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試合に勝って勝負に負ける

本来、開拓者はインベントリの容量という制限がある。あまりに物を詰め過ぎればその重さはプレイヤー自身の動きを阻害するという代償を支払わされてしまう。

だが、だがしかし、嗚呼素晴らしき哉格納鍵インベントリア! 格納されていた規格外武装の数々を差し引いても無制限インベントリというだけでお釣りが帰って来る!

そして何よりも、格納空間という完全安全地帯(・・・・・・)。水晶群蠍のヘイトが霧散するまで格納空間に引きこもり、現実空間へと戻ればあら不思議、そこには非アクティブ状態になった水晶群蠍と奴らが激突の際に落とした大量のドロップアイテム……!


「ふふふ、ふはははは……天才だ、斯様な抜け道を見出す我こそ天才…………!」


思わずやたら強いサイボーグ系中ボス作って最終的に物語終盤で崩落するラボで瓦礫に潰されて死ぬ系のマッドサイエンティストな口調になってしまったが、この方法は極めて有効だ。

なにせMPをゴリゴリ削る以外で一切の労力必要なし、ご丁寧に轟音を立ててアクティブ状態になる水晶群蠍が動き出したら引きつけてから転移、しばらくして戻れば大量の素材を確保しつつ確実に前へ進むことができる。

運営にバレたら速攻対策されそうな荒稼ぎ、別にチートでもなんでもないので対策される前に稼ぐだけ稼いでおこう。


「やっぱこういう裏技小技もゲームの醍醐味だよなぁ!」


ガッツガッツとつるはしを振るい、転移を挟みつつMPを回復。手に入れた水晶群蠍のドロップアイテムや採掘した鉱石は全てインベントリアに叩き込めばMP回復手段が尽きるまで俺は荒稼ぎが可能だ。

インベントリア内のアイテム欄に大量のアイテムが溜め込まれていくのをホクホク顔で眺めながら、俺は次の採掘ポイントへと向かうのだった。










「さて……そろそろ持ち込んだ諸々も尽きてきたし、これ以上やると本格的にヌルゲーになりかねないからなぁ。引き上げるか」


三十分ほど掘って逃げてを繰り返し、このボーナスタイムを終える事を決める。

つるはしは使いすぎてぶっ壊れたし、MP回復ポーションも残り一つ……いや、今使ったので0だ。既にインベントリア内には結構な量の鉱石や水晶群蠍の素材が溜め込まれている。

後は適当に水晶群蠍を起動して死に戻りすればいい訳だが……ここで俺はインベントリア内の水晶群蠍のアイテムを見る。


水晶群蠍クリスタル・スコーピオン纏晶殻(てんしょうかく)断晶鋏(だんしょうきょう)踏晶爪(とうしょうそう)靭晶脚(じんしょうきゃく)……針が無いのはおかしいよなぁ」


蠍といえば毒針、古今東西蠍型モンスターのレアアイテムは針と相場が決まっている。それが無いと言うことは即ち水晶群蠍のレアドロップは針ということなんだろう……どうせ挑んで死ぬのなら、狙ってみたいのが人の常。


「とはいえ水晶群蠍はやたら硬い上に足場は最悪、大体十秒で増援……針攻撃を誘発さえできればワンチャンあるか? いやしかし……」


流石に無理ゲー故、戦術の組み立ては乱数頼りの運ゲーになってしまうが、やってみようか。

俺は辺りを見渡し、見飽きる程に見たが故に何となく分かってきた「潜伏中の水晶群蠍クリスタル・スコーピオン」を発見する。

身体のほとんどが水晶で出来ている水晶群蠍を一面水晶のエリアで見つけることは難しい。だがどう誤魔化しても蠍は蠍、どれだけ巧妙に隠れても「形」だけは誤魔化せない。


「特に尻尾なんかは、折り畳むからこそ不自然な形になるから……よし、一体だけだな」


兎月【上弦】【下弦】を構え、足場としてはマシな大きめの水晶の上へとわざとらしく音を立てて着地する。

ピクリと水晶が震えた瞬間……イグニッション、ニトロゲイン連打、クライマックス・ブースト、オフロード、六艘跳び……使えるだけのスキルを全て起動して起き上がる水晶群蠍へと急接近する。

折り畳むようにして隠されていた尻尾が伸ばされ、身体を襲う寒気(ヘイト)を感じた瞬間、さらにスキルを重ねる。


「まずは先駆け一発……!」


右手の【上弦】を軽く真上へ放り投げてインファイト、孤高の餓狼(トランジェント)、一対一の状況でのみ発動可能なデュエルイズムを起動、空いた右手がハンド・オブ・フォーチュンで尻尾の付け根を殴りつける。


「いいっ……たぁぁぁ……!?」


レベルに2、30かそれ以上の開きがあるとはいえ、レベル78がバフを盛りに盛った攻撃でも揺らぎもしない尻尾、そして恐らくあまりの硬さに反動でダメージを受けたのだろう痺れる右拳に、涙目になりつつも落ちてきた【上弦】をキャッチする。

丁度水晶群蠍クリスタル・スコーピオンの背中に着地する形となった俺は遠くの方から水晶を粉砕する轟音が近づいてくるのを聞き取りつつも、二対の刃で攻撃を仕掛ける。


「せめてヒビくらいは……!」


不安定な足場を踏みしめ、グローイング・ピアスのエフェクトを帯びた兎月の切っ先がハンド・オブ・フォーチュンで殴った場所を穿つ。

1ヒット、2ヒット、3ヒット、4ヒット……5ヒット目は水晶群蠍が尻尾を動かしたことで外れてしまう。そしてその傷口は……未だ無傷。


「やっぱり最低でもレベル99はないと無理か……だが、その時点での全力を叩き込まなきゃ検証にならないよなぁ……!」


視界の端に見える光の津波、一面の水晶を爆砕し、押し出しながら迫る追加の蠍は例えるならブルドーザー、巻き込まれれば水晶片とポリゴンの合挽き肉なる、ということから目をそらせば砕けたクリスタルが光を受けて輝きながら巻き上げられるその光景は美しいとすら言える。

迫り来る死、現在進行形の死、ズタボロな攻略チャート、千切れかけの綱渡りを全力ダッシュで駆け抜ける。やっぱり無茶難題に挑む時が一番楽しいね。

トン、と軽くバックステップを入れ、ほとんど無防備な姿を眼下の蠍に晒す。鬱陶しい虫ケラが受け身すら取っていない隙だらけの姿を晒しているんだ、ご自慢の針串刺しを見せてくれよ……


「来たあっ!」


突き出される水晶の針。偶然なのかこのモンスターをデザインした製作者が狙って作ったのか、心臓を真っ直ぐ狙うそれを限界まで引きつけ、引き伸ばす。

背中に地面の水晶が、胸に針が、周囲に増援の蠍が来るその瞬間。


「【転送:格納空間(エンタートラベル)】!!」


シャングリラ・フロンティアの現実から俺の存在が消失する。格納空間の床に叩きつけられた俺は()せそうな衝動を堪えて数を数え始める。


「1…2…3……」


地面に針が刺さる、蠍の群れが俺のいた場所に殺到する、しばらくごたついた後ヘイトを向ける対象がいない事で蠍達は非アクティブ状態に……ここだ!


「【転送:現実空間(イグジットトラベル)】!」


ただ一度っきりのエスケープ。同じ座標に戻るという制限はあるが、体勢を変えることは出来る。

受け身の取れない仰向けの落下から、次の一手に繋げられる着地の姿勢で水晶巣崖へと帰還、ここから先は一秒一秒を全力で使いきらねばならない。

辺りを見回し、位置を確認……水晶群蠍達は仕事を終えたサラリーマンのように散らばって行く最中。その中に尻尾に大きな亀裂の入った水晶群蠍を捕捉する。

綱渡りは成功した、地面に針が突き立った瞬間に大質量のクラッシュが起きた事で如何に頑丈な水晶群蠍であろうとも……いいや頑丈だからこそ十一体の蠍達による激突を受けてあそこまで破損したんだ。


「貰ったぞレアドロップ……!」


モンスターそのものが生存していても分離した素材はアイテム化することは確認済みだ。ムーンジャンパー起動、尻尾の高さまで飛び上がった俺は、尾にヒビの入った水晶群蠍がこちらへと向き直る前に、一気に肉薄してヒビの一番太い部分に攻撃を叩き込む。

万全の状態ならば通じない一撃も、今にも折れてしまいそうなほどに破損した今ならば最後の一押したり得る。

バキッ、と耐久の一線を越えた音が鳴り、遂に水晶群蠍の尻尾が本体から分離する。まさしく俺の作戦通り、勝利の確信を伴い、それに俺は手を伸ばし……












「あっ」


微笑むだけ微笑みかけておいて、最後の最後で中指を立てる乱数の女神を幻視する。

なんて事はない、折れた後にドロップした針がどこに落ちるのか(・・・・・・・・)という乱数で最悪のパターンを引き当てた。ただそれだけだ、ただそれだけ。

そしてその「それだけ」の要素が、俺には綱渡りの向こう岸で笑顔で鋏を持つ悪魔そのものであったということだ。


届かない。滞空中の俺はどう足掻いたところで腕の長さまでが射程範囲。俺とは真逆の方向へ落ちていく針を、どれだけ手を伸ばしても掴む事はできない。

憎らしいほどに優秀な物理エンジンは俺のアバターを重力に従って地面へと落とし、レアドロップはさらに遠のいていく。


「待っ……!」


瞬間、電車と正面衝突したかのような衝撃と共に視界に火花が散る。真下に落ちる浮遊感は真横へ吹っ飛ばされる衝撃に、それがその場で回転(スピン)した水晶群蠍クリスタル・スコーピオンの鋏による殴打(ビンタ)であると気づいた時には、俺の身体はポリゴンとなって砕け散っていた。













「あ、サンラクサン戻ってきたですわ……サンラクサン?」


「…………」


エムルの声が聞こえるが、心中をぽっかりと穿つ虚無感に、対応するだけの余裕がない。

何だろう……夢でご馳走の一口目を舌に乗せる寸前に目が覚めたような、小説で全ての謎が解ける瞬間に次のページを燃やされたような、マラソンでゴールラインを超える直前にスタートラインに戻されたような……


「んあぁぁぁぁあぁあぁあぁああ……」


「サンラクサン? ど、どうしたですわ? なんだか泣きそうな顔してるですわ?」


「ははは……不可能ではない、と分かっただけでも収穫だよな……やってできない事はないってことだもんな……はー空青いなぁ…………」


「サンラクサン!? 窓から飛び出そうとするのはやめるですわ!? いやほんとどうしたんですわ!?」


中々にパンチの効いた上げ落としだった、やっぱ乱数ってクソですわ。

一通り弱音を吐き終えた俺は気を取り直すために頬をバシバシと叩き、万が一の破損を避けるために外していた凝視の鳥面を着用する。


「よっし立ち直った……! エムル、空中ジャンプ覚えようか」


「脈絡! 脈絡が分かんないですわ!」


「人は空を飛べないってことさ」


ちょっとメンタリティに亀裂が入ったのでしばらく水晶群蠍クリスタル・スコーピオンは見たくない。

だが結果として見れば相当先でないと手に入らないようなアイテムを大量に手にしたわけで、大勝利といっても過言ではない。

そうとも、出現モンスターの平均レベル100オーバーのエリアで手に入れたアイテムを使って武器防具を作ったなら、それはもはや廃人の装備をも上回る可能性すらある。

自分で自分を慰め励ますという割と虚しい行為を経て俺のメンタルは八割まで回復する。基本挫折とブチギレ案件しかないクソゲーばかりやっていると、どういう思考(ことば)を使えば自分の心が立ち直るかなんて熟知してるんだよクソゲーマー舐めんな。


「よし、ビィラックに自慢しに行こう」


「よ、よく分からないけどお供するですわ!」


「やっぱり他人に成果を自慢する時が一番心踊るよね」


「割と外道なことだと思いますわ」


俺もそう思うけど主な対象が俺と同類(ペンシルゴン)の外道共(&オイカッツォ)なので差し引き真人間ってことで。




その後、俺が取り出した幻の素材(レアアイテム)の数々に、飛び上がってひっくり返ったビィラックを見ることで俺のメンタルは完全に解決するのだった。

水晶巣崖

崖の上部を覆いきった水晶の正体は水晶群蠍の死骸や排泄物が長い時をかけて蓄積したもの。

ほぼ金属生命体と呼んで差し支えない水晶群蠍が摂取した水晶に蓄積された魔力を元に成長し、成長の最中で廃棄した水晶や同胞の死骸が積み重なり食べて排泄して死んで……を数百数千回繰り返し続けることで今の状態に至った。

いわゆる採掘ポイントとして存在する多種多様な鉱石の山は水晶群蠍が一度摂取するも身体に合わないと吐き出したもの……つまりあれは蠍達のゲ(設定はここで途切れているようだ)

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