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12月19日:歓機ノ歌

古戦場の妨害工作です、きくうし様は全員半日かけてじっくり読んでください

(浅い)


渾身の一撃は確かに電撃菓子@GGMCの顎を捉えた。だが……


(そもそも顎が半分埋まってるようなフォルムだから……インパクトが深く刺さらなかった)


殲顎緋砕(センガクヒサイ)は確かに近距離戦闘に特化している、だがそうであるとて得手不得手がある。

体勢的にアッパーカットが最も"打ちやすい"ためにそれを選んだが、電撃菓子@GGMCの頭も含めてずんぐりむっくりとした体型を鑑みるなら、首にほとんど埋まっているような当てづらい顎を狙うべきではなかった。


(……でも、)


これはこれで都合が良い(・・・・・)とルストは笑う。

やはりというべきか、顎に鉄拳の一撃を食らった電撃菓子@GGMCであったが怯んだのは数秒。


『今のは冷えたぜ〜!』


『……背筋が?』


『肝が!』


二丁拳銃が改めて殲顎緋砕(センガクヒサイ)へと突きつけられる。この距離ならば外しようもなく、そして弾丸の速度を拳のスイングが上回ることはない。

だが、引き金は引かれず……また、拳も振り抜かれることはなかった。


『………』


『………』


互いに沈黙。互いに敵を屠る確信を持ち、また同時に相手にもそれがあるのだろうという確信があり……故に、"次"がこの戦いの最後になるだろうと、互いに感じていたが故の一呼吸。


『君、強いねえ〜』


『……そちらこそ。思っていたよりもずっと苦戦した』


互いに必殺の間合いの中で、二人を囲むように隕鉄鏡がぐるりと回る。これまでの激闘を時に遠のいて、時に肉薄して写し続けていたこの世ならざる鉄鏡は、二人の言葉に揺らぐ空気をも受け取って僅かに震える。

姿と、言葉をここではないどこかに伝えている隕鉄鏡に双方僅かに意識を向けつつ、互いに健闘とその力量を称え合う……半分は社交辞令に過ぎない事もまた、互いに感じ取ってはいたが。


『とはいえ、ここで一対一(イチイチ)交換なら~……戦術的にはこっちの勝ち寄りじゃね~?』


この場において、本陣の守備としているのは少なくとも(・・・・・)前王陣営で指揮をとる何某かのプレイヤーの直轄という意味では眼前のプレイヤーと、もう一人狙撃を担当していたプレイヤー二人だけ、というのは殆ど事実であるとエクレアは確信していた。


プレイヤーは兵士ではない、故に全てのプレイヤーが指示に従ったわけではないのだろう。この戦闘に入る前に両手で数えきれない程度にはプレイヤーを倒してきたエクレアだったが、どれも「なんで本陣に敵が!?」とでも言いたげな雰囲気であった。さらに言えば、そういった指示に従わないプレイヤーがいるにしてもサードレマの防備は手薄に過ぎる。

それは前王陣営に所属したプレイヤーの大多数が攻めに転じている事を意味する。それ自体は本拠地奇襲を目論んだGUN!GUN!傭兵団からすれば好都合であったのだが……結果はこれだ。だが、恐るべき一騎当千の戦術機乗りをエクレアが引き付けたことで、生き残ったメンバーはサードレマ大公城へと向かった。

元々十人以下の人数で城を攻略しようとしていたのだ、決して少なくない人数を失ったとはいえ戦闘力を完全に喪失したわけでもない。仮に場内にプレイヤーが詰めていたとしても、それはそれで”見せ場”になる。

故に、ここでエクレアが脱落したとて眼前のクソヤバ戦力を落としさえすれば……GUN!GUN!傭兵団としては戦術的な勝利と言える。


『……残念ながら』


ルストはエクレアの思考を完全に読み取ったわけではない。だが、戦術的勝利という言葉からおおよそ何を言いたいのかくらいは理解できる。故にルストは「そもそも裏切者のリークで筒抜けだぞ」という言葉を飲み込みつつ、現実を告げる。


『……残念ながら、他の面々が目的を達成できる可能性は限りなく低い、とだけ言っておく』


『………ん~、何故?』


今回はあっちに(・・・・・・・)預けてあるから(・・・・・・・)


何を、と問うよりも先に……まるでタイミングを見計らったように、エクレアが装備している通信機に他のメンバー達から通信が入った。


『すまんエクレア!俺等もしくるかもしれん!』


『ちょ、なんだアレマジでぇ!! ”亀”か!?』


『ちょ、あの体型でドリフトキメて追ってくるんだが!』


『あ、ごめんこれ俺ら死───』


ザザ、と通信が途切れた。ノイズのような途絶は通信先のプレイヤーが死亡した時特有のものであることをエクレアは知っていた。故に、電撃菓子3号@GGMCのヘルムの下で苦々しい顔を浮かべつつ、何が起きたのかを知っているのだろう鎖で繋がった相手に問う。


『配信見てるリスナーは分かるかもしれないけどさ~俺の目はここにあるから、説明貰えるとうれしいんだけどねぇ~』


『……特注(・・)の戦術機がある。普段は私が使ってるけど、今回は相方が使ってる』


『あ~…………』


要するに。


『……私は遊撃兼陽動』


『もう一方が本命って訳、かぁ~………』


呂布を食い止めていたら後詰めで項羽が出てきた気分だ、とエクレアは電撃菓子3号@GGMCで諦めの溜息をつく。シャンフロをプレイし、ある程度までレベルを上げて装備を充実させ……そして、戦術機を購入カスタマイズしている時からエクレアはうっすら予想はしていたのだ。これ戦術機にもユニークがあるんじゃないの? ……と。

当初は眼前のプレイヤーこそ、ユニーク戦術機を切り替えて戦っているのだとばかり思っていたが……事実としてはスナイパーの方こそが主力であり本命だったというわけだ。


『いや~本当に参ったなぁ~………こりゃ、ウチの(・・・)負けだねぇ~』


『………』


口調と同調するかのように、それまで二人の均衡を保っていた片割れである突き付けられた二丁のマグナムがボトリ、と地面に手放される。

ほんの一瞬、ルストの視線がそれを追った瞬間──────


俺の(・・)勝ちは諦めてないんだなこれがァ!!』


緊急廃装エマージェンシーパージ

例外なく有人式であるが故に、緊急時に際して戦術機体を脱ぎ捨てる(・・・・・)事で装着者を危機から脱出させる戦術機乗りの最終手段。

きつく巻き付いた鎖を内側から引きちぎる程の勢いで、電撃菓子3号@GGMCが………弾けた。

規格外戦術機亀【玄武】

例えばなんですけど、めっっっっっちゃ硬くてめっっっっっちゃ高火力な戦車みてえな重装甲がホバー移動でめっっっっっちゃ滑らかなドリフト挙動でそこそこ俊敏にレーザーやらミサイルやらぶちかましながら襲い掛かってきたらめっっっっっちゃ怖くないですか?


まぁつまりそういうことですよね。


リアクターから供給されたマナを光熱に変換して「双蛇砲」から発射することで、外付け武装抜きの単純殲滅力に限れば規格外戦術機の中でも随一、さらに砲撃の際に熱と共に大気中に拡散したマナを回収することで莫大な燃費の悪さをカバーしている。

射程距離にもよるが25メートル程度であれば使用エネルギーの4割は回収可能。

ただし超重量を稼働させるための反重力機構やホバーが砲撃以上にエネルギー馬鹿食いなので動けるデブだけど動くと爆速で息切れする、という使えるんだか使えないんだかよく分からないぽっちゃり君。あんまりにも重いのでサンラクはダイナミック文鎮扱いしていた。遺憾である。

ホバー移動しながらラリアットすると大体2サンラク(ダメージ単位「サンラク」:奴がノーガードで急所に攻撃を受けて体力が全損するダメージ量)。





まぁ言うて更新は自由意志ではあるんですがそれでもそこに義務感や使命感が混ざるとするならそう、単行本の宣伝ですね。というわけでコミカライズ版シャングリラ・フロンティア10巻です。

10、テン、(とお)。二桁です、ついに二桁に到達してしまいました。コミカライズ版の連載が始まった当初は「まぁ5、6巻で影リュカオーン戦じゃないのガハハ」とか思っていたんですが、硬梨菜は大魔導師不二先生の超絶画力と、じっくりがっつり作品を作っていこう、という編集I氏を舐めていたのかもしれません。

ウェザエモン、蠍、その他諸々を経てようやっと十巻の表紙を飾ったのはファンアートの数で言えば恐らくもっともっともっっっっっっと先に出番が来るであろうゼリーを食わせる方と食わされる方に並ぶかそれを上回る勢いの秋津茜です。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

なんていうか、思い描いていた秋津茜そのまま! って感じで本当凄いですよね、不二MAGIC………

中身も面白さが保証されていますし、もうそろそろ恒例と言っていい巻末と小冊子に硬梨菜の文章がおまけでついてきます。なお硬梨菜はもう10回やってるのに未だにページ数オーバーします、学習能力が無いのかな????

なにはともあれ、10巻です。さらに言えばマガジン本誌の方では100話を突破しました。ここまで続いたのはひとえに皆様のご声援あってのことです。今後とも、拙作を宜しくお願いします………



それはそれとしてきくうし様は日を跨ぐまで寝ててくれ

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