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アイテムは中身ではなくガワが重要

攻略推奨レベル100オーバーであろうエリア、当然そこで得られるアイテムの諸々はオーバーテクノロジーの遺機装(レガシーウェポン)に匹敵するポテンシャルを持っていると言っていいだろう。

少なくとも現在俺達が持つ規格外武装の数々に課せられた制限を考えるに、汎用性という面では神代由来の武器よりもレアアイテムを用いた武器の方が勝っていると思われる。

となれば狙うはいわゆる横着採取、レベル不相応なエリアに自爆特攻を繰り返して本来もっと先で手に入れるべきアイテムを手に入れる……普通のRPGであればゲームのヌルゲー化になりかねない小技だ。

とはいえ世の中には強い武器とレベルの暴力でボスをタコ殴りにするのが楽しくて仕方ない人種がいるのもまた事実。俺はこれを「ホラーゲーにショットガンは是か非か論」と名付けている。

さて、それはともかく挑戦二回目。ラビッツからエイドルトに戻り、ダッシュで急斜面を登って再度水晶巣崖へ突入、今度は息を潜めて隠密行動だ。


「…………あっ、どうも」


バレた、死んだ。次行ってみよう。

挑戦三回目、次はスキルを用いて加速して何かアイテムがないかを調べる。

水晶からウェイクアップした水晶群蠍がこちらにヘイトを向けた瞬間、ようやく条件を満たした孤高の餓狼(トランジェント)の効果が発動する。

オーバーヒートを発動できないのが痛いが、代わりにイグニッション、ニトロゲインによる体力調整とクライマックス・ブースト、オフロードに六艘跳びも絡めるスキルフルバーストとも言える全開放で一気に背後から襲いかかる水晶群蠍を引き離す。

そろそろ増援が来るし、他のもアクティブになる。その前にせめてアイテムを……見つけた。

明らかに「ピッケルを叩きつけてね」と言わんばかりの色鮮やかな天然ものクリスタルの塔。地響きが近づく気配を一時忘れて俺はつるはしをインベントリから取り出す。


「よぉぉっしゃぁぁぁぁ!!」


ガキンと渾身の力で叩きつけ、零れ落ちた瑠璃色の鉱石を碌に調べもせずにインベントリへと叩き込む。殺到する蠍の群れは避けられない死の暗喩……いや直喩だな、どストレートに殺意叩きつけている。だが素直に死んでやる程俺は甘くない。

ムーンジャンパー起動、四方八方から殺到する水晶群蠍が唯一いない場所、上空へと全力で跳躍する。数秒後には落ちる身なれど、確かに重力に逆らって空へと踏み入った事で死の大群の殺到を一時は回避に成功した。

眼下に広がる光景はまるでハリウッド映画のハイウェイで玉突き事故を起こす車の群れだ、それぞれが全力で俺のいた場所に突っ込んだために、水晶の甲殻を持つ蠍達は互いの堅牢さが衝突して酷い様相を呈している。

甲殻が割れ、鋏が砕け、酷いものに至っては他の個体に踏み潰されている。

とはいえ今の俺は既に最高到達点へと来てしまった、蝋の羽すらない俺はあとは落ちるだけであって、そして俺の直下は水晶の破片と暴れ狂う蠍が蠢く針山地獄すら生温いサソリ・ミキサー。


「あそこに落ちて落下死は流石にちょっと心折れおごぼっ!」


まさに宙を飛ぶ(おれ)を箸で掴むかのような見事な達人技。真横から突き出された尻尾針に貫かれた俺は、何やら毒状態になったという事をなんとか突き止め、死んだ。












・アロンカレス瑠璃硬晶

鉱物食モンスターによって永い間圧縮と純化を繰り返される事で生成される極めて魔力濃度の高い水晶体。

硬度自体は然程でもないが、その真価はコーティング剤として用いられた時にこそ発揮される。

鉱物食の生物は鉱石を摂取し、鉱石を排泄し、鉱石を育みそしてその亡骸を鉱石に捧げる。それはまさしく石と命で完結した円環である。





「ふぅー……………こりゃ労力以上の対価臭いな」


ラビッツでリスポーンし、一度ログアウトして昼食を済ませてからログイン。手に入れたアイテムを確認して、あの水晶は宝の山とイコールであることを確信する。

とりあえず挑戦の結果分かったことが幾つかある。まず最初に水晶群蠍クリスタル・スコーピオンの索敵判定。どうやらあの蠍共は非アクティブ時は水晶に擬態するように眠っているが、ある条件を満たせばアクティブ状態になる。おそらくその条件は索敵範囲内の水晶に振動を与えることだ、要するに気づかれたくなかったら空を飛べと。

次に水晶群蠍のAI。そこまで賢くはない、というかぶっちゃけアホに部類される方だろう。ただあの巨体と物量で圧倒するレベル100オーバーに高性能AIまで搭載されたら流石にどうしようもない。ただ、気になるのは俺が真上へ避けた際の大クラッシュだ。


「あれ……甲殻やら何やらが剥がれていた(・・・・・・)よな?」


もしかするともしかするかも……「そっち」は狙っていなかったが、可能性には挑んでおきたい。さて、それを踏まえて問題点と解決策を洗い出していこう。


「まず最初の問題として、クソ乱数を引けば一歩目でエンカウントするスポーン配置……いや、これは祈るしかないか」


お祈りゲーは嫌いじゃない、だが全編通してお祈りゲーはそれゲームとは言わないよ、絵と音があるおみくじって言うんだよ。

次にあの馬鹿げた索敵精度だ。下手したら水晶にデコピン一発入れるだけでも起動しかねない水晶群蠍にどう対処するか……実はもう答えは出ている。


「言うは易く行うは難し、とは言うけど全くもってその通りで……」


勝手に追突して自傷していくのならば、それを繰り返し続ければ相打ちからの漁夫の利を狙える。が、それをする為には「安全地帯」の存在が必要不可欠。この場合の安全地帯とはただ攻撃が届かないと言うだけではない、場合によってはヘイトが消えるまで隠れられる場所でなくてはならない。

だがしかし、あの異常とも言える索敵精度に大質量に物量の掛け算、なにより悪路なだけでカテゴリ的には「平坦」と言っていい水晶巣崖には隠れる場所がない、隠れる前に見つかる、隠れても潰される。


「安全地帯……安全地帯……んんんんん…………」


駄目だ思いつかない。空でも飛べれば水晶群蠍の索敵から逃れることができるんだろうが、生憎頭の鳥面は完璧に飾りだ。俺の両腕は哺乳類のものであるし、どれだけ高速で動かしても空は飛べない。


「……しゃーない、乱数がいい方に傾くことを願って突撃を連打するか」


「諦めるって選択肢はないんですわ……?」


「いいかエムル、開拓者は死を恐れない。何故かって? そこに未知があるからさ!」


「物欲にまみれてますわ……ぷぅ、毎回ゲートを開くアタシの気持ちにもなってほしいですわ!」


ぷんすこ! とでもSEが鳴り出しそうな様子でエイドルトへ繋がるゲートを開くエムル。何度もゲートを開いてMPが減ったのか、インベントリからMP回復のポーションを取り出して飲んで……


「エムルちょっとストップ」


「んむむ!?」


魔法の液体を喉に流している状態でエムルが硬直し、俺はそれをしげしげと眺める。


「インベントリ……MP……物質としての消失……再出現…………これだっ!」


「んぶふぅっ!? げほげほっ、一体なんですわ!?」


まさに天啓、俺の灰色の脳細胞が弾き出した答えに俺は思わずエムルを抱き上げて高い高いを行う。


「ナイスアイデア俺! ナイスアクションエムル! あっはっは勝ち申した!」


「ぴゃぁぁあ! 水を飲んだ直後に動かすのはやめっ………うぷっ」


「おっと落ち着けエムル、グッボーイグッボーイ……いやグッガールか」


再チャレンジ前にやる事が出来た。だが俺の予想通りに行けば、レベル100オーバーがひしめく蠍式水晶地雷原を超ヌルゲーで攻略できる。













最早奴らは俺にとって脅威ではなくなった。意気揚々と、足音が響くことすら恐れず俺は水晶が広がる崖の上を進んでいく。索敵範囲に足を踏み入れたのか、三体の水晶群蠍が起動し、こちらへとヘイトを向ける。

このままでは三体の水晶群蠍に蹂躙される未来は避けられない、だが逃げたところで三十体の蠍が俺を押し潰して呑み込んでしまうだろう。


「ふふふふふ……結局のところ最後に笑うのはテクノロジーという事さ、文明万歳! 【転送:格納空間(エンタートラベル)】!」


瞬間、世界が切り替わる。

死が質量を持って迫ってきていた水晶地帯ではなく、シャングリラ・フロンティアの文明レベルでは再現すら困難であろう石材ではない金属で構築された奇妙な空間。

ここはインベントリアを持つ者のみが入る事を許された格納空間だ。少し時間を置く必要があるので、初めて入ったこの空間をしげしげと見回す。


「あぁ、そういう風にアイテムが収納されてるのか」


ふと上を見上げればオイカッツォかペンシルゴンが入れたのだろう、モンスターの素材が空中に浮遊している。わずかに青く発光しているのは不思議力学で浮いている、という表現か。

だがこの場所における目玉(・・)は空中に浮かぶアイテムではない。視線を上から真正面に向ければ、そこには四機の鋼と科学によって作られた獣達が静かに佇んでいた。

所謂格納ドック、固定ハンガーでぶら下がるような形で眠るそれらは、名前の通り創作では七つの大罪と同じくらいお世話になる方角を司る獣の形をしていた。


「騏驎がデカすぎるだけで、プレイヤーが使えるのはこれくらいのサイズなのか」


俺はウェザエモンに付きっきりだったから騏驎についてはその姿しか見ていないが、あのダンプカーに足を生やしたような頭の悪い大きさは記憶に焼き付いている。それとは対照的に四機のゴーレム? は軽自動車よりも少し大きい程度だろうか。あの東洋系ドラゴンっぽいのやフェニックスじゃねーんだよ系バードなんかは羽を広げたり体を伸ばしたらもう少し大きくなりそうだが……おおすげぇ、この亀キャノン砲搭載してる!


「おっといけないいけない……そろそろいいかな? 【転送:現実空間(イグジットトラベル)】」


大枚叩いて買い込んだMP回復ポーションを一気飲みし、格納空間に来た時とは逆の現実空間へと戻る起動呪文(コード)を唱える。

サイド世界は切り替わり、サイエンスによって生み出されたファンタジーがファンタジーでファンタジーを形成する水晶地帯へと戻る。


「ふっ、くくくくく……」


思わず呵々大笑したくなる気持ちを押さえつけ、ニヤケ顔のまま俺は周囲を見回して足元に落ちていた水晶の板のような……甲殻を拾い上げてインベントリへと入れる。



水晶群蠍クリスタル・スコーピオン纏晶殻(てんしょうかく)

水晶群蠍クリスタル・スコーピオンがその身に纏う水晶体の甲殻。極めて頑丈であると同時に魔力を通す事で破損を修復する効果を持つ。

水晶群蠍はその攻撃性故に頻繁に自身の身を破損するが、周囲の水晶を摂取する事で自らの肉体を修復することができる。



「くっ、くふふふふ、ふははははははははは! 濡れ手で粟! 採取し放題(バイキング)の時間だぁぁぁぁあっははははははははは! やっべぇ【転送:格納空間(エンタートラベル)】!」


馬鹿笑いに反応して起動した水晶群蠍八体に囲まれた時は正直肝が冷えた。

中に入っていたものが本命と思わせて実はそれを入れていた袋が一番ヤバかったというパターン

古今東西、このようなアイテムを人は「四次元ポ◯ット」と呼称するのです


新キャラ出したいし展開進めたいのに設定語りたい欲求と前準備で話が進まない……うごごごご

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