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12月20日:速いのではなく

現実世界ではメイド・イン・ヘブンによって時間が加速されているので作中での時間経過が正しい時間の流れで現実では三度目?か四度目のクリスマスが迫っているのはスタンド攻撃によるものです


「……あれが"ツチノコさん"、か」


曰く、シャンフロ最速。曰く、ユニーク殺し。曰く、レアモンスターよりレアエンカウント。曰く、性別不明。

そういった事前情報を全て放り捨てて、巨漢の侍を瞬殺……そう、瞬殺と言って差し支えない程に圧倒して見せた半裸の女を見ていた彼らは、それらの情報があくまでも”結果”と”印象”でしかないのだと気づいた。


「噂だけだとモンスター専だと思っていたが……対人も強いじゃないか」


「例の配信(アーカイブ)を見るに対人も普通に行けそうだったしねー」


「というか、ウェザエモンと真っ向から殴り合う時点で人型との殴り合い熟知してる人っぽかったし?」


───負け戦だろ、これは。

言葉に出せば多くに"聞かれる"ため、口にこそしなかったがそれが彼の出した結論だった。


まず第一に、「赤」と「緑」が出た時点でこの戦いはレイドモンスターを先に討伐した方が有利になる。なにせレイドモンスターに混じって敵陣営に矢でも浴びせかければそれだけで一時的人的損失、敵陣営のリソース削り、何よりそれぞれの本陣を目指して動くレイドモンスターが勝手に敵を削ってくれるのだから。

故に、今尚新王陣営側へと進軍するレイドモンスターが生存し、前王陣営を焼き尽くさんとしたレイドモンスターが倒された時点で新王陣営は負け確(・・・)の二歩手前まで来ていた。


第二に、こちらの作戦をほとんど上回られた。【配信戦線(ライブライン)】は読んで字の如く、その活動をリアルタイムで配信している。ある程度動きを読まれることは覚悟の上であったし、中には配信しないという根本的なレゾンデートルを否定してでもやりたい事をやるべく潜伏を選んだ者もいた。

が、それらはほぼ全て打ち砕かれた。GUN!GUN!傭兵団がほとんど戦果を上げられずに殲滅された、と聞いた時には流石に笑うしかなかった。

諸葛亮か韓信か、なんにせよとんでもない先読みができる軍師がいるか、あるいはあまり考えたくはないが配信よりもさらに深い場所にある情報を流している者がいるのか。

なんであれ、こちらからの攻勢を読み切られた以上は負け確の一歩手前だろう。


そして最後に。


「"これ"を無視するわけにはいかない、か……」


新王陣営……否、ガル之瀬最後の一手たる王女暗殺(・・・・)に、今まさに向かおうとしていた自分が眼前の"イベント"を無視しきれなかったこと。


(俺は"後"でも問題ないが、"今"足を止めたら…まぁ、負けるだろうな)


元より私怨であったが……恨みすら一時忘れ、視線を奪われ、何より取れ高(・・・)を嗅ぎ取ってしまった以上、足を止めてしまうのは配信者としてのサガか。王認勇士アルブレヒトが傍らにいない今こそがガル之瀬の目的を果たす最大のチャンスであったのだが………致し方ない、と少しの無念を胸中にしまって視線の先で繰り広げられる”大立ち回り”を観察する。


「………確かに速いが、眼で追えない程ではないな」


聞いた話では瞬間移動じみた速度で動き回る、とのことだったが……例のアーカイブを見るに、誇張ではないだろう。対人戦で音速の脚力を全開にしたところで過剰に過ぎる。抑えているのか、あるいは何か最高速度を出せない理由があるのか。


「とはいえ………速さは脅威の本質じゃない、か……」


「なんて?」


とはいえ、実際に目の前で戦っている姿を見たからこそ……あるいは、それが”対人戦”であるがためか、ガル之瀬は「サンラク」というプレイヤーの本質が”速さ”にはないことに気づいた。その呟きにガル之瀬と同行していた仲間が怪訝に聞き返すが、ガル之瀬はじっと眼前の戦闘を見つめていた。


(例の動画内も含めて”剣”、”銃”、”刀”、”斧槍”、”徒手空拳”、”盾”………形態変化(・・・・)にしたって第五、第六………バランス調整をかなぐり捨てたってもう少し理性が働くだろうに)


人に対するも(・・・・・・)のではない(・・・・・)評価を人に対して評しながら、ガル之瀬は目の前で”それ”を振るうサンラクをじっと見つめていた。

まるで、他者のプレイで予習してから実際に自分がコントローラーを握るかのように。







「さしものツチノコさんもこれは初見だろう?」


ヒュンヒュンヒュン、と風を切る音が鳴り響く。鎖を通して伝わる運動エネルギーが遠心力によってさらに加速され、重量以上の殺傷力を秘めた金属塊………分銅が円形に空を割いている。

セツゲッカの降参後、なるほど確かに「ギリギリで降参すればデメリットは剣一本分」という情報こそ周知されたが、「そもそもワンチャン勝てるのか?」と思われてしまったらしくセツゲッカに続く者はすぐには現れなかった。だが、いよいよ雑談ショーかと腹をくくりかけた矢先にその男が我こそはと手を上げたのだ。


鎌/……カマスラッシュでいいんだろうか、()ラッシュ(・・・・)でぶちかます(・・・)のかな? と思ったら鎌は鎌でも”鎖鎌”ってか。


「まぁ確かに鎖鎌が武器種として存在してた、ってのは知らなかったな」


「忍者ジョブを発展させた上でさらにギルド内でのおつかいをこなしまくって閲覧可能な巻物でようやく生産可能になるからな………そして俺は、今日この日までこれを秘匿し、研ぎ澄ましてきた……! 素人が振り回していると思ってくれるな!」


「配信中だけどいいのか? 派手に情報拡散されるけど」


「マジな話するとこの前忍者掲示板で別の人がバラしてたので秘匿する意味無くなった!」


成程、認知されてしまった以上は「それを知るただ一人」ではなく「研究の浅い武器に熟達した使い手」になったってことね。


「ふっ………なら、俺もそういうの(・・・・・)で相手してやるよ」


この見世物(はいしん)は何もさっき思いついたわけじゃあない。事前に予定し、周到な容易と準備を行ってきた計画なのだ。対人戦は底の深さを悟らせない戦い、そして底の浅さを隠すための戦い!


インベントリアから取り出したそれ……鎖鎌が鎌と分銅を鎖で繋いだものであるならば、こちらは棍と棍とを鎖で繋いだもの。

射程は比べるまでもなく、しかしその柔軟性と風を切る音は鎖鎌に劣るものではない。身体に這わせるかのように振り、回し、掴み、構えたそれは……


「ヌンチャク………!?」


「知らないようならアドバンテージはイーブンかな? イロモノ同士初見殺しの殴り合いと行こうや!」


動きはカンフー映画で見稽古した。

何人抜きするかはともかく、五人十人と相手をするなら手数は多いにこしたことは無い。DPSではなく……いやDPSは前提だが……バリエーションとしての手数。それを得るために俺は様々な”伝手”を利用して新たな武器を大量に獲得した。

このヌンチャク………鉱人族(ドワーフ)の隠れ里でアラバの名を出したことで信頼を獲得し、武器を作ってくれた鍛冶師ガンダックの作品……打撃武器が発展していた鉱人族の隠れ里ではメジャーな武器種であった双節棍(ヌンチャク)、その名も「双翼鉄(ソウヨクテツ)」!


鎖鎌と双節棍、互いに何をしてくるのか分からないが故にサイナの号砲が鳴ってなお、俺も鎌/も動かなかった。一種の膠着状態………だが、均衡の静寂を破ったのは相手だった。


「ちぇえい!」


研ぎ澄ました、ということはその武器に対応したスキルもまた修めている……とは予想していたが、正しかったようだ。振り回す回転のエネルギーをそのまま推進力へと変換、射出された分銅はスキルの輝きを放つ鎖の尾を引き連れ俺の頭部を狙う。一見すると蛇のようとも言えるが……蛇がこんな矢の如く飛んで来たら世紀末だぜ!


「っ!!」


弾くか、避けるか。俺は後者を選び、しかし数秒前まで俺の顔があった虚空を貫いた分銅が……曲がった(・・・・)


「何!?」


「鎖鎌スキル「首巻き蜷局(ハングド・メーカー)」! 獲った!!」


追尾………いや、首吊り(ハングド)作る(メーカー)? 首に巻き付くことに特化したスキルか!

流石に必中ではないだろう、恐らく加速すれば避けること自体は可能なはずだ。だが互いに先手を警戒して後手に回ろうとしていたのが仇になった。思考加速スキルはパッシブではなくアクティブスキル、使うと念じなければ発動しないし……加速していない思考でスキルを使っても発動とその処理が起きるまでには若干秒の間がある。つまり最初から思考も肉体も加速していなかったが故に、俺は頭狙いを装った初撃を避ける事は出来ても、本命のハンギングから逃げる事が出来ない!


「その首と後ろの宝貰ったァ!」


熟練を自称するだけのことはある。恐らくあともういくつかのスキルを組み合わせることで鎖鎌による必殺コンボを構築していたのだろう。鎖が急激に引っ張られ、しかし同時に”手繰り寄せた”鎌/がこちらに勢いよく突っ込んでくる。引っ張り、引っ張られることでの双方向の急接近、となればトドメは当然分銅に繋がった鎖のもう一方の端にある鎌!!

もはや一刻の余地もない、こちらもあちらも近づいているのだから即応しなければ動脈をスパっとやられるだろう。俺の体力で急所に当てられるとそのままお陀仏の可能性が高い! 取れる行動(アクション)は一、二回!


ラーズージー(・・・・・・)!」


裂ぱくの気合を込めてその言葉を唱える。そして俺は同時に手に握っていた双翼鉄を………思いっきり、上へとぶん投げた。


「悪いな、実は”アレ(パフォーマンス)”しか出来ないんだ。レベル149の時に作ったからスキル生えなくてな」


ほんの少し、ほんの一瞬だけ鎌/の視線と意識が「何かを唱えながら上に投げられたヌンチャク」に向いた瞬間………黄金に輝く拳が、鎌/の顎に突き刺さる。

なるほど確かに分銅の追尾首絞めには間に合わなかったが……使ってないわけじゃない。思考を加速させる「永劫の眼(クロノスタキサイア)」に、正しき攻撃の道を導き出す「運命の眼(フェータリザルト)」。そして………ヒット数をダメージ据え置きで三倍にする「勝利の神撃ヴルスラグナ・スマッシャー」。


つまるところ、加速した思考の中で正確に顎をぶち抜いたアッパーカットが鎌/のHPを一発(さんはつ)で削り切ったのだった………


「必殺、ヌンチャクパンチ」


「それ、素手………」


一流の戦士たるもの、武器が無くとも戦える術を修めて当然。

辣子鶏(ラーズージー):超要約すると激辛から揚げ炒め、当然叫んだところで何も起きない。



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挿絵(By みてみん)

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