12月19日:艱難真紅にこそ笑う
〆切が
ああ〆切が
〆切が
硬梨菜
◇
右が尽きれば左を、左が尽きれば右を。隙を晒せば両方を。
戦術機を砕くに充分すぎる火力が恐るべき精度で撃ち込まれ続ける。ルストが守勢に回るのにそう時間はかからなかった。
(悔しいけど、
兎にも角にもひたすらに相性が悪すぎるのだ、こればかりはルストをしてどうしようもない。
『さぁどうするよ〜? 悪いけど、
既にルストが複数の戦術機を換装して戦っていることは知られている。故に現在の有利状況を維持するためにエクレアは隙を作らない、むしろ絶妙に「殴れそうな」位置にあえて身を置くことでルストの心理的油断すら誘っている。
『……その手には乗らない』
『ありゃ』
ガードの構えで弾丸の猛攻から身を守りつつ、どうにか活路を見出すべくルストは思考を巡らせる。
(十秒。最低でも十秒は隙を作る必要がある。戦術機を解除した状態であの弾丸を受けたら多分一撃で死ぬ)
防御に秀でたステータスであったならばあるいは耐えられるかもしれないが、ルストは戦術機をメインの武装としている都合上、それを剥いでしまえは残るのは生身だけだ。プレイヤー装備の強化装甲のみでは弾丸を防げない。
(不甲斐ない)
こうも劣勢に追い込まれたのはひとえにルストの慢心が故だ。敵機が
ルストは防御の構えでエクレアの猛攻を凌ぎながらも周囲に視線を向ける。十秒の隙を生み出すためには周囲にあるオブジェクトを利用しなくては難しい。
(不甲斐ない……)
何もかもがクリーンな、埃一つ立てない戦いなどできはしない。そも、エクレアが放つ弾丸がめり込んだ家屋が数えきれないほど存在する時点で既に街を無傷とする戦いなどというものは破綻している。故に、ルストが戦術機を換装するために家屋を盾にしようと発想するのは自然な事であった。
(リボルバータイプ、タイプメンの重装甲にある程度有効打を与えられる威力はある。半端に家屋に入っても壁抜きされる)
元より
タイプメンは戦術機体を
既に
(相手もこちらが逃げに転じたいのは理解している。フェイントを仕掛ける? いや、拳一つ分でも距離を空けられたらフェイントは意味をなさない。損傷覚悟で壁をぶち抜いて家屋内に逃げ込む?)
ルストは本当は分かっているのだ、この状況からリスクを最小限にして逃走する方法を。
───
例外なく有人式であるが故に、緊急時に際して戦術機体を
ルストはロボのロマンについて人並み以上に熱意を持っていると自認している。故に自爆だとか出力120%だとか、そういった「保全と真逆の破滅的な行動」に"華"がある事も理解している。
この状況から逃れる最も簡単な方法。それは
(不甲斐ない……!)
この戦いにおける勝敗はルスト一人の「結果」だけに留まらない。故にこそ、ルストは勝利を最優先として動かなければならないのだ。
悔しさと、不甲斐なさと、しかしそれでも勝利を考え続ける冷静さが緊急廃装を発動させようとした瞬間………
『───……』
ふと、視界の端に赤い輝きを見た。
直前の衝撃がそれの正体を伝える、それはエクレアによる射撃によって砕け、飛び散った
なんてことはない、既に限界を迎えようとしている
だが、それはこのギリギリの防御の中で目まぐるしく思考を続けていたルストの目には、やけにスローモーションに映った。なんてことはない、ただの金属片。それが………真紅の、羽根のように見えたのだ。
『───ッ!!』
ただそれだけの目の錯覚が、ルストのプライドを灼熱に燃え上がらせた。
瞬間、ルストの動きから迷いが消えた。目測のみで狙いをつけたルストの拳が電撃菓子3号@GGMCに突きつけられる。
先程までは電撃菓子3号@GGMCとの相性不利故に
『飛んできたぁ〜!?』
銃弾並、とは言い難いもののそれでも高速で放たれた鉄拳がエクレアを狙い飛ぶ。だがこの程度の攻撃で戦況を覆せるのならば、もっと早い段階でルストはこれを使っていた。
『当たんないだなこれが~』
ガギン! と飛翔する拳の軌道が不自然にブレる。それは迎撃として放たれた弾丸が拳を穿った音であり、そして度重なる弾丸に対する防御によってついには砕け散ってしまった。
だが、
『……色々作れたものだから、初志を忘れていた』
ギャリリリ! と地を這う金属の爬行音が射撃直後のエクレアの耳朶を打つ。何が、と思うよりも……そして何が、と視線を向けるよりも”速く”それは電撃菓子3号@GGMCの脚部に巻き付くと、この戦いが終わるまで……あるいはどちらかがこの場より死を以て去るまで決して外れることは無いと言わんばかりに、ガチンと
『……結果として負けるなら、それはそれで良い。結果として勝つならさらに善い』
『おいおい………
電撃菓子3号@GGMCに食らい付いた鎖、直線に伸びているもう片方の先端は
対大型モンスターを想定した捕獲用、あるいは鎖で捕縛した対象との純粋な膂力勝負による行動阻害を目的とした戦術機装【
『……でも。
使ったのなら、身を預けたのなら。どれだけボロボロになろうと勝ってから死ね。ましてや勝利のためとはいえ戦いのさなかに乗り捨てるなど………イベントシーンならともかく、自らの意志でそれを選ぶのは言語道断。そもそも相性不利程度で多少カスタムした程度の量産品にフルカスタムオーダーメイドの自信作が負けてたまるか。端的に言えばルストは
これまでずっと引き締められていたルストの口の端が、吊り上がる。賢い勝利を捨てて馬鹿な勝利を目指す
、迷いを振り切ったのならばあとは燃え尽きるまで走るだけだ。
『なぁ~にか逆鱗踏んだかな、これは~………』
左の拳を失い、全身に亀裂を走らせながらも
『……木っ端みじんにしてやる』
窮地でこそ笑う。故にこそ、ネフホロ最強の真紅は勝利者であり続けたのだから。
・【
規格外武装:鋼線型【キープアウト】は帯型の半物理魔力構成体を適宜生成することによって携行性及び再展開による継戦力を高めた傑作であったが、高性能故に規格外エーテルリアクターを前提としたものであった。
故に、【キープアウト】の設計思想を受け継いだ量産型とでもいうべき【施錠縛鎖】はキープアウトを高コスト化させていた要因である「発動の度に帯を新たに生成する」という性質をオミットした純物質の鎖型の武装となった。
当然【キープアウト】と比較すれば耐久などには劣るものの、量産型の戦術機による運用が可能となった事で複数運用による大型敵性の捕縛などが可能となった。
とはいえ、【キープアウト】直系の子孫とも言えるこの【施錠縛鎖】の耐久力は並大抵のものではなく、戦術機が携行可能な通常火力で破壊することは難しい。
結構な速度で対象に微ホーミングで飛んでいき、巻き付いた後に自身を
「エクレアならただ真っすぐ飛んでくるロケットパンチを回避するのではなく撃墜するだろう」という分析に賭けた起死回生の一手。
というわけでコミカライズ版シャングリラ・フロンティア九巻が発売されました。
表紙は「実はお前そういう感じの色だったんだ」ことAnimaliaです。実はお前そういう感じの色だったんだ………まだ拳に相互理解を見出す前の姿ですね、
それはそうと、アニメ化とゲーム化というでっけぇ発表が出ましたがそれは大魔導師不二先生の極大魔法画力によるコミカライズ版があっての事、是非是非皆様お手に取って見てください。