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12月20日:あまたの屍を乗り越え、配信する


「叢雲月光流奥───」


「ディス・イズ・ファンタジー!!」


「おごっ!?」


どうもどっかしらのマイナー古流剣術? をリアルで修めていることを遠回しに自慢されたのでこちらは銃で"わからせ"る。

人間が光速パラパラ漫画ダッシュする世界で刀振り回すだけの行為にどれほどの価値があるというのか、メジャー剣道を修めてる京極のやつだってなんかエンチャントファイアしてるんだぞ。


「ヘイサムライソードマン、弾斬りしてくれよ」


フルオートだけどな。





古流剣術叢雲月光流はフルオートの連射を四発まで捌ける。この結果をリアルで活かして欲しいものだ………

というわけで次。


「ツチノコさん、合気って知ってるかい……?」


古流剣術の次は古武術かい。


「ならば合気を相殺する技を教えてやろう……!合気(あいき)を逆から読むと?」


「………きいあ?」


気合(きあい)だーーーっ!!」





合気道だろうがレスリングだろうがボクシングだろうが、刃物を持ってる相手と相対したら逃げよう。

夜光刃の境光の宝剣(ルーメリディアン)から放たれる斬撃波は合気で捌けない事を俺に教えてくれた合気マン……気合いが足りてなかったな。


「次は俺が相手だぜ! 我が跳天流、存分に味合わせてやろう……!」


「また古流剣法?」


「いや、シャンフロで作った流派」


ちょっと話変わってきたな。

シャンフロでは流派をプレイヤーが作ることができる、というのは知っている。だが、古今東西過去未来最強無双流を作れるほど都合のいいものではないし、滅殺波動天地開闢回し蹴りを名前通りの性能にするのは相当困難、ということも知っている。


だが、自分が一番使いこなせるスキルを作成、カスタム可能という点において、プレイヤーメイドの流派は最強の初見殺しであり、独自性と言える。


チョウテン流……頂点? あるいは超天? まぁいい、そっちがナニ天だろうがこっちは晴天! 最強流派決定戦だ!!





跳天流……自体は言うほどだったがプレイヤー性能が普通に高くて苦戦した………露骨にカウンターを構えられるとちょっときつい。

二刀流、という奇しくも俺と同じスタイルから繰り出される空中機動を多用した跳天流の技は俺が持っていた三次元的な空間アドバンテージをイーブンにし、空間殺法同士の激突に持ち込まれた。


「速すぎ……んだろ……」


相手の剣が過剰に派手とはいえ、魔法効果を内蔵している魔剣の類だったのも「何をしてくるか分からない」という点で結構な牽制になっていた。

魔剣はな………あんまり良い思い出がないというか、複数の魔剣をビュンビュン飛ばしてくるやつが連想されるからちょっとだけ苦手意識がある………


「こ、降参……」


「GG、一個聞きたいんだけど「トルネイド」? とかいう独楽みたいに回るやつ、視界見えてる?」


「いや全然」


「えぇ……」


人のことは言えんが攻撃でそれはダメでは?

HPがギリギリだから、というよりも武器が壊れそうだから降参した気がするJUMPなるプレイヤーが次のプレイヤーと入れ替わるように去って……


「次よろしく」


「はいはい」


む? 次の挑戦者とハイタッチ? 知り合いか。

純白の甲冑を纏った女武者、Yukiなるプレイヤーが小太刀を構える。


「よろしくお願いします」


「ん? ああ対戦よろしく」


小太刀のみ(・・)とは珍しい。秋津茜も小太刀一本で戦っていたが、あれは忍者ジョブだからこそ、ってのもあるだろう。

甲冑武者が等身の短い小太刀を構えている姿はどこかこじんまりとして見える………大抵ああいうのは刀とセットで二刀流運用されそうなものだが、白武者は小太刀のみを構えている。

だが、構える姿は堂に入ったものだ。それは今の強さに至るまでに何度も振るって手に馴染ませている証拠だろう。


「全力を尽くしましょう」


「ああうん……まぁ、いつだって本気でやってますとも」


出来ることをやり通し、出来た結果を押し付ける。対人戦とはつまるところそれに尽きる。





俺とて鬼ではない、「手間かかってそうだなぁ」という装備で挑んでくるプレイヤーにはトドメを刺す手がちょっと鈍るというもの。


「降参で」


「GG」


小太刀一刀流、中々どうして強敵だった。あの武器、刀と短剣の両方の性質を持っているんだな……やっぱ派手な技より小技揃えてガッチリと戦法がブレないやつな一番怖い。


だが妙というか、最初から降参するつもりで動いているような感触だ。いやまぁ戦争イベ前提の武器を落としても問題ない装備ではなく、どう見ても普段使いかとっておき、といった装備に身を包んでいるのだから負けそうになったら即降参するのは別に何もおかしくはない。


「Liberty、次よろしく」


「出しちゃいますか……全力」


うーん? 三連続身内かこの人ら。次に来たのは、剣士の割には妙に服がヒラヒラしてるというか……鎧というよりローブに近い防具の剣士だ。顔がなんか異様にモブ顔なのが逆に特徴的だ。


「その剣は………」


見た覚えがある。確かあれは……………

ふと脳裏によぎる笑う死相。カローシスUQ………あ、やば。


「じゃあ対戦よろしくお願いします」


「ハイ、ヨロシク」


サイナが号砲を鳴らし───


「おおおおおおおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「おおおおおおおわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


こいつはマジで速攻で始末しないとまずい!!

全力全開の神秘の剣(レーツェル)のヤバさを知るが故に、一切の容赦なく俺は蹴武(ストライク・アーツ)を連打するのだった。

頼む死んでくれ……! 四方向から時間差で魔法が飛んでくる中、近接職の相手はしたくない……! カローシスUQ想定なら即殺確殺しか勝ち目がねえ……!!





なんとなくそんな気がしたので執拗に儀霊剣(リートゥス)を責め続ければ、やはりというかLibertyは降参した。


「神秘の剣に一番効く攻め方を心得ているようで」


「知り合いに命を削って神秘の剣やってるやつがいてな……壊すのは忍びないからサレンダーしてくれて助かった」


「あっさり負けてしまいましたね……これは後でネチネチ言われそう……」


儀霊剣。神秘の剣が扱う魔法触媒としての性質を持つ剣は、作成に恐ろしく手間がかかると聞く……耐久度が尽きれば木っ端微塵に砕けてロストするこのシャンフロというゲームで、だ。

故に、こんな組手もどきで失うことを是とするほど吹っ切れているのか。そこを攻めた。


「さて………」


そうして、やはりLibertyと知り合いらしき両手に盾を一つずつ装備したプレイヤーがやってきたタイミングで、俺はついにそれを問う。


「で? 四天王を倒したら次は裏四天王か?」


「は?四天王………ああ、なるほどな。いいや、あれが"親玉"だ」


連続して来る知り合い同士のプレイヤー、やたら受け身の戦法。しかし既に見せた(・・・・・)アクションに対しては妙に強気に攻めてくる……まるでまだ見せていない技を出せ、武器を出せと言わんばかりに。

そして、先程から倒した三人は同じ場所に集まっている。この人混みの中で、何故かぽっかりと空いている空間にいる四人(・・)


そう、四人だ。倒したのは三人、四人目の対戦者は目の前にいて、その上で非戦闘スペースに四人いる。つまり………


「あの鎧野郎が大ボスか?」


「まぁな。名前見りゃ誰か分かるだろ?」


名前……?


「ここからだとよく見えないな、ここに引き摺り出してからゆっくり名前を読み上げさせてもらう」


「言ってくれる……!!」





そうして、その男はやってきた。

俺同様に隕鉄の鏡を従わせ、明らかに死んで装備を撒き散らすつもりなど毛頭無い、と言わんばかりの立ち振る舞い。


「………噂に名高いツチノコさん。対人もイケる口だとはな」


「ガル之瀬……ガル之瀬…………あぁ、誰かと思えば」


配信戦線(ライブライン)の一員じゃないか。確かパヤガルとかいうのが親玉で………あれ、二人組だっけ? そうなるとパヤとガル………なるほどね。


「敵軍の大将軍が前線に出ていいのか?」


「……最終日に惜しむ命も無いだろう。それに……」


───これを見逃したら配信者じゃない。

そう言った配信戦線の親玉の片割れは、確たる意思と共に「盾」を構え、「斧」を俺へと突きつけた。

ここに辿り着くまでに本当に長い道のりだった……

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