<< 前へ  次へ >>  更新
866/866

12月20日:伝統と革新

実のところを言えば、というか見りゃわかる話ではあるが……トラディションも、当然同じ武器種であるレボリューションも「弾丸」を撃ち出す機構など搭載されていない。というかそもそも銃ではなく、引き金がついてる剣というのがこれの正体だ。

では、この引き金は飾りであるのか? 否、否なのだ。「銃ではない」ことと「射撃できない」は必ずしもイコールではない。この引き金は確かに射撃という事象を起動する。


「乱れ撃ちだぜ!!」


カチン、と引き金を引いた瞬間、トラディションの刃が眩い光を放つ。それは素材となった水晶の輝きであり……また同時に、そこに宿った"力"の輝きに他ならない。


虹光の斬閃スペクトル・スラッシュ


「な………!?」


俺は剣を振ってはいない、切っ先を突き付けただけ………だが、トラディションの光り輝く刀身から放たれた閃光は、まさしく斬撃の如き威力をもってセツゲッカの胴に切り傷のダメージエフェクトを刻み込んだ。あえてスキル名を口にしたのはノリだ。


「スキル判定は七度の斬撃……残弾六発(・・・・)


イムロンが至った結論は極めてシンプルなものだった。

要するに引き金を引いたら何かしらが勢いよく前に発射されればいいのだ、それが弾丸だろうがビームだろうが「スキル判定を保持したまま薄皮一枚分剥離した刀身」であろうとも。

そしてそれを可能にしたのが魔力で育つ水晶素材、なんていうか愚かという意味ではなくシラフでそれができる理性を指してバカみたいな大剣作ったやつとは思えない進化っぷりだな本当。

刀身の表面剥離による"飛ぶ刃"と、そこに加算されるスキル補正。それらを統合した一撃はともすれば、魔法よりも魔法らしい。


「ぐおあっ!」


「ほらほらどうしたァ!」


弾丸ならぬ弾()になろうとも、そこに込められたスキルの力は損なわれない。虹光の斬閃スペクトル・スラッシュはヒット毎に斬撃の数を増し、そしてそれは哀れな犠牲者に強いる防御の負担を一撃毎に増やしていくということだ。


いちいち照準を定めていては勝てない戦場がある。目玉にレティクル刻む度胸がないならば、当てる(・・・)力を高めるしかない。幕末クイックドローは発砲の意思と実行の間にある無駄を限界まで削いだテクニック、これ当たるな? と感じたら確かめる前に引き金を引く!

剥離した弾刃そのものは薄っぺらな水晶でしかなく、硬めのアルミホイルか水溜まりに張った氷程度の硬さしかない。少なくとも何かしらの防護策を施しているセツゲッカの肉体に直接損傷を与えることは難しい。つまるところ、見た目の割に言うほどダメージは無かったりするのだ。

だが炸裂した虹光の斬閃によるノックバックに関しては別だ、増える斬撃によって発生する衝撃はその数を増す程に耐えがたくなる。


「しまっ…」


セツゲッカの剥き出しの胴体や腕は何かしらのアクセサリーで強化されているようだが所詮は人体、人間は器用さと知性の代償に主にフィジカル面で色々なものを捨てている。故にこそ、左手首に命中した弾刃の炸裂によって減点(ゲンテン)だったかパナマ(・・・)だったか忘れたが、セツゲッカの手が衝撃に耐えきれず刀を手放してしまう。

それを視界の端に収めつつ、しかしそれには頓着しない。幕末クイックドローに"確認"と"中断"は存在しないのだ。まず撃つ、撃ち終わった後に結果から行動する。

刀を捨てた幕末のガンマン達は弾切れになるまで捨てた刀を拾うことはしない、なんなら銃で殴りかかる。そういう覚悟が天から誅罰の許可を得る秘訣だ……


残弾五発、トラディション&レボリューションは一応剣のカテゴリであるので弾刃に込められるのは剣でのみ使えるスキルだけであるし、そのスキルが持つ時間制限や回数制限の制約を受ける。

虹光の斬閃の場合は回数制限、七度の斬撃にのみ作用するスキルはそのまま七発の弾刃という制限となる。

当てれば当てるほどヒット数が増える以上慎重に撃つべき? だからこそ乱射する。


「オラオラオラァ!!」


一息に三射。一発は外れたが、二発の弾丸がもう一方の刀を弾き飛ばし、セツゲッカの右手首に斬撃の花吹雪を弾けさせる。残り二発!!

銃口(きっさき)をセツゲッカにつきつけ、引き金にかけた指に力を込める。退くなら迫って撃つ、避けるなら追って撃つ、迫るなら引いて撃つ。セツゲッカの体力がどの程度残っているかは分からないが、少なくともここから逆転を狙うのは難しいだろう。


「…………」


「…………」


だからこそ、撃たない(・・・・)。五秒だけ、セツゲッカにチャンスを与える。


「全ロストだぜ?」


「………………」


引き金にかけた指に込める力を強める。刃に宿る虹光の輝きが凶悪な輝きを放ち───


「ま………」


「ま?」


「参った…………っ! 降参だ………」


一発目から倒してしまうと後続が尻込みするかもしれないからな、悪いが誉れある死は没収だ。あくまでも「ギリギリで降参すれば被害は最小限で済む」というのを周知させなければ。最悪挑戦者が現れずに雑談ショーになりかねない。

装備惜しさに降参する、というのはセツゲッカにとってはたいそう屈辱であるらしく、下唇を噛んで項垂れるセツゲッカに突きつけていたトラディションとへレボリューションを降ろす。


「グッドゲーム」


「この屈辱、忘れはせんぞ……!」


「選択したのはそっちだぞ……あ、一応参加"剣"だけ貰うぞ。武蔵坊弁慶的なアレだから」


「く……」


買った本数だけイムロンに金が入り、狩った本数だけ俺はイムロン製の結構性能が良い剣を手に入れられる……うーん、ウィンウィンの関係って奴だな。ウィンとウィンの間にカモがギッチリ詰め込まれているが。


「さて………」


時に生還は死よりも”悪い”扱いになる。まさに今がそれなのだろうセツゲッカが刀を拾って去っていくのを見送りつつ、俺はセツゲッカから接収した参加”剣”をブリュバスの甲板にいるサイナに放り投げながら端的に一言告げる。


「次」

12月16日、コミカライズ版シャングリラ・フロンティア11巻が発売です

表紙は比較的ハイテンションなルストです。戦術機を目撃したことで血行が促進されたんじゃないですかね。普段はもっと血が冷えてそうなテンションです。小冊子の方は未だに謎の人物ことアーカヌムおじさんです、正直この人そこまで重要じゃないんだけど説明すると結構重要な情報がボロボロ出てくる、っていう微妙な立ち位置なのでいつ開示すればいいのかちょっと悩む存在です。

今年も気づけば一年を切り、そして作中はまだクリスマスに到達できていません。現実が速いんじゃないんですかね?多分時が加速しています、なにせ体感まだ10月なのに日付は12月ですからね。バグですよバグ。

そんなわけで、いろいろな発表やらなんやらでシャンフロ的に激動だった2022年もそろそろ終わり、2023年を迎える前に11巻を年末のお供にするのは如何でしょうか?大魔導師不二先生の手によって描かれるクターニッド編及びGGC編、マジで”””ヤバ”””です。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

<< 前へ目次  次へ >>  更新