<< 前へ次へ >>  更新
904/908

12月20日:決着と実のところ

文字数と展開を進める……!進めるのだ……!!正直書いてるうちに「あれもしかして24日に到達するまでにn+1ページ必要になるか……?ってなるの硬梨菜がマトモなら世界の方がおかしいってことになりませんか?


ばたり、と黒煙から人の姿に戻って倒れた(・・・)ガル之瀬の姿を見て、最初に思ったのは「やらかした!」だった。

死んでないじゃん! まだ残機あるじゃん!! どうすんだよ、割と隙だらけだぞ今の俺!!


しゅぼぼ、と己の顔を覆う仮面の煙が一気に勢いを損なっているのが分かる。タイムリミットだ、今の俺は全ステータスが元々の数値の0.5倍……つまり半減してしまっている。脅威のVIT数値0.5……! ティッシュペーパーより脆弱な肉体、今ならワンチャン貪食の大蛇に噛まれたら一撃で死ぬのでは?


ど、どうする? 追撃か? 今のステータスで削り切れるか? ガル之瀬の蘇生効果はどうも体力半分くらいまで回復した状態で蘇生される。半減ステータスで削り切れるか? ああくそ、煌蠍の籠手があれば……いや、未だと下手すりゃ反動で死ぬかあるいはステータス不足で使えないまであり得るぞ。


チェックメイトを宣言したら「じゃあ今から互いの駒を入れ替えます」って言われたような気分だ。詰み盤面でそんな綺麗に捲られることある? これ配信に乗ってるんだぞ? もしかして俺今から全世界に赤っ恥晒すことになります?

お、落ち着け……イベント終了まで残り二分、終われ終われ終われ。「イベント終わったからこれくらいで勘弁してやる」を使うしかない……ッ!

つーか別動隊(ほんたい)のペンシルゴンはなにやってるんだよ! なんならイベント終了時間より先に勝っちゃおうかな~」とかフかしてたくせに! 狡兎死して走狗烹らるだぞあの野郎………戦いが終わったら戦後処理のどさくさに死因:不慮の事故にしてやる………!


クソ………今思えばちょっと慎重になり過ぎていた。もっと早いタイミングでこの究極初見殺し叩き込んでおけばもうちょっと「炭鴉」の効果時間を残せていたのに………!

いやだってゲーマーって負け確の時が一番無駄に冴え渡るっていうか、下手すると「これぞ究極奥義指パリィ……!」とかしてくる可能性がゼロじゃなかったし………というかタワシ破壊するか! とかなんでそんなアホな作戦立ててたんだ。

どうせ使うならさっさと使えばよかった…………いや本当今から配信切ったらギリ誤魔化せないかな、うーわ向こうも配信してるわ。肖像権とかさぁ………プライバシーとかさぁ………まぁその、シャンフロの利用規約とか正直読み飛ばして既読マーク付けたけど………


脳裏を嵐の如く吹き荒れる泣き言と言い訳はあくまでも脳内でのみ暴れており、しかしそれ故にどこにも逃げ道がない泣き言い訳(・・・・・)の台風がいつまでも熱帯低気圧にならずに回り続けている。

辞世の句考えとくか? 辞世の句って季語いらないよな……?


「うーん………ミリ残し 俺のせいじゃない 乱数のせい………」


「………はぁー………降参だ」


「字余り………ん? え、なんて?」


ガル之瀬君、今世界で一番俺にとって都合のいい言葉を口にしなかった?


「降参だ降参。流石にガチ装備全没収は萎えるし、イベント終了まで死んだふりで時間稼ぐくらいなら潔く降参するさ」


今脳内で二頭身のウェザエモンがバッと「あっぱれ!」と書かれた扇を広げる姿が映像として流れた。


「ま、まぁ装備は大事にした方がいい………うん。俺は降参を笑わないよ、うん」


「……口元笑ってないか?」


「実は口内炎なんだ」


いや本当、これは君を笑ったものじゃあないんだよ本当(マジ)だよ。おっと、ガル之瀬君そうやっていつまでも地べたに横たわっているのもあまりよくないだろう、配信中だろ? 手を貸すようんうん。

差し伸べた手を掴んだガル之瀬を引っ張り上げるように起こす。


「まぁまずはあれだな、GG(グッドゲーム)……いや本当、シャンフロの対人でここまでヒリついたのはガチ勢クランの団長と戦った時以来だ」


サイガ-100のあれは対人っつーかウェザエモンとかと一緒でそういう人型ボスって感じだったが。


「……勇者剣聖に匹敵できたなら、誉め言葉として受け取るか」


「世辞じゃないぜ、まぁ………一応前王陣営だから、例の復讐(・・)は勘弁してもらうけどな」


「……………………………………」


復讐の炎はそう簡単に消えやしない。仇を燃やす劫火は同時に自分を永遠に(さいな)み続ける火傷のようなもの。それを諦めろとは言いづらいし、ゲームだったらむしろやっちゃっていいんじゃね? とも思わなくもないが…………ちょっと一回運営にお気持ちメール送ってみようかな。同じ苦しみを抱く同胞がいる、ってのが割と心強いのもある。

長く沈黙していたガル之瀬の胸中は察して余りある、俺が成人だったら酒でも酌み交わして恨みつらみを肴にしてるところだ。


「……お情けの降参だ、条件を呑む。後で横紙破りしてもダサいだけだ」


とりあえずこれで前王陣営としてのメンツは保てただろう。ワタシ、オウジョサマ、マモル。ホント、ホント。

そしてそんなことをしているうちにいよいよイベントの開催期間が終わりを迎える。それは同時に、シャンフロ史上屈指のクソアプデ………死亡時の所有アイテムに関する裁定がイベント開催中以前に戻るという事だ。

いや本当……百万歩譲ってイベント中そうなったのはいいよ。サイレント修正はマジでありえねぇ……お気持ちメール送ったからなマジで。こういう時だけ明らかに定型文な謝罪メール送られてきたけど。


「さて…………これにて組手は終わりなわけだが………あー、こういう時って告知とか聞いた方がいいのか?」


「そこまで無理して配信に合わせてくれなくていいが…………」


「なるほど、じゃあ俺から一つ(・・・・・・・・)


「……何?」


自分の配信枠で言って終わりにするつもりだったが、せっかくだし天下の人気配信者様の集客力にあやかるとしよう。


「来たる12月24日に───」

あるよね、実は盤面処理で手札リソース力尽きててリーサル届かないんだけど相手が勝手にサレンダーしてくれたり、実は残りの手持ちだと等倍以下の技しかなくてテラス込みで粘られたら普通に負けるんだけど相手がサレンダーしてくれたりするやつ。



16巻、12月15日発売してます! 連続更新することで宣伝力を上げていくタクティクス……ッ!

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

<< 前へ次へ >>目次  更新