12月20日:
間に合え………ッ!Xデイ……ッ!!
◇
ひとつ。ガル之瀬が失念していたことがひとつだけあった。
ガル之瀬自身がその詳細を把握することはできないとはいえども、「サンラクが何かしらによって大幅に自身を強化した」という一点を理解していたのであるならば、それに思い至るべきであった。
ひとつ。サンラクが狙っていた
自分が既に"急所"へと穂先を向けられていたのだと、気づくのが遅れたこと。それがガル之瀬が見落としたただひとつの───
パシッ
まるで投げられたボールを受け取ったかのような。勢いよく動くをものを、受け止めきって運動エネルギーを打ち消しきったような音。
「な…………」
「スキルエフェクトが出てないぜ………?」
メイスという武器はその構造上、持ち手が長く作られている。バットというよりはハンマー、剣というよりは斧。それは「持っていい」場所が長いということ。
「防御の最上級は受けるでも避けるでもない……
渾身の、しかしただSTRのパラメータのみで振り抜かれたメイスがまさしく力尽くで掴み、止められている。
ガル之瀬が攻撃に付与するスキルが尽きたその瞬間のみを狙った力技、種族としてのスペックが同じ人間相手だからこそできる強き振る舞い。
ガル之瀬がそれに気づいたのは
「【
残り少ないMPを、それでも無理に燃やしてメイスを巨大化させること。
丸太ほどになった持ち手を握っていた二人の手が弾かれ、
「
メイスが巨大化した時点で……否、
握って掴む、という性質上当然ながら持っていた武器は地面に落ちている。拾い上げる隙は致命傷、「回収者」はこの至近距離の攻防においては
であるならば、と言わんばかりにサンラクは地面に横たわっていた皇金剣を……蹴り上げた。
メイスの争奪、という起点から先手を打ったのはガル之瀬ではなく……その前段階、武器を足元に捨てた時点からサンラクが先手を打っていた。
空の手に、跳ね起きた皇金剣が逆手で握りしめられる。ガル之瀬の目にはどこかスローモーションに見えていたそれが純然たる殺意を帯びて一気に加速する。
(死───ッ、いや死なん!)
この距離、この体勢、この軌道。一瞬の情報と経験則がHPの全損はあり得ないと判断を下す。
「つ……っ!」
「まだまだァァァァァァアアアアア!!」
胴鎧と皇金剣がガリガリと不快な音を立てて……閃光。
超至近距離でサンラクの大きく開けた口から灼熱の光が発せられている、と考えるよりも先にガル之瀬はメイスを捨てた右手でサンラクの下顎を無理やり閉じるように殴りつける。
「うぐっ!」
押し込まれた衝撃でサンラクの顔が明後日の方を向き、噴き出した炎が虚空を焼く。
だが煙の中で炎の眼だけはガル之瀬から視線を外さない。振り下ろされたアラドヴァルを
───実のところを言えば、サンラクは今現在ガル之瀬の行動の全てを完全に把握している。
スキルによる思考加速が「目」に由来する分類であるが故に、
では、何故ガル之瀬の攻撃をサンラクは避けられなかったのか。それは今がスキルの切れ目であるからだ。
「愚者」の権能によってスキルのリキャストタイムが半減しているとしても、リキャストタイムそのものが無くなったわけではない。
どうしても無くすことのできないスキルの使用可と使用不可の切れ目、スキル特化したサンラクが「一番弱い」タイミングが今、訪れていたのだ。
サンラクはそれを承知で前へ出た。それを
そしてガル之瀬はそれを今
(武器は捨てさせた! リスク覚悟であのタワシに
(MPが足りない、武器は足元、残りカスの盾攻撃スキルで仕留める? 無理だ、明らかに一撃死の突っ込み方じゃない。HPは回復していると見るべき! 残ったスキルで組み立てろ、この盾が最終防衛ライン……!!)
互いに余裕は無い。激闘の中で削ぎ落とされた余裕の、リンゴの芯のように残った僅かな「手段」を如何に活用するべきか。
その逡巡と戦意が、ほんの数秒……互いの動きが止まるという偶然をもたらす。
(いや、こうなったらこっちも燃やしきるしかねーよなぁ……!)
(ここが最後の勝負所……
((次でケリをつける……ッ!!))