12月20日:黙々と、見遠し
超大型大会の本番真っ只中に執筆していた奴がいるらしい
さて、ネクストエントリーとしては随分と物騒な登場だ。
プレイヤー名「
「ふむ………」
「…………」
一応、こちらのルールには則ってくれるらしく不意打ちでナイフが飛んできたりはしなかったが……改めて見ても特徴的な"わからなさ"だ。
全身を包み込む黒煙は、身元を隠し切るだけの不透明さを維持しており、奴がどういう姿勢なのかは分かるのだが表情が完全に読めない。素性隠し系のアクセサリーか? このゲーム、PKに厳しい割にPK向けのアイテム多いよな………
先ほど正義マンを後ろからブッ刺したのは短剣だったはず。となれば短剣使いと見るのが自然な流れだが……どうもそれだけじゃあなさそうだ。いきなり突撃槍を構えて突っ込んできてもおかしくなさそうというか、なんだろうな……あの時サイナに剣を突きつけていたのが妙に様になっていたから、か?
「サイナ、悪いが所定の位置まで」
「了解:」
見るからに暗殺者系。となると大火力アタッカーとはまた別方向の一撃特化の可能性は高い。特にPKなら破壊属性を運用してくる可能性は考慮すべきだろう。あれは対人装備としてはマジで強いからな……
「さぁて、御託を並べるのはお互い好きじゃないだろう? ここで守るべきルールはただ一つ。タイマン! 以上!!」
「いいだろう……」
「サイナ!」
銃声、それは戦いが始まる合図。だが俺もRiotも動かなかった、故にこそ数秒の静寂に銃声の音が溶けて消えて……
「………!」
次の瞬間、Riotが足元に落とした何か手のひらサイズのものが勢いよく爆ぜた。
「自爆!?」
いや違う、煙は出ているが煙
「
煙の色は漆黒。それはRiotの素性を隠す煙と同じ色であり、そしてそれよりもなお濃い。視界を隠すだけなら白い煙でもいいだろう、だが同じ色であるが故にRiot自身が見つからない。
止まっているのは最悪手、だが一歩目を考えなしに踏み出せば正義マンの二の舞だろう。
刻傷によるレジストが発動していない、つまり普段の奥古来魂の渓谷に広がる瘴気のようなものではない。だが胴にある刻傷の効果は肺にも適用されるのか?
「まずは最悪を……想定!!」
一歩目は踏み出すのではなく、踏みしめる。屈んだ脚にスキルエフェクトが漲り、伸ばすと同時に力が解放される。一瞬で"上"に跳んだ俺はそのまま煙幕を突き抜けるが……ちょっと困ったことになってるぞ?
「結界で煙が拡散しないのか……!」
時間経過で消えはするのだろう。だが、それまで残り続ける煙が決壊の外に出ていない。おそらく、二発目三発目の煙幕を使っているのだろう。明らかに以上な量の煙がどんどん結界内に満たされていく。配信のことを考えてくれよオイ!
不味いな、完全にアドバンテージを取られている。結果論だが、初手で飛び蹴りをかますのが正解だったか?
「っ!!」
煙の中から飛んできた投げナイフを弾き落とせたのは、一応警戒として
どうしたものか、俺は「跳べる」が「飛べる」わけではない。滞空時間が長いだけでそろそろ地面に降りなければならないが……どうしたもんか。
「……っしゃ!」
やるだけやるか! アドバンテージを先んじられた時点で、無茶を通さなきゃ捲れない。
空中ジャンプを利用して直下ではなく別の方向へ降りる。そこはディプスロのやつが展開している結界の端、煙を外に逃さない融通の効かなさは許せないが、今はその融通の効かなさに助けてもらう。
「背水ならぬ背壁の陣……ってな」
これで少なくとも背中からは刺されない。
さらに武器を変更。タイプ:ワカモーレ「エアリアルPD 」とFF-45! 対モンスターじゃ心許ないが、対人なら頼れる銃らしい銃。今一番欲しいのは……射程だ。
「…………」
がっついてこない暗殺ビルドは本当に厄介だ。自分のアドバンテージを最大まで活かし、そして捲られる可能性を最小にした動き……寡黙な暗殺者ロールはポーズというわけではない、か。
「…………」
下手すると、このまま煙を補充し続けるんじゃないか? とふと思う。インベントリアがあるかどうかすら、あの身に纏う煙で視認できなかったからな……あれ俺も欲しいな。
「さーて………」
ここで一句。
来ないなら、俺から行くぜ……
「最上川ァ!!」
スキル
俺が使う二つの「眼」はそれぞれ違うものを俺に見せてくれる。
永劫は肉体よりも速い思考の世界を。そして運命は正しい攻撃の道を!!
FF-45、二つのFは
フルオートで小気味よくパパパパンと発砲された弾丸が煙の中を突き進み───
「何っ!?」
「暗闇如き、なにするものぞォ!!」
パーフェクト下の句ショット!!
その名の通り、デコピン程度の火力しかないが、FF-45の弾丸は代わりに一発でも当たればノックバックを発生させる!
どこに撃つべきか、それはすなわち「どこに撃てば最適な攻撃であるか」が分からないということ。故に
FF-45の
脳裏によぎる
「ぐあっ!!」
捲り返すならここだろ!
「お召し替えだ……!!」
決闘級メイド服「千古不易」。斬撃と刺突に対して驚異的な強みを持つ服なのにバッテリー必須という防具……というか衣装。四つのカートリッジアクセサリーからエネルギーを補充することでその力を維持するわけだが、当然時間が経てば充電切れとなる。
だがそこで終わらせなかったのがエリュシオン・オートクチュールというメイド服のナイスガイだ。
これはもしもの際の緊急手段として用意されたもの。「カートリッジアクセサリー三本と、残り一本の五割を使い切った時点で発動可能、という縛りを設けたことで装備への搭載を成功させた職人芸!! 唯一の欠点は───
「
音声認証でなに叫ばせようとしてんだ、ってことだ。
来ないなら
俺から行くぜ
最上川
暗闇如き
なにするものぞ
「確かに音声認証、つまり実質的な発音はエコロジーモードだ。だが、だ。だがしかし、この「エコロジーモード」という発音とその意味が必ずしも同じである必要は無い。たとえ口ではエコロジーモードと発音していても、心の中では常に「ミニスカお着替え」……そう念じて欲しい。一念岩をも通す、と言うだろう? であるならば、想いがメイド服を強くする……そして、メイド服は最強だ。つまり五倍強い。うん? なにと比較して五倍か、と? ハハハ、普段の君よりだよ。私が言うのもなんだが、服は着た方がいい」