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12月20日:骨と血潮


二度目の死。


(なんだ、何が起きた!? 何をされた!!?)


しかし今のガル之瀬の肉体を構築する黒い煙は再びそれを否定する。本当の死を迎えるまであと一度、ガル之瀬は蘇生を可能としている……否、嫌と言ったところで蘇生は強制だ。


(胴体……胸の中心に何かが当たった。攻撃されたのは間違いない……問題は「(ナニ)で攻撃されたのか」……)


ガル之瀬は祈りながらステータスを確認しつつ、同時に数秒前の記憶をより細かく精査する。


(フラッシュバンみたいな目眩しからの一撃……光自体はあくまでも"猫騙し"か? いや、にしては光量が甘い(・・)。恐らく……スキルエフェクトを至近距離で見ただけだろう)


正解である。サンラクが使った「ソレ」に目眩しの効果は無い。ただ、眩い黄金の煌めき(・・・・・・・・)を超至近距離で見てしまったが故に、ガル之瀬は「何をされたのか」を見逃したのだ。


だが、


(いや……"蹴り"だな。前蹴りか、ケンカキックか……ああ、向こうも引っかけて来たのか)


驚くべきことに、ガル之瀬の推測は全て当たっていた。閃光の正体はスキルエフェクト、そして「受けた感触」からサンラクが黄金の剣を最初から囮にして蹴りを叩き込むつもりであったと看破した。


結果だけ見れば、ブラフに引っかかって手の内を晒した上で残機を削られるという醜態。蘇生したということは、即ち「綺憶像失」のデメリットも無視できない。


(参ったな………流石に三分の二も削れたら機能不全を起こすのも当然、か)


蘇生の代償、スキル及び魔法の「総数」から蘇生の度に三分の一ずつ戦闘中の使用が不可能となるデメリット。

先の一度目は幸運にも優先度の低いスキルが選ばれた、だが二度目ともなれば必然的に動きに支障をきたす。


(大きくした踏み覇する竜蹄(ガリヴァストンプ)はもう振れないか……支えるくらいは出来そうだが)


STRを補強するスキルの大半が使用不可能、さらにはメイス用の攻撃スキルに至っては全て潰れた。

それ即ち、高倍率のダメージ補正がほぼ封じられた、ということでもある。


(……燃えて来た)


その上でガル之瀬は自身の状態、そして戦闘の状況を「ダメージ軽微」と結論づけた。


(回復縛り、技縛り、あとはなんだ? 初見縛りか? なんてことはない、普段通りだ(・・・・・)


「ガル之瀬」という配信者は、元々「ぱやガルチャンネル」を結成するよりも前から個人で活動していた(それはぱやぶさも同様ではあるが)。

フルダイブVR、その中でもガル之瀬はアクションゲーム系を幅広く配信している。そのキャリアは長く、ベテラン配信者と言って差し支えないだろう。

そんなガル之瀬には、ファンから「いつもの定期」「発作」「今年もまたかよって言える日が来た」と揶揄われつつも定番(・・)とされる配信がある。


それは当然、無論、疑うべくもなく「ローンウルフ」シリーズ配信。

通常攻略、武器縛り、回復縛り、ボスタイムアタック、Any%RTA、100%RTA、果ては全作通し(オールシリーズ)RTA。本編からダウンロードコンテンツ、配信ではやっていないがModまで。

ありとあらゆる「ローンウルフ」を味わい尽くし、しゃぶり尽くしてきたガル之瀬にとって、ローンウルフを思い出させる敵が強くあることは喜び以外の何物でもない。


(ここで全力を出し切るのも悪かない……!!)


その情熱は、骨身に染みている。







そのスキルは、俺と最も相性が悪く………しかし俺と最も相性が良いとも言える。

「戦砕琥示」がパンチの力加減でその効果を変動させるように、このスキルは「パーティメンバーの数」で効果が変動する。

パーティメンバーの数が多ければ多いほど、このスキルによって放たれる輝きは短く、だが目が眩むほどに輝きを増していく。

エクゾーディナリースキル「皇金時代(ゴールデンエイジ)」、その超強化補正を受けた蹴りこそがガル之瀬のHPを一撃で削り切った攻撃のタネだ。生憎、種明かしとバラす気はないがな。


「皇金時代」の最大補正は俺以外にパーティメンバーが十四人必要となる。今俺のパーティメンバーはサイナ、ディプスロ、イムロン…………そしてサクラとして(・・・・・・)紛れ込む十一人の【ライブラリ】メンバー。

十五人という大抵のモンスターを袋叩きにできる戦力を擁した上で「ただ一人で戦うこと」、それが「皇金時代」の力を最大に発揮するための条件。

臣下を束ね、彼らの聖剣を掲げるあの蠍らしいスキルと言える。


「とはいえ、か………」


今のは間違いなくガル之瀬を仕留めた一撃だった。蹴飛ばした後に黒い煙になって再構成されていたからな……問題は、その「再構成」が二度目、ということだ。

二度あることは三度ある、と言うが二度蘇生するだけでもインチキが過ぎる。これでまだまだ蘇生できます、なんて言われた日には流石の俺も【ライブラリ】焚き付けて運営にお気持ち問合せ連打してしまいかねない。


だが、表面上の現象だけ見れば俺だって人のことは言えないだろう。目玉模様の羽を持つ蛾の威嚇にありもしない巨獣の胴体を見出したら負けだぜ。

であるならばあの複数回蘇生の長所ではなく短所を突き止めなければならない。

絶対にノーデメリットなわけがない、というかノーデメリットであってたまるか。奴は何かを隠してる、その強さに翳りはないと強がっている。


考えられる可能性は……まずHPの回復不可、ここら辺が一番怪しい。このゲームじゃあいいう瘴気とか邪気、みたいな感じのエフェクトは大体回復とか教会系の魔法なんかと相性が悪い。

それに見るからに生命線(HPゲージ)が長そうな奴が「皇金時代」補正込みとはいえ蹴り一発であっさり落ちたのはHPが耐え切れるラインまで回復していないから……ありそうな話だ。


ただ、これはあくまでも「一回蘇生する何かしらの仕掛け」だった場合だ。二回、いやそれ以上に蘇生できるならHPが1固定で蘇生だとしても破格すぎて詐欺(チート)を疑うレベルだ。

つまり、蘇生する度にデメリットが増えているか大きくなっているか。デメリットという名の「支払い」が出来なくなった時が、真に奴を追い詰める瞬間だ。


「だったら俺もそろそろ強い手札を全ブッパしなきゃいけないな……!」


竜滅武器()持っていない。何故ならあの時持っていたものは……既にそうあれと生み出されたものだったから。

竜滅武器は持っていない。何故ならそれはそうあれと生み出されたものがそのように成し遂げたものだから。


竜を滅する武器なら、あの恐るべき刃の竜に挑む前から持っていたからな。


「格の違いを見せてやろうぜ、アラドヴァル!!」


ガル之瀬、奴が何してこようがその全てを攻略してやるよ。こちとら海千山千のクソボスキラー、エンドロールの数だけ理不尽を超えた経験が血肉になって血管を流れてるんだ。

しかも赤血球が酸素を運ぶようにカフェインを引き連れてなぁ…!

経験という名の血で戦うのがサンラク

基準という名の骨で立つのがガル之瀬



「相手の手の内の「底」が見えてないけど埒が開かないので強い手札を使い切る覚悟を決めた」側と、「まだ強い手札はあるが時間経過でどんどん弱体化するので手札を使い切る覚悟を決めた」側


そしてようやく、ようやく辿り着きました……章プロローグに………





コミカライズ版シャングリラ・フロンティア10月17日発売!つまり好評発売中ということです。

アニメは毎週日曜日夕方5時より放送中!別イベント行ってたから三話リアタイしてなかった原作者がいるってマ?

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


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