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12月20日:我が忠義は十五剣の冠に捧ぐ

今回の火古戦場は流石に硬梨菜自身がガチで走らないとあかん案件だったので妨害工作が出来ませんでした………極星器の仕様が極悪すぎる

王認勇士アルブレヒト。

エインヴルス王国第一騎士団々長であり、王家より直々に「王が認めし最も勇猛なる騎士」の称号を授かった……という設定のNPCである。

王家に仕える騎士でありながらその容姿と性格はまさしく「王子様」、だがアルブレヒトの名はそのキャラクター性以上に戦闘能力(・・・・)によって話題となることが多い。


そも、アルブレヒトの「王認勇士」は称号であると同時に、彼のみが持つジョブの名前でもある。

その性能たるや凄まじく、攻防共に「ブッ壊れ」と言って差し支えない補正が付与されたアルブレヒトの戦いはまさしく「あらゆる盾を貫く剣」と「あらゆる剣を防ぐ盾」……矛盾を成立させてしまっている。


過去、数多のプレイヤーが「王様殺したらどうなるんだ?」と疑問を抱き、悪意を抱いた。その全てを殲滅せしめた最強の「お仕置きNPC」………前王陣営にその姿がなかった以上は、その敵側陣営にいるであろうことは自明の理。

前王陣営の中枢に潜り込んでいたペンシルゴンであったからこそ、その事実に誰よりも早く気づいていた。


即ち、「これ陣取りゲーム以外で新王陣営に勝つ方法なくない?」と。

だが、ペンシルゴンが選んだ「手」はアルブレヒトとの対決であった。


王認勇士アルブレヒトの戦闘力は恐らくトップ帯のプレイヤーと同等か上回る。実質的に「種族人間のボスモンスター」であるとペンシルゴンはそのように「前提」とした。


(ウェザエモン並、とは流石にないだろうけど……第一形態くらいの強さは覚悟しといた方がいいよね……ホント、参っちゃうよ)


本人達の前では絶対に言うつもりはないが、あの時は飛車角……否、龍王龍馬がいたからこそ勝てた戦いでもあった。

RPAのメンバーは決して弱くはないが……身内贔屓を含めてもと金(・・)の軍勢、と言ったところだ。

即ち、龍王龍馬超合体ドラゴンライダー・イケメンパラディンをと金(・・)の手勢で打ち倒せるかは、指し手たるペンシルゴンにかかっている。


「こちら「私」、脱落した空骨は当初の予定通り地奔に合流させる。城内突入が難しそうなら最悪城下町で破壊活動だね、外から中に戻るプレイヤーの妨害」


『こちら発条、了解同志(ボス)。こっちも急ぐか?』


「……いや、下手に罠起動して気づかれるのが一番まずいかな。慎重第一で」


秘密の抜け穴を逆行する「発条」部隊は上手くいけばこの戦いを一発で終わらせる可能性を秘めている。それ故に優先度は最上位、「空骨」だけではなく最悪「地奔」を使い潰してでも、温存すべき隠し弾だ。


『了解。まぁつまり地奔には命懸けで耐えてもらわんとやね』


『こちら地奔! 完全にボスエリア前のセーブポイントみたいな威圧感の扉の前なんですけどこれ普通に入ったら死にそうですことよ!?』


「あはは、何言ってんのさ」


突入直前の「地奔」からの泣き言に、ペンシルゴンは爽やかな笑みを浮かべて告げる。


「何のための銃火器武装なのさ、流れ弾で新王ヘッショを期待して初手火力押し付けなきゃ」







「突入!!」


玉座の間に到達した「地奔」は各々が得意とする得物から銃火器へと武装を切り替える。


「撃て撃て撃てーっ!」


「年貢の納め時ですわよお兄様ーっ!」


リヴァイアサンの浮上、神代との再会、そしてその力の解放は開拓者とエインヴルス王国の間に数世代分の技術的格差を生み出した。

そも、星間航行を可能とする技術力の本質的な強みは画一的量産性にこそある。レベル100の戦士を一人育てる手間でレベル50の銃士を十人配備する……一人の英雄ではなく十人の精鋭を、一つの戦場に英雄を一人送るのではなく五つの戦場に二人ずつ精鋭を送る。それが科学の本質的強み。


だが、その「正解」が通らないのがシャングリラ・フロンティアだ。


『───「言霊(ことば)」。』


銃声が列をなして鳴り響く中を、すり抜けるように彼らの耳に届いた鈴を転がすような声。それは彼らの聴覚が優れていたからではなく、また銃声に負けぬほどの大音量であったわけでもない。

それが世界にとって優先されるべき音(・・・・・・・・)であるが故に。


『───【アナタハマケナイ】』


まるで愛を囁くような、優しい声色が誰かの勝利を約束する。

一体誰に対するものか、それをこの場で論じるのはあまりにも愚かと言うほかない。


「おおおおおっ!!」


突入と同時に張られていた弾幕は、しかし"クリスタルのような"半透明な壁に阻まれその全てが迎撃されていた。

そして今、その壁が銃弾を浴びながらも前に進む。その中心、壁の発生源………馬の尾の如く纏めた黄金の髪を揺らし、水晶の盾と輝ける霊剣を構えた王認勇士の前進と共に。


「なんだありゃ!?」


「王盾クリスタルパラディン……!」


「MP使ってる限り絶対に砕けないバリアを貼るんだっけ!?」


「じゃあその内消えるんじゃ……」


それはない(・・・・・)!」


勇士の傍には常にそれがいる。


『さぁアルブレヒト、私の勇士。力を示して………』


大精霊ジゼル。美しい女、英雄を見送りながらも傍に在りたいと願う想い、力ある祈り。

アルブレヒトと共に在る精霊であり、口さがないプレイヤーからはこう呼ばれる。


外付けMPタンク(だいせいれいジゼル)! アイツがいる限りアルブレヒトはMP切れを起こさない!!」


「なんだそのチート!?」


無敵の防御と、尽きせぬMPリソース。故に王認勇士アルブレヒトは王家を守護する最強の盾である。

そして、


「───「束ねし霊光(ピスティソラス)」!」


アルブレヒトの持つ剣がひときわ眩く輝きを放つ。否、それは単なる光ではない。剣より放つアルブレヒト自身の「飛ぶ斬撃」を剣自身の能力によって強化、さらにジゼルによるバフも外付けで加算されたトリプルシナジー。


「ちょばっ!?」


右の首筋から左の腰へ、斜め一閃に真っ二つにされたプレイヤーはそこでようやく悟った。

玉座の間に似つかわしくない鋼鉄の残骸。異様なまでに平坦で凹凸の無い切断面(・・・)の正体はそれか、と。


王認勇士アルブレヒト。ジョブ、装備、本体性能……三役合わせて誰が呼んだか「公認チート」。

その切っ先が、不遜極まりない侵入者たちへと迷いなく向けられた。

アルブレヒト:兜を付けるとジゼルが露骨に不機嫌になるので兜はノー装備。今回の内乱に関してはとてもとても複雑な心境だが、騎士として十五剣の冠に捧げた忠誠に従って戦っている。本来であれば先陣を切って邪悪なる緑の軍勢に立ち向かうべきは騎士団であるべきはずなのに……と思いつつ最前線で代わりに戦ってくれる開拓者たちにはとても感謝している。心が清いので。


ジゼル:それを隠すなんてとんでもない!!!!!!!!!!!!!!

今回の内乱に関しては割とどうでもいい。人間って愚かな生き物だな~とは思いつつ始源眷族に関しては最大警戒。アレは似て非なる故に、しかして己ら(・・)の辿った末路かもしれないが故に。

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