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前日:Standby→Ready

某所で見かけた「全然更新しないからもう完結してるもんだと思っとったわw(意訳)」が逆に硬梨菜の逆鱗に触れたッ!



世を捨てた覚えはない、世が俺を捨てたのだろう。

ならばかってぇ床の上でホルモンなめなめする時間は終わりだ、人の世に帰還しようではないか……


「あ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーー……………………クソ疲れた」


本当にギリギリだったが、なんとか仕上げ(・・・)が間に合って良かった。

蜘蛛の頭を毟り取ってゴリラの上半身をくっつけたかのようなむさっ苦しいアラクネもどき………たしか名前はプラトン2-6だったか……巨大で生態系に真正面から喧嘩を売っているような非合理の怪物が倒れ伏す。八脚で高速移動し、ゴリラ部分の剛腕を機動力分の加速上乗せで振ってくるパワーとスピードを両方組み合わせたら最強のパワーになるよねと言わんばかりのシンプル・フィジカル・モンスターだ。


『………驚きました。ええ、本当に驚きました。プラトン2-6は特殊な能力こそ獲得していませんが、それ故に純粋なフィジカルスペックのみで第二次試行の序列六位となった個体。それを単独(ひとり)で倒しきるとは……………』


「言うてパワーとスピードはヤバかったけど、体力はそんなに無かったからな…………あったまいてぇ………あのナリで俺と同じ避けタンク系だったとは…………」


『相性、対策で有利を得たところでどうにかなる性能差ではない筈ですが………』


相当にショッキングだったのかドン引きした様子の「象牙」を眺めつつ、俺はステータス画面を確認する。

そこに表示されている理想的な文字列に俺はにんまりと笑みを浮かべつつ、ステータスを閉じる。


「あんな不合理合体型なんて、接合部を狙い続けていれば普通に裂けて死ぬだろ……同速なら小回りの利く方が有利だしな。それでも時間かかりすぎだし何回も死んでるけど」


このゲーム、良くも悪くもモンスターとの戦闘に時間制限も何も無いのがな。やろうと思ったら一日中同じモンスターとひたすら戦い続ける事も出来るだろう。それとなにより、次の階層に行くための試練としてのギミックモンスター故にそこに存在し続けるから再戦時に体力引継ぎってのがこっちに有利過ぎる条件だ。


『しかし、戦闘中明らかに効率的ではない動きをしていたようにも思えますが?』


「まぁ…………実は勝つのは二の次だったりするしな」


俺の言葉に「象牙」の表情が疑問のそれになる、だが本当にそうなのだから仕方がない。

色々スケジュールが詰まっているというのにわざわざここに来て明らかにソロ用ではないモンスターと殴り合いしているのは、「安定して遭遇出来て」「めちゃくちゃ体力が高くて」「ある程度性能の事前調査が可能」な敵、という条件をほぼ全て満たせるのがここだったのだ。


「ステータスはもうほぼ理想の数値に到達してるし、エタゼロ直伝の肉体いじりでポイントステータスじゃないスペックも調整済み」


もはや改造人間だな、ファンタジー世界観はどこへ行ってしまったのか……月にでも旅立ったのかな?


「あとはスキルをどこまで鍛えられるかってワケだ」


スキルの再取得、スキルの強化、進化、連結…………そもそも一体どれほどのスキルが存在するのかすら未だに底が見えないシャンフロ世界において、スキルビルドはエンドコンテンツどころかエンドレス(・・・・・)コンテンツだ。終わりが見えない強化の道のりを今ここで極めるつもりは無いが、それはそれとしてちょっとした”気づき”を得てしまったからには、出来るところまでは鍛えておきたかった。

プレイヤーの行動によってスキルの獲得、強化、派生が起きる性質上、基本的にある程度仕上がったプレイヤーのスキルはそのユーザーのプレイスタイルに寄り添ったものになる。だから「それ以上」を求める必要性が薄れてくるのだ。

だからこそ、エルクという金さえ積めばスキル関連で色々やってくれるNPCとの繋がりがあったが故に俺はそれに気づけたのだ。いやもしかしたら大部分のプレイヤーからすれば周知の事実かもしれないんだが。


───このゲーム、真に重要なのはレベル付きのスキルの方だったのだ……と。特になにかしらの神の名前が含まれたスキルの中でもレベルがついているものは特に重要度が高い。なにせレベル付きのスキルは………合体可能だからだ。言い換えれば、スキル合体はレベルアップによるオートのスキル派生とは異なる、プレイヤーのマニュアル操作で派生可能なスキル獲得なのだと。

ステータス画面を見ながら邪悪な笑みを浮かべていた俺だったが、「象牙」はそれを知ってか知らずかあくまでも会話に沿った返答をする。


『なるほど、要するに…………実戦的なサンドバッグを求めていたと』


「なんか文句あるかよ?」


ぶっちぎりで倫理観が欠如していると俺は思っている「象牙」に、自身が作り上げた作品をサンドバッグ代わりにされたことが不服かと問えば、返ってきたのは微笑と否定だった。


『いいえ。貴方が為したことは確かに人類が霊長たる道のりに刻まれた一歩なのですよサンラク』


「ああそう……」


『ただ…………』


ただ?

おびただしい数の元プラトン2-6(ドロップアイテム)をいそいそと回収していた俺に、「象牙」はなにやら含みのある態度を見せた。プラトン2-6が倒された何か不都合が生じた、というよりも俺がプラトン2-6を倒せてしまったからこそ不都合が出た、と言わんばかりの態度だ。


『パーソナルデータからサンラク、貴方がウェザエモンと遭遇していることは把握しています』


「しれっとプライバシー侵害された???」


『ウェザエモン・アマツキは最強のいち個人でした。ベヒーモス、リヴァイアサンの全人類。そして戦場で散った者、生き残った者………果ては人類を敵視した「奴ら」ですら、ウェザエモンといういち存在の強壮たるを認識せざるを得ない程に。それはウェザエモン・アマツキという存在の認識を高め続け………そして、彼の失踪がかの時代における致命的な破局の一つだった』


ウェザエモン、なんだか随分と久しぶりにその名前を聞いた気がするぜ。いやそうでもないか? 直近の記憶と疲労がキツ過ぎて何もかもが遠い過去のように思えてくる。


『……「勇魚」はウェザエモン・アマツキのケースを再現することを望んでいるようですが、私としてはそれには反対なのです』


「何故?」


どちらもそれなり以上にはコミュニケーションを取っているので「勇魚」が二号人類(プレイヤー)個々人の強さを求めているのはうっすらそんな気はしていたが、逆に「象牙」はそれが望ましくないと言う。


『霊長とは一個人の繁栄に留まっては為せぬもの……種としての継承と世代を前提とした強化を以て人類種そのものをこの惑星における頂点種族としなければ。人類に何よりも求められているのは継続的な勝利なのですよ』


「勇魚」の主義も含めて要約すると、だ。

神代の時代においては装備が画一的だったが故に、それに「慣れた」始源の勢力によって人類は圧し潰されてしまった。神代最強の個人ウェザエモンが途中でバックレたのも敗北に大きく近づいた原因の一つだろう。

故に「勇魚」は次の世代の人類たる一号、二号人類に没個性(・・・)ではない強さを求めている。雑兵千人と一騎当千の英雄千人では天と地ほどの差が出るしな。

だがそれに対して「象牙」はひとりひとりが強くなったところで、そいつらが全員いなくなったら次の世代はどうするんだ? と言っているわけだ。極論だがプレイヤーが全員引退したとしたら残ったNPCはこの先を生きていけるんか?って事だろう。

……そういうのはプレイヤーじゃなくて運営のシナリオ班に言ってもらえます? としか言いようがないのだが、そんなメタネタをぶっこんだところでイベント進行に良い影響が出るとも思えない。あとシンプルに脳が疲れているので賢い答えが算出できるだけの知能がない。


「まぁなんだ、世の中みんな肩を並べてよーいどんしてるわけじゃないんだ。遅かれ早かれの差はあっても人類はなんとかなるだろ」


というわけで「まぁなんとかなるっしょ」とぶん投げるような回答でお茶を濁す。


『………そうですね。まだまだ貴方達は幼い、事を急ぐにしても早すぎるのでしょう』


パーフェクトなコミュニケーション、って感じではなさそうだ。だがとにかく疲れているし、スケジュールも詰まっている。後ろ髪を引かれつつも俺はベヒーモスを去るのだった。


スキルの中でも流派ではない特定のカテゴリに分類されるスキル

基本的にレベルを持たないある種完成されたスキルとは異なるレベルを持つスキル

成長し、他のスキルと混ざり合う事で新たな姿へと変化するそれはこう考えることもできるのではないだろうか。

同価値の1+1ではなく、特別な「1」を異なる姿に変化させるのだと


要約:コンタクト融合の固定素材の方みたいなもん。


あのスキル(・・・・・)を素体に〇〇神スキルを量産できるんじゃねぇの!? というサンラク君の悪い企み

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