12月23日:誰も彼もが黄昏へ流れゆく
長らくお待たせしました………2024上半期、デッドヒートすぎた
エインヴルス王統の断裂。新王アレックスと前王トルヴァンテによる前代未聞の国をふたつに割っての大戦は、新王アレックスの拉致誘拐という形で決着した。
陣取りゲームとしての王国騒乱イベントはほぼ拮抗していたが……将棋しかりチェスしかり、王を獲られたならば盤の趨勢など瑣末な問題でしかない。
アレックスに追随した各都市の領主もまた、アレックス陣営の敗北の報せが大陸を駆け巡った後、ほどなくして投降。真に王たるトルヴァンテの沙汰を待つこととなる。
それと同時、サードレマとニーネスヒルを同時に襲撃した二体の怪物……「赤」は斬首を以て討ち取られたものの、「緑」は決戦の最中に突如として転身、開拓者達の追跡を振り切って森の中へと姿を消したのだった。
───それより数日後。
エインヴルス城………は諸事情で使えない状況であったため、サードレマ大公城にてサードレマ大公ノアベルトの立ち会いのもと、国王トルヴァンテは罪人アレックスに裁きを下した。
「我が息子アレックスよ、お前を国外追放とする」
エインヴルス王国は大陸全土を遍くその手に収めた統一国家。国外追放とは即ち、二度とこの地を踏むことはない……事実上の流刑であった。
いっそ、一思いに首を刎ねた方がまだ楽に死ねる宣告。しかしこの場で殺さない以上、それは慈悲だ。
手枷をつけたまま、つい先日までは仮にも「王」であった姿とは比べ物にならない姿のアレックスは暫し黙した後、頭を下げた。
「…………国王陛下の、格別の慈悲に感謝を」
「勘違いをするでない」
「………?」
だが、国王トルヴァンテは自らが告げた断罪を受け入れた息子に対して、自ら待ったをかけた。
「此度の内乱、開拓者達に多大な苦労をかけさせた……じゃがそれ故にこそ、意思ある限り再来する彼らが骨を折ったのみで戦う術を持たぬ民たちの血はほとんど流れなかった」
事実である。
イベントルール的にNPCを狙うメリットはごく一部を除いて殆どなく、更に言えばシャンフロはそのリアリティ故にプレイヤーキル以上にNPCキルは忌避される方向にある。
立ち位置、進行するクエスト、それらによって「このNPCを害してもよい」とゲームシステム側から保証されたプレイヤーですら躊躇う程に、シャンフロにおけるNPC殺しへの忌避感は広く浸透している。
更に、騒乱中に各地で起きた"ベストバウト"……
配信者達を打ち破ったプレイヤー達、一騎当千の活躍を文字通りやってのけた騎兵。
国を真っ二つに割ってのプレイヤーによる盛大な殴り合いはおおよそ好意的に受け入れられていた。
強いて被害を受けたNPCがいるとするなら、城の崩落に巻き込まれた王城に控えていた騎士達だろう。
「お前が新たなる大地に息づく者たちを嫌悪していることは知っておった」
「…………」
それは、此度の内乱のそもそも。
全ては新大陸に生きる亜人達に対するアレックスの嫌悪から始まった。
人ならざるそれを人と認められぬが故に、アレックスは新大陸を武と覇を以て征するべきと声を上げた。それは交流と友好を以てあたるべし、という父の意思と反するが故に。
「知らぬを恐れるは容易い。故にこそ、知ることを厭うてはならぬ……しかし───」
◇
「元王太子は新大陸に流刑かぁ」
「王位継承権は厳密には剥奪されてないっぽいよ。新大陸の実質的な指導者として……ま、要するに左遷だね」
サードレマ上層。市民が生活する下層とは異なり、大公城を中央に据えた洗練された建築物が並ぶサードレマに住まう者の中でも”上”に属する者達が住む場所。
その中でも、大公城を除けばかなりの大きさを誇る屋敷にクラン【旅狼】の面々(約二名除く)は集まっていた。
「いやー! 上流階級サイコー!」
ペンシルゴンが喜びを隠さない声を上げながらぼふん、と質の良いソファに勢いよく腰掛ける。
「……メイドがいるクランハウス。中々良い」
元は大公家が保有する別宅の一つ。今回の内乱での戦功により、褒賞として賜った邸宅は家具のみならずメイドまでいる、という充実っぷりである。
飲み物をメイドから受け取ったルストが満足げに頷く。サードレマ防衛に多大な貢献を示した他の面々もまた、サードレマ大公より褒賞として多額のマーニを受け取っている。
「そういやサンラク君は?」
この場に来てはいるはずの人物が、しかし不在であるという矛盾に対してペンシルゴンがリリエル=217にマカロンを与えながら疑問を示せば、何やら熱心にステータス画面を眺めていたオイカッツォがにや、と笑いながらそれに答える。
「ほら、あいつ渓谷で結構大立ち回りしてたらしいじゃん?その件で王女様に褒めてもらってるんだよ」
くくく、と笑うオイカッツォ。それはサンラクにとってあの顔と相対して愛想笑いを浮かべるのがどれほどの精神負荷を強いるかを知っているが故に。
「ま、サンラク君がもんどりうって苦しむ分にはどうでもいいけど………王女サマともコネがあるのはいいね。我らが【旅狼】は規模こそ小さいけど、これでサードレマ大公家と王家に大きく恩を売れている! うーん、素晴らしきかなコネと権力!!」
「まずいな……明日には何かしらの不正が発覚して全員打首かもしれない。こいつ悪行の蛍みたいな存在だから」
「だーれが光るだけ光って死にゆく虫だって? ま、デカい拠点を確保できたのは大きいよ。好きにカスタマイズもできるしね!」
「……つまり地下に大規模ガレージを作っても」
「普通にリヴァイアサンなりベヒーモスなり利用した方がいいと思うけど?」
「……むぅ」
不満げながらも納得したのか、黙り込んだルストに代わって秋津茜が挙手をする。
「はい!」
「はい秋津茜ちゃん」
「私、素材加工ができる部屋が欲しいです!」
「いいよいいよ~、忍者も大概アイテム依存ジョブだしねぇ」
続けて、そわそわと不在の誰かを待っていたサイガ-0(現在男性アバター)もおずおずと挙手をする。
「その……厩舎とかも、大丈夫でしょうか?」
「あー、0ちゃんなんかごつい馬テイムしてたもんねぇ……私が近づくと噛みついてくるけど」
「あ、それ俺も」
「私が触った時は大人しかったですよ?」
「サイガ-0です……はい、そのインベントリアに格納しておくこともできるみたいなんですが、せっかくなら外に出してあげた方がいいかなと……」
「ふふふ……この屋敷は庭付き噴水付きの豪華仕様、厩舎増やすくらい容易い容易い」
「……なら駐輪場が欲しい。こう、噴水を割って地下からせりあがってくる感じの」
「うーん、ルストちゃんはもうちょっとこうファンタジックな建造物の雰囲気守ろうか」
「ルスト……スーパーロボットの秘密基地じゃないんだから……」
と、その時だった。
「おーう…………ここが【旅狼】の新拠点か…………中々いいところじゃねーか…………」
ぐったりした様子のサンラクが窓から入室してきた。
突然窓から入ってきた不審者にNPCは目を丸くするも、プレイヤーからすればこの人里ではお天道様の下を歩けないプレイヤーが、妙な場所から現れることに大した驚きはない。
「あ、サンラクく……さん」
「ああレイ氏。どうもね………」
心なしか声色が高くなったサイガ-0に挨拶を返しながらも、そのあまりにも枯れた植物の如き萎れっぷりに「何故そうなったのか」を知るオイカッツォがにまにまと笑いつつ問いかける。
「どうだったよサンラク、美人のお姫様と楽しく会話した感想は」
「分かって聞いてんだろ…………「お兄様をどうかよろしくお願いします」だってさ」
王女アーフィリアの兄、即ち新大陸に追放となるアレックスが反乱を起こしたそもそもの理由が新大陸に住まう亜人種への偏見と嫌悪によるものである以上、彼らのホームタウンならぬホーム大陸である新大陸に流すことは、ともすれば死以上に残酷な刑罰となる。
「とはいえ………」
アレックスに流刑が言い渡されたのが数日前、本来ならば新大陸調査船の帰港を待って、それから新大陸へと向かうことになるはずだったのだが。
「頼まれたからには、エスコートしてやらないとなぁ……迅速に」
王族達に一つだけ誤算があったとするならば。
「日が沈む前に新大陸に発送してやるよ」
新大陸は既に、"開拓者の流儀"で回っているということだ。
18巻のな、作業をな
片付けてやったんでな
まぁちょっとだけ恥ずかしさで顔爆発しかけたけど
楽しみにしといてくださいよ!!