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12月20日:

間に合え………ッ!Xデイ……ッ!!


ひとつ。ガル之瀬が失念していたことがひとつだけあった。

ガル之瀬自身がその詳細を把握することはできないとはいえども、「サンラクが何かしらによって大幅に自身を強化した」という一点を理解していたのであるならば、それに思い至るべきであった。


ひとつ。サンラクが狙っていたたったひとつ(・・・・・・)のチャンス。


自分が既に"急所"へと穂先を向けられていたのだと、気づくのが遅れたこと。それがガル之瀬が見落としたただひとつの───



パシッ



まるで投げられたボールを受け取ったかのような。勢いよく動くをものを、受け止めきって運動エネルギーを打ち消しきったような音。


「な…………」


「スキルエフェクトが出てないぜ………?」


メイスという武器はその構造上、持ち手が長く作られている。バットというよりはハンマー、剣というよりは斧。それは「持っていい」場所が長いということ。


「防御の最上級は受けるでも避けるでもない……防ぐ(・・)んだよ、未然になぁ!!」


渾身の、しかしただSTRのパラメータのみで振り抜かれたメイスがまさしく力尽くで掴み、止められている。

ガル之瀬が攻撃に付与するスキルが尽きたその瞬間のみを狙った力技、種族としてのスペックが同じ人間相手だからこそできる強き振る舞い。


ガル之瀬がそれに気づいたのは二番目(・・・)の思考だった。では一番目は? まずガル之瀬の脳を駆け抜けた思考は……


「【小人の尺度(ブロブディンナグ)】!」


残り少ないMPを、それでも無理に燃やしてメイスを巨大化させること。

丸太ほどになった持ち手を握っていた二人の手が弾かれ、想定通り(・・・・)の現象に動いたのもまた二人同時だった。


それ(・・)か捨てるかの二択だと信じてたぜ!!」


メイスが巨大化した時点で……否、音声認証の(こえがした)時点でサンラクは既にメイスの奪取を放棄していた。

握って掴む、という性質上当然ながら持っていた武器は地面に落ちている。拾い上げる隙は致命傷、「回収者」はこの至近距離の攻防においては手間がかかる(・・・・・・)


であるならば、と言わんばかりにサンラクは地面に横たわっていた皇金剣を……蹴り上げた。

蹴武(スキル)「スタンダップ・リフティング」。地面に落ちている武器を手元、または足元まで跳ね上げるスキル。攻撃性能は皆無であるが、このスキルを起点に攻勢へと移るための初動。


メイスの争奪、という起点から先手を打ったのはガル之瀬ではなく……その前段階、武器を足元に捨てた時点からサンラクが先手を打っていた。

空の手に、跳ね起きた皇金剣が逆手で握りしめられる。ガル之瀬の目にはどこかスローモーションに見えていたそれが純然たる殺意を帯びて一気に加速する。


(死───ッ、いや死なん!)


この距離、この体勢、この軌道。一瞬の情報と経験則がHPの全損はあり得ないと判断を下す。


「つ……っ!」


「まだまだァァァァァァアアアアア!!」


胴鎧と皇金剣がガリガリと不快な音を立てて……閃光。

超至近距離でサンラクの大きく開けた口から灼熱の光が発せられている、と考えるよりも先にガル之瀬はメイスを捨てた右手でサンラクの下顎を無理やり閉じるように殴りつける。


「うぐっ!」


押し込まれた衝撃でサンラクの顔が明後日の方を向き、噴き出した炎が虚空を焼く。

だが煙の中で炎の眼だけはガル之瀬から視線を外さない。振り下ろされたアラドヴァルを奇譚為す竜の盾(ガリヴァンズテイル)の縁が弾く、弾く、弾く、そして受け止めて拮抗する。




───実のところを言えば、サンラクは今現在ガル之瀬の行動の全てを完全に把握している。

スキルによる思考加速が「目」に由来する分類であるが故に、冥響正典(ユア・カノン)渡り鳥(ミグラント)の能力「大開眼」によって効果量と効果時間を強化された思考加速はガル之瀬の動きを完璧に捕捉していた。


では、何故ガル之瀬の攻撃をサンラクは避けられなかったのか。それは今がスキルの切れ目であるからだ。

「愚者」の権能によってスキルのリキャストタイムが半減しているとしても、リキャストタイムそのものが無くなったわけではない。

どうしても無くすことのできないスキルの使用可と使用不可の切れ目、スキル特化したサンラクが「一番弱い」タイミングが今、訪れていたのだ。


サンラクはそれを承知で前へ出た。それを悟られること(・・・・・・)が最も危険だと理解していたから。

そしてガル之瀬はそれを今悟った(・・・)。後手で対処できた、という事実と経験則がその正解に気づいたから。


(武器は捨てさせた! リスク覚悟であのタワシに刃糧煌剣イミテーション・ゴールド焼燬一閃(ダイン・キャール)全ブッパ(オールイン)やるか!? いや、当たるタイプの予感がする! 絶対割り切れない! ミリで耐久残る気がする!)


(MPが足りない、武器は足元、残りカスの盾攻撃スキルで仕留める? 無理だ、明らかに一撃死の突っ込み方じゃない。HPは回復していると見るべき! 残ったスキルで組み立てろ、この盾が最終防衛ライン……!!)


互いに余裕は無い。激闘の中で削ぎ落とされた余裕の、リンゴの芯のように残った僅かな「手段」を如何に活用するべきか。

その逡巡と戦意が、ほんの数秒……互いの動きが止まるという偶然をもたらす。


(いや、こうなったらこっちも燃やしきるしかねーよなぁ……!)


(ここが最後の勝負所……アレ(・・)がまだ使える内に!)


((次でケリをつける……ッ!!))

16巻、12月15日発売してます!

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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