を離したところで、轟音。


「まぁ吐き出すゴーレムが自爆系なら本体も当然自爆系だよなぁ……」


「なんか落ちてきちょるぞ」


「おっと」


数秒ほどで消え始めた爆煙の中から、爆風で吹き飛んできたのか何かがこちらへと落ちてくる。キャッチすれば、どうやらアイテムのようだ。

極限まで簡略化された人を象った粘土製の……


埴輪(ハニワ)だな」


「なんじゃこのマヌケヅラ?」


「でもちょっと可愛いですわ?」


インベントリに入れてアイテム説明……




・爆土の偶像

自然発生するゴーレムが稀に生成する小規模な己の分け身。

キャノンボールゴーレムが生成した偶像は強い衝撃を与えることで小規模な爆発を起こす。

爆土の偶像の踊りが最高潮に達した時、土の中より炎が生ずる。



「手榴弾かよ……」


何気にキャッチミスしてたら死んでたな、怖っ。


クッソどうでもいい豆知識:ごく稀に美少女フィギュアな偶像が発見され、プレイヤー間で高値で取引される。ちなみに歴代最高額は大人気NPC聖女ちゃんそっくりな「天願の偶像」であり、3億マーニで入札された。

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