<< 前へ  次へ >>  更新
878/878

12月20日:好奇の心に呪いを、憧れの夢に旋律を、現れし者に勝利を!

FF16をやってたのは否定しないけど色々整合性とか調べてた結果なんです!信じてください!見てこの嘘偽りない眼差しを!!(FF16を表示したモニタを見ている)


例えば魚臣慧。

例えばアメリア・サリヴァン。

例えばシルヴィア・ゴールドバーグ。

例えばレイドボスさんことユラ。

例えば、

例えば、

例えば───


殴り合い、斬り合い、その他諸々。トップオブトップとのエンカウント経験が俺にそれを培わせたのか……分かることがある。

不自然な非日常(ファンタジー)の中において、いっそ不自然なほどに自然体でいられる奴は強い、あるいは上手い。

だからこそ、ごくごく当たり前のようにタワーシールドと片手斧を構えるガル之瀬の姿に、俺は最大の警戒という選択をした。


「…………」


ガル之瀬、正直に言えば王国争乱イベント自体にそもそもさほどの興味を感じていなかったこともあり、誰が強いだとか誰がどっちに味方しただとか、特に気にしてもいなかった。

当然、配信者の集まりの詳細な情報なんてものも持ち合わせちゃいない。ガル之瀬………動画サイトで見たことあるような、ないような。


………こちらも本気で相手をするなら、準備(・・)の必要がある、か。


「……悪いが挑戦者氏、ちょっと休憩貰ってもいいか?」


「……構わない。そちらも連戦だったしな」


おありがたいことだ。とはいえ身内四人(してんのう)を差し向けてきたのはおそらくこいつなので感謝の必要は無い気もする。

ブリュバスの甲板まで跳躍し、そのまま船内に入った俺は装備品を手早くインベントリアの中に入れ、取り出しましたは一本のボトル。


「刻傷」は大半の魔法的干渉を跳ね除ける、という効果を持つ。これはバフデバフを問わず、味方の回復魔法であろうが跳ね除けるし刻傷に触れる干渉であればエリアに充満する瘴気も対象に含まれる。

攻撃魔法は無効化しない辺り、魔法に対する完全な無敵性を保証するものではないし、刻傷が付与されてない部位……頭と腰に着弾した場合は効果を受ける。


と、まぁ重要なのはそこだが、そこではない。今重要なのは三つ、三つだけだ。

・仮にも人を待たせているので迅速に死ぬ必要がある。

・迅速に死ぬには魔法的要因が最も手っ取り早い。

・王国争乱のルールの穴(・・・・・)を突く死因が必要。

この三つの条件をクリアするにはどうすればいいか。答えは簡単、まず一つ目と二つ目の解決策は「コレ」で解決出来る。


「応報の藁人形……無駄遣い確定なせいでパスタナイフより勿体なく感じる」


随分と剣と魔法と時々科学なファンタジーにそぐわない藁で出来た人形(ヒトガタ)を取り出し、もしゃもしゃと藁人形の腹に両指をめり込ませる。不自然に膨れた腹部に刺さった釘は、果たして何に刺さっているのか……


効率よく死ぬ、それは人生残機一発限りのリアルじゃ必要のない技能。だがゲームであるならばそれは効率の名の下に正当化され、時には推奨すらされる。

これまでは適当に封雷の撃鉄(レビントリガー)(ハザード)使って何秒か待った後に頭を二回壁に叩きつけるとあっさりぽっくり死ねたんだが……無いものねだりをしても仕方がない。というわけで用意したのがこれ、というわけだ。


───応報の藁人形の中身を暴いてはならない。


暴くとどうなるか、ペンシルゴンはニマニマ笑うだけで教えてはくれなかった。アレは知ってるけど教えない、の中でも「自分も体験したからお前もやれ」というタイプだ。伊達に外道共の相手はしていないし、多分俺も同じ立場なら似た表情をする。


そして三つ目。王国騒乱イベントにおいて、戦いの中で戦死したプレイヤーは本陣となる拠点……前王側の場合はサードレマに転送される。

だがここでハイソウデスカ本陣に戻れるなら精一杯戦えますね頑張ります、とならないのがゲーマーという生命体だ。


運営から提示されたルールは「イベント中にキルされた場合は本陣に戻る」というもの。

この「キルされた」とはどこまでの範囲を指すのか? 味方に斬られた場合は? 自爆はキルされた(・・・)には含まないのか? あるいは陣営所属した後に新大陸で死亡した場合は? あるいは新大陸で敵勢力プレイヤーにキルされた場合は? 自刃は誉か?


ゲーマーがバグ裏技グリッチに惹かれるのはドット絵ゲームの頃から今に至るまで改善も解消もされない"生態"だ。ルールの書かれた紙があるなら裏を見る、穴があるなら容赦なく突く。


そうして幾多の無駄死に(・・・・)を経て、プレイヤーは一つの結論を弾き出した。


「戦争と"完全に無関係の死"! それと"街の設備ではない寝床(セーブポイント)"……この二つがあれば!!」


───例えばそう、謎の因習がある村にある祠をうっかり破壊してしまったかのように。

うっかり(・・・・)応報の藁人形の中身を見てしまって中から出てきたドス黒い手に顔を掴まれて頭蓋骨がゴキベキ割れてる音を聞きながら明らかに人の頭が入る大きさではない人形の腹の中に引き摺り込まれぎゃあああああーーー…………!


ご丁寧に数秒ほど首から下の感覚が無くっていた。いや無駄に凝りすぎだろホラー演出!!







旋律が奥古来魂の渓谷を震わせる。その音源たる中心で、甲板をステージに女性を模した人形が歌う。


『───果てなき宇宙(ソラ)で生まれた小魚、私は海に憧れる。

ねえ知ってる?本物の海は空と大地に挟まれてるのよ。

だから私は大きな魚の腹の中で、宇宙(ウミ)を泳ぐ。

怖くはないの、頭の中は海の夢。

怖くはないの、心熱くして水槽(プール)の中。

えら呼吸の小魚が、それでも水面に顔を出す夢を見る。

もう息は詰まってる、そして私は息ができない夢を───』


間奏。人形(うたひめ)の指がエレキギターから激しい旋律を掻き鳴らし、その旋律に欠けたドラムやベースの旋律を流すスピーカーはその激動を光のエフェクトと空気を震わせるリズムで表現する。


───………♪


そして、最後の旋律を人形の指が掻き鳴らした時……



──────!!!!!!!!!



わっ、と渓谷を崩壊させんばかりの大歓声と、黄色い悲鳴が沸き出した。

事の発端は数分前。「準備をする」とこの場の本来の主催者(しゅやく)が姿を消してから。

渓谷の底に鎮座する一隻の船の上に立っていたメイド服の人形は、一度消えそして再び甲板に姿を見せた時……ぼそりと呟いたのだ。


提案(さて…):一曲歌いますか」


それは契約者からの命令ではなく、一人の意思で決めたこと。

契約者(マスター)が何をしたいのかを察した(・・・)からこそ、数分……否、数十分でも時間を稼ぐつもりで彼女は喉を振るわせた。


征服人形に搭載されたセンサーにより、観客が次の曲を望んでいることを探知したサイナは次の曲の伴奏(イントロ)を奏でるべくエレキギターに指を───


その時だった。


「”お焚き上げ”だぜ」


契約と信頼の名の下に聞き間違うことのない、しかし先程までとは違う声。

振り返れば、宙を舞う藁人形と…………異形の戦士。


「ワ!!!!!!!」


音楽が、声が、音が力になるのがアイドルだというのなら。では今サイナの視線の先、裂帛の発声で炎を吐く(・・・・)その姿もまたアイドルだとでもいうのか。

(ごう)、と下から上へと燃え上がる炎が藁人形を飲み込み、一瞬で熱と赤い揺らめきの中に消してしまう…………処分を終えた異形の戦士がサイナへと視線を向ける。その数は二つを超えて数多。


「船内でも聞こえてたけど………まだ時間稼ぎ続行予定?」


肯定(はい)二号人類(かいたくしゃ)は再構成から調子を取り戻すまで時間がかかる生態ですので。インテリジェンス緊急判断です」


「まぁありがたいし実際時間も稼げそうだが………ま、今回は個人を待たせてるからな。一曲だけでいいや。サンキューインテリジェンス」


「了解:では契約者(マスター)……ご武運を」


返事は言葉ではなく、無言のまま掲げられた握り拳。その拳の握りしめる力強さは必勝の兆しであると……少なくとも、人形はそう考察す(しんじ)るのだ。




◇◇


次の曲を、あるいはアンコールを求める観客達は水晶の羽が生えた奇妙奇天烈な船から飛び降りてきたそれを見た。甲板、槍の如き船首に足をかけてギターをかき鳴らしていたメイド服の女性ではなく。


「待たせて悪いな」


それを、果たして人と呼んでいいものか。


「………随分と、様変わりしたな。性別が気にならなくなるくらいに」


「本邦初公開のバトルスタイルだ、似合うだろ?」


恐らく鳥を模したのだろう……しかし、鳥と呼ぶにはいささかバケモノ過ぎる上顎から上を覆う炎の鳥面。吹き抜ける風に揺れる炎の中で、四つ五つでは利かない数の目のような火がぎょろりと塔盾(タワーシールド)の戦士に視線を向ける。ゆらめく火が、しかしまるで球体が転がるような動きをしているようだと相対者は思った。

嘴を模した上顎に対して、しかし下顎は異なる。そもそも顔を覆う仮面(・・)とは全く別のものであろう、何か肉食の……そう、例えば現実ではとうの昔に死という形で姿を消した生き物、その中でも代名詞に数えられる存在の如き……牙が並ぶ骨の下顎。

上だけ見ればバケモノが過ぎるものの辛うじて「鳥」と言えなくもないそれが、恐るべき竜の下顎を動かして喋る姿はどうしようもない違和感を漂わせる。まるで、別々の生き物を無理やり縫い合わせたかのような、ある種冒涜的な違和感。


「とはいえ敵の大将が最前線まで突っ込んできてるんだ、インタビューはしたいところだが……」


ゆらり、と揺れるそれは骨。だがそれはいくつもの関節をカキコキと鳴らしながらも、滑らかな流線の動きで揺れる尾だ。人が失ったはずの……それも、血肉の欠けた竜の尾。ゆるりゆらりと揺れるそれは持ち主の感情を映しているかの如く、落ち着いている。


「そこんところどうだい?」


「………聞きたいのはこっちなんだが、な」


いいね、とそれ(・・)が広げた手、そして足。そこには荒々しくも雄大な野生によって研ぎすまされた竜の爪。


果たしてそれは人間なのか?しかし頭上に掲げるその名は、先ほどまで武と暴を振るい、勝利を重ね続けた少女のものと同一。

あれはなにか、なにがどうなったのか、どうなったらそうなるのか。疑問と驚愕が渦巻く中で、不特定多数の殆どが思い浮かべた単語は奇妙な一致を見せた。


(((((もどして)))))

「王国騒乱イベントに関与しない死因(要するに加害者でも被害者でもなく、その死が周囲に戦術、戦略的影響を与えない状態)」と、「戦争に参加している街の設備を利用していない」という条件を満たすことで陣営本拠地でのリスポーンを回避できる。それを知った時ペンシルゴンは盛大に舌打ちをした。

「テントでリスポン誤魔化せるなら無限自爆アタックができたものを………まぁ、出来ないなら出来ないで命を大事に襲撃しよっか、追い詰められたら自爆する感じで」


判定的には行き倒れ、とか野垂れ死に、みたいなのが該当します。例えば長時間スタミナを回復しなかったことで空腹によるHP減少を放置してHPがゼロになる、確率でHP回復ではなく毒状態になる薬品を飲んで解毒せずにHPがゼロになる、あるいは………「ウェーイ!胡散臭い藁人形の腹を掻っ捌いて中身暴いちゃいまーす!」といったテンションで見てはいけないものを見て首を捩じりもがれる、など。




・『息を止めて、空を』

作詞作曲:咲洲エルマ

宇宙ではなく、宇宙船内に再現された仮初の(プール)でもなく。大地と海と、そこから見上げる空への焦がれるような憧れを歌う咲洲エルマのソロ曲。

過去、新天地を求めて航行を続けるバハムートでは過度に「望郷(ホームシック)」を煽るようなコンテンツは法で規制されており、違反者は厳重な罰が課せられていた。

当初、恋愛系のバラードを主に歌わせたいと計画していた事務所は咲洲エルマが提出したその曲に目を剥いて没としたものの、後日咲洲エルマがソロコンサートでいきなり歌いだす、という暴挙に出た曰く付きの曲。

幸か不幸か、丁度そのタイミングで居住可能な惑星(・・・・・・・)が発見されたことで当時の政府は逆にプロパガンダとして利用できるのでは、という判断のもとお咎めなしとなったものの、あるいはもしタイミングがもう少し早ければ咲洲エルマはアイドルではなく犯罪者としてその名を歴史に埋もれさせていた。

以降は「宇宙船での人生なんてクソッたれ、死すならば空と大地と海の中で───(要約)」といった数々の名曲をリリースした咲洲エルマであったが、ついぞ彼女が本物の大地を踏みしめることはなかった。

───アンドリュー・ジッタードール著「シュテルンブルーム、その歴史」第三十二巻「とめどなき魂の叫び」より抜粋


クールなアイドルの皮を被ったバチクソ過激なロックンローラー。果てなき宇宙に中指を立て、まだ見ぬ大地に手を伸ばし続けた女。それが咲洲エルマという歌手(アイドル)です

<< 前へ目次  次へ >>  更新