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12月20日:大いなる旅路、その偉業を手に

テンション上がったのと負債の利子です


ツチノコさんと呼ばれるシャンフロでも屈指の知名度を誇るプレイヤー「サンラク」。

その大まかなキャラクタービルドとプレイスタイル、そして「サンラク」を通した先……(プレイヤー)の性格。おおよそながらそれらを全て合算した”輪郭”のようなものを掴み始めていたガル之瀬であったが、そこまで掴んで尚、結論は「警戒に越したことは無し」であった。


(そも、手の内が不明瞭な以上……何をしてきてもおかしくはない、何をしてくるかではなく「どう仕掛けてくるか」で対面していくしかない……か)


VITを限界まで削った機動力特化&スキル特化のキャラクタービルドに、それを使いこなす攻撃的なプレイスタイル。そして……その上で相手の底を見抜こうとする慎重さ。直感的に理解する、サンラクというプレイヤーはガル之瀬とは真逆の……しかし同じタイプなのだと。


(ただ勝つんじゃない……初見クリア(・・・・・)で勝つ、そういうプレイヤーだろう、あんたは)


様子見はする、だが様子見を切り上げるために負けることを良しとしない。一発勝負での勝利こそが最上の評価(Sランクリザルト)であると………身に覚えがあり過ぎるが故に、ガル之瀬はサンラクが自分と同類であると確信した。ただ一つ、「機動力で避けて攻略する」か「防御力で受けて攻略する」かの違いがあるだけだ。


先の激突、互いに最後の一線(くいしばり)を破られ、ガル之瀬に至っては虎の子の「綺憶像失(ロストメモリー)」を発動せざるを得なくなった激突。しかし己の攻撃が向こうの食いしばりもまた破ったのであるならば。経験から勝利を導き出すならば答えは一つ。


(”強み”だけを。初見殺しの強い部分だけを押し付けて対処される前に叩き潰す……これしかない)


───何かされる前に、手持ちの火力で押し切る。


それは奇しくも、サンラクがガル之瀬に対して実行に踏み切った「攻略法」と同じであり。

即ち、ここに来てガル之瀬とサンラクの全面衝突(・・・・)が始まるのである。








皇金剣(アンティアレス)!!」


踏み覇する竜蹄(ガリヴァストンプ)!!」


俺がインベントリアから金属の塊を取り出すのと、ガル之瀬が装備を変えたのが同時。

そして俺が金属塊を皇金剣に食わせるのが先に終わり、ガル之瀬の装備が黒一色の全身鎧に変わったのが後に続く。

皇金剣が食らった金属……この武器を”運用”する上での切り札、ビィラックに死ぬほど無茶振りして作らせた合金(インゴット)

アイテム名は混剛の合金(アダマス・インゴット)、アムルシディアン・クォーツとアロンカレス瑠璃鉱晶と水晶群蠍の外殻と………とにかく色々混ぜ込んだキメラ超合金だったか。

「まぁこれで武器作るっていうか使い捨ての刃にするんだけど(笑)」と言ったらビィラックにマジで殺されかけたが………というか食いしばり無かったら間違いなく死んでるダメージ量だったなアレ。


後々実験してみたらどうもバランス配分も考えないと合金(インゴット)は素材としては非常に扱いづらい、というか使い物にならないらしく、めちゃくちゃ不服そうな顔でいくつか出来上がったこのインゴットは皇金剣用の残弾(・・)となった経緯がある。

そんな曰くつきの”失敗作”を美味しくいただいた皇金剣が混剛の合金(アダマス・インゴット)の刃を生み出す。皇金剣は食った素材ごとに異なる形の刃を形成する、そして今回は…………肉厚な片端の刃か、いいねぇ。どんな形の刃でもカテゴリ的には長剣を維持し続ける長さと大きさなので、スキル的には問題ない。


そして、こちらが剣を育み構えたところでガル之瀬の行動が完了する。

真っ黒な………どう見ても量産品のそれではない鎧。このゲーム、強い装備は見るとなんとなく相当の手間とリソースが込められていることが分かる。低いランクの素材ではどう頑張ってもディティールが甘くなるが故に、格の高い装備程複雑なディティールを備える。

そして先程までは露出していた頭には冠のような、角のような………ああ、あれだ。コーカサスオオカブト。あんな感じの三本角の、肌の露出が一切ないフルフェイスの兜を装備している。わざわざ防具を変えた……というのは恐らく、防具に付与された効果を求めてのことだろう。


さらにはまるで最初から”それ”と「共に在るべき」と言わんばかりの黒い大盾。そして先程から持っていた……今思えば、その組み合わせ(・・・・・)からそれだけを先に取り出していたのだと分かる、漆黒のメイス。


覚えがあるぞ、そうまるで別々のプラモデルから取ったパーツをごちゃごちゃに合わせたものを、塗装で無理矢理「同じもの」として扱っているかのような………後付けの一式(シリーズ)化。

覚えがある、そう覚えがあるのだ。なんなら俺も同じことができたはずだったのだ。だがあの時は……そう、武器(・・)がちょっと、ダメだったのだ。特例枠だったので。


だが、あるいは……そう、あるいは。ガル之瀬、奴がそれを(・・・)成し遂げた時に身に着けていたものが、特別でこそあれ特例で無かったのならば。

「アレ」を打倒した偉業を讃え、齎される恩恵を正しく受け取っていたならば。


「それはちょっと予想外が過ぎるだろガル之瀬お前───!」


ガル之瀬の持つメイス。片手で扱える取り回しの良い大きさのそれが今、


「……【小人の尺度(ブロブディンナグ)】!!」


俺の目の前で……巨大化して(・・・・・)ぶん回された(・・・・・・)

竜の血を浴びた英雄が血を浴びた部分が不死になったように、

竜を討ち倒した武器、防具は「竜を滅する武具」へと昇華される。

その力を浴び、乗り越えた武器は「竜の力を宿す武具」へと進化する。

されどただ振るうだけではただの武器。

武具に相応しい偉業を、肩書き(・・・)ではなく使い手(・・・)とした者のみがその真の力を発揮することができる。

武器と、使い手と。この二つが揃った時に、初めて真価を発揮する者………


それはそれとしてめちゃくちゃ巨大化する武器が非実体当たり判定二つ引き連れて3ヒットするんすよね、コレ。






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挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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