12月20日:Definition of a Brave
ありったけのデッドアックスへの怒りを込めながら掘ったジャガイストの墓穴の前にて
王認勇士アルブレヒト。
その攻略を考えるにあたってペンシルゴン達RPA……レッド・ペンシル・エージェンシーは一つの結論を早々に算出した。
───長期戦になったら無理。
シンプルにリソース差で勝ち目がない。
RPAの面々は個々の
全員が本気の装備で、尚且つ綿密な作戦と都合の良い状況が揃えばあるいは、と言えるかもしれないが。
だがそもそもアルブレヒトの攻略は
主目的はあくまでも新王アレックス、それ以外は王認勇士をして単なる邪魔者でしかない。
さながらドラゴンの巣から卵を盗み出すようなもの……倒さない方が楽ならばそれに越したことはなく、そうであるなら倒さずに攻略する方法を編み出せばいい。
◇
「それ!」
「む!」
鍔迫り合いの拮抗が徐々にペンシルゴンの有利へと傾いている中で、突如としてペンシルゴンから放たれた蹴り。
一瞬迷うも、アルブレヒトはあえてその蹴りを受けて後ろへと下がる。不利からのスタートとはいえ、ジリ貧の均衡を押し込まれ続けるよりは勝ちの目がある。
腹への蹴りは大したダメージではない、二歩後ずさる間にダメージを把握したアルブレヒトは王盾クリスタル・パラディンを構える。
種も仕掛けも分からないが、少なくともあの刀はそうあるべき結果を捻じ曲げる力を秘めている。向こうが決して
「ジゼル!」
『アルブレヒト!』
傍に立つ者、ジゼルから力が送り込まれる。
アルブレヒトの全ステータスが上昇し、王盾クリスタルパラディンを構成する水晶が反射する光に神秘性が混じる。
ただ受けるだけでは先程と同じになりかねない。であれば受けて返す、受け止めた衝撃に対してそれ以上の衝撃を反射する。
既にカウンターからさらに攻勢へと繋ぐための剣にはジゼルが渾身の力を込めている。常に共に在ってくれれる"信頼"に応えるべく、アルブレヒトは王盾クリスタルパラディンの力を解き放つ。
決して破れぬ不落の壁、勇士の意志によって放たれる輝き、されど……
「はい、チェックメイト」
「命は勘弁してあげる」
するり、と。
王認勇士に大差であれほどの優位を齎した刀が。それを振るうための籠手が。
あまりにもあっさりと、ペンシルゴンの手……腕からすっぽ抜けた。
その鮮やかさたるや戦士としての強みを投げ捨てているにも関わらず、それこそが正解なのだと言わんばかりで。
「練習でドジっても本番で一発成功なら問題ないってわけ」
虚空から穂先。
無から現れたそれが星明かりを受けて……されど、太陽の如き黄金の輝き。
ペンシルゴンの手が穂先を撫でて、そのまま現れた黄金槍は真っ直ぐ王盾クリスタルパラディンの発生させた守護の壁に触れ───
そのまま水面を貫くが如く、するりと抜けた。
「な…………!!?」
「ウチの鉄砲玉二人直伝……インベントリア居合、なんてね」
とす、と。
あまりにも軽い音が、しかしクリスタルパラディンのみならずアルブレヒトの鎧すらをも容易く突き破ってその肉体に突き刺さる。
大して深く刺さってはいない。だが、アルブレヒトは気づいてしまった。今は無双のアルブレヒトとて、初めからそうではなかったからこそ……覚えがあった。
「きさ、ま……毒、を……!!」
「ゴメンネ騎士サマ、私の顔に免じて許してよね。世界最強の免罪符だから」
聖槍カレドヴルッフ。
その穂先には最高クラスの防御貫通性能が宿る。
知り合いが湯水の如く使う素材で出来た盾如きに防げる道理なし。
まして盾から発生する防御フィールドなど、貫くは盾本体で防がれるよりも遥かに容易い。
そして、取り出す最中に穂先を撫でたペンシルゴンの手には、黄土色の粘土のようなものが。
「麻痺毒………!!」
「じゃあねジゼルちゃん、治すなら丁寧にやらないと……"後遺症"とか残っちゃうかも?」
『貴様!』
見え透いた嘘、しかし可能性をゼロ以下に出来ないならば僅かな真実味で人は殺せる。
ペンシルゴンの腕に装着された「回収者」が打ち捨てられた【ハービンジャー】及び【春嵐】を回収。
そのままペンシルゴンは……アルブレヒトに背を向けて走り出した。
救うべく進んだアルブレヒトに対して、立ち塞がったペンシルゴン。それが背を向け駆け出したならば向かう先は………
「へ、陛下……!」
王手。
インベントリア居合。
インベントリアからアイテムを出す場合、どう出すかをプレイヤーの意思で決定できる。手元に出すこともできるし、地面に突き立った状態で、なんてのも可能。
それを利用して「最強の防御貫通武器を不意打ちで叩き込む」というタンクがキレ散らかすテクニック。
相手に穂先を向けた状態で展開。
握りつつ穂先に麻痺毒を塗る。
そのまま前に突き出す。
この三工程を澱みなくどんな状況でも出せるようにペンシルゴンは地道な反復練習をする事になった。
サンラク「ぶっつけ本番でも八割はできる」
カッツォ「練習したらミスは一割以下にできる」
ペンシルゴン「(唾を吐き捨てる音)」