12月20日:アーフィリアン
かつて、それはユーザーがプレイヤーとなり、開拓者となるその始まりよりもさらに前に。
既に演算を開始していた世界において「アレックス・エインヴルス」とは決して愚かな
彼は"嫌悪者"である。
───節のある腕など! 不快な音を立てる翅など! おぞましき複眼など!
───これのどこが人だと!
あるいは彼の不幸は、一番最初に遭遇した新大陸の「人類」が蟲人族であったことか。
あるいは耳以外はほぼ違いのない森人族であったなら、まだマシであったかもしれない。だが一度刻み込まれた第一印象は拭がたく、そして傷というものはえてして癒えねば膿む。
───新たなる新天地、そこに巣食う"バケモノ"共。エインヴルスの「開拓」において、それらは全て排除せねばならない!
───父よ、あなたは良き父であり良き王だ。貴方への尊敬は王冠を簒奪した今なお色褪せない。
───だが惰弱だ。
───エインヴルスは新大陸に対して「覇道」を敷かねばならぬ。
───そして同時に簒奪者になったのならば徹さなければならない。
───たとえ、それが覇道ではなく邪道であったとしても。もはや退くことはできないのだから。
とはいえ、語られない行間を読み解く方法はない。地の文に僅かに名が記載される程度の存在の内心など、ましてやサービス開始前の演算を前提とするキャラの設定など知る由もないのだ。
故に、今新王陣営を襲う
「へ、陛下っ!」
「どうした、侵入者か!!」
「は、はいっ! ただ………」
「はっきり申せ、何が起きている。この轟音は! 兵たちの混乱は! なんだというのだ!!」
「お、王女殿下が……」
「アーフィリアが? まさか奴が兵を率いて攻めてきたとでも?」
「ち、違います陛下……その………」
「侵入者が全員、
「…………………はあ?」
新王アレックスに迫るは、酷く悪ノリした、悪党共による悪趣味な悪ふざけだ。
◇
『こちら
空中から、同じ顔をした女達が爆撃を敢行する。エインヴルス城に対空設備は存在しない。したとしても、対地爆撃という圧倒的アドバンテージをエインヴルスの文明レベルでは覆せない。
『こちら
地上から、同じ顔をした女達が突撃を敢行する。エインヴルス城を守護するは主にNPC達だ。だからこそ、己らが守るべき青き血の王女殿下が大挙して襲い来るという現象は………恐怖以外の何物でもない。
『うーいこちら
地下から、同じ顔をした女達が突入を開始する。エインヴルス城から地下水道に密かに逆行し、事前の情報通りに
三面同時侵攻、狙うは新王アレックスの首一つ。簒奪者に死をもって報いを、と書けば忠義に厚い復讐劇に見えなくもない。だが、その全てがある特定個人と同じ顔を模している、となれば不気味さ一色に染められてしまうというもの。
さらに言えば、その全てが本物のアーフィリアよりも強い暗殺者たりうる脅威であり、そして何よりも………
「戦争故致し方なーし!」
「大義の為の小さなぎせーい!」
「イベント判定サイコー!」
『爆撃の二次災害とか知ったこっちゃなーい!』
全員、NPCに対するタガが外れている。
王家を守護する兵士、衛士、騎士。袂を分かったとて、本来は己が身命を賭して守るべき王女アーフィリアそっくりな襲撃者に、彼らの構える鋒はその鋭さを鈍らせる。
「襲撃かッ!」
「なっ……王女殿下ッ!?」
「何が……ぐわっ!?」
揺れる武器を弾き飛ばし、遠慮容赦のない一撃で兵士たちが打ち倒されていく。中には新王側に与したプレイヤーもいたが、襲撃者達は
それは”どこか”で培われた英雄殺しの手順。最低限の数的有利で最大の戦果を得るための国盗りマニュアル。
「城内にどれくらい罠あると思う?!」
「本命の道以外は全部地雷原でもまぁ納得ってくらいじゃね?」
『こちら空骨、一通り爆弾使い切ったからこれより本丸に突入かけまーす』
「やっぱ空ルートが一番ヌルいよな~」
新王陣営の警備は筒抜けだ。それは彼らの陣営におけるプレイヤーの実質的指導者陣営から情報が洩れているからであり、それ故にありがちな「抜け穴」がブラフであり、実際の新王アレックスの脱出ルートが封鎖の甘い裏門からであることも既に情報が握られている。
地上での陽動班はその本命からの侵入を試み、城内兵士の警備を突破しながら城内へ突入。トラップを警戒しつつも、順調に玉座の間へと近づきつつあった。
空中からは直接玉座の間へと戦術機部隊が突撃を始めており、さらにはトラップを承知で抜け道からも侵入者。手勢としては100人に満たない彼らであったが、数の不足を補って余りある手際の良さをもっていよいよ新王アレックスに王手をかけようとしていた。
だが、
『こちら空骨! やーばい! これ非常にまずいです!』
『こちら発条。なんか不吉な通信入ってきてるんですけど』
「こちら地奔、現在玉座の間まであとちょい。どうした?」
『
ザザ、とノイズ。それを最後に先行で突入した『空骨』との通信が途切れる。
戦術機の戦闘力は生身のプレイヤーよりも基本的に上の数値だ。無論、戦術機を迎撃しうるプレイヤーは探せば濡れ手で粟とは言わずともそれなりの数は見つかるだろう。
だが、実際に戦術機で武装したRPA部隊が迎撃された、という事実は襲撃者たちに既視感のある予感を彷彿とさせた。
───かつて、彼らの王朝を……否、彼女の王朝を滅ぼした二人の暗殺者。数の有利を質の有利でひっくりかえしたバランスブレイカー達。あるいは、このゲームにもいるのだろうか? と。
◇
「…………空骨全滅、か」
通信機器越しから、彼らの断末魔を聞いたペンシルゴンは………彼らが最後に残した言葉から、作戦会議の時点で「最大の障壁」として最も警戒していた
「王認勇士アルブレヒト………王国最強の