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12月19日:天機無縫

色々あったのは事実だけど大体エルデンリングって奴が全部悪いんです

『ルスト、ごめん───』


「……了解」


二度の爆発音。一つは空中に大きな炎の花を咲かせ、もう一つはサードレマ大公城の一部を崩壊させた。

そしてサードレマ大公城で後方支援を担当していたモルドからの言葉で、ルストはおおよその状況を把握した。

モルドが敵狙撃手との相打ちに近い形で撃墜された(・・・・・)。それ即ち、【安全領域(セーブゾーン)】による後方支援はもう期待できないという事だ。

だが本職ではない狙撃手という役割を受け持ち、敵の狙撃手と相打ちになったのならまずまずの戦果と言ってもいいだろう。


「……それはそれとしてモルドにはもっと狙撃訓練させないと」


ぼそ、と呟かれた言葉はモルドには届かない。それが幸か不幸かはさておき、ルストは自分が身を置いた戦場に意識を戻す。

ガゴン!と変形が完了し、青い流線型の……全体的にシャープでありながら丸みを感じさせる装甲に包まれた機巧の剣士となったルストが大刀を構える。


「……伐斬凱青(バツザンガイセイ)


『何パターンあんだよ……!』


『散れ散れ! 5メートル以上離れてから撃て!』


その対応は間違っていない。戦術機の膂力、速度、そして射程(レンジ)は生身の開拓者のそれとは異なる、言うなればスキルや魔法を使用不可とする代わりに己が身を大きくする……個々人の存在の拡張(・・・・・)、それが戦術機の存在意義だ。

故にルストから距離を離して銃火器のアドバンテージを活かす……それはなんら間違っていない。唯一間違いがあるとすれば……それは目算だ。


「……残念、5メートルは私の距離」


『速───』


『”スケープゴート”!!』


轟、とブースターを噴かした青い剣士が司令塔……アップルパイへと迫る。5メートル圏内に入れば、あるいは入れれば(・・・・)確実に殺しきる、というコンセプトで設計された戦術機RS:Ο「伐斬凱青(バツザンガイセイ)」の大刀がアップルパイを唐竹割りにせんとする直前、それを蹴り飛ばしながら自分が犠牲者となる随分と荒々しい動きで戦術機が飛び込んできた。


「……!」


ルストにはその左腕が動いていない戦術機には見覚えがあった。確か一度逃した者だ、今度は確実に………そこでようやく思考が発せられた台詞の理解に追いついた。


(スケープゴート?断末魔じゃない………暗号、合図、捨て駒!)


周囲の戦術機が一斉に銃口をルストに向ける。躊躇いなく発砲、そこに今まさに斬り裂かれんとする同胞への配慮は欠片も見られない。


「……ッ!」


なるほどそういう事か、とルストは自らの死を厭わず掴みかかってきた片腕(ドーナツ)を膝蹴りで押し戻しながら身を翻す。味方もろともの集中砲火、「伐斬凱青」の装甲はその流線型のフォルムで攻撃を受け流すコンセプトだが、四方八方からの弾丸は流石に許容の外だ。


であれば、許容の内側に収まるまで無茶をする。

ただ真っすぐに、全力の加速。それにすら追随する弾丸の嵐を必要経費と受け入れながらも目指す先は包囲網の一人。


「……袋叩きは、突いて穴を開ければいい!」


『あっぶ!?』


全身から損傷のスパークと煙を上げながらも、サブマシンガンを装備していた一人(チョコレート)の脇腹を大刀で斬り裂きながら包囲網を抜け出したルストは、すかさず次の戦術機をインベントリアから呼び出す。


『クソッ! 次は赤色か!』


『いくつあるんだ! ていうか一人であんな持てるのかよ!』


『チョコ死んだ!?』


『生きてるけど大ダメージで動けん! 捨てていい!!』


本来であれば、ルストが今やっているようなインベントリアからの戦術機を高速で展開、変形というものは実は出来ない。だがそれはあくまでも基本的には、だ。

展開最適化端子(エクスポートアッパー)】というアクセサリがある。これは「鍵」系アクセサリが格納空間内からオブジェクトを展開する時間を短縮するというものだが………ルストはこれを三つ装備している。

戦術機を装備中はプレイヤー自身が習得している魔法やスキルを使用することは出来ず、さらに装備も戦術機用のパワードスーツを装備する必要があり、任意発動型のアクセサリも効果を発動することが出来ない。

だが、常に発動し続けるアクセサリだけは戦術機を装備してなお使用することが出来る。すなわちルストのパフォーマンスが異様に高い、ではなくGUN!GUN!傭兵団のパフォーマンスが低いのだ。


「……雅龍鳳枢(ガリョウホウスウ)


まるで誰かに見せつけるように真紅と黄金の華美な”(ブースター)”を開き、ルストの身体が上空へと羽ばたく。

それは黄金の龍王へのリスペクト、そしてそう易々とは使えない真紅の朱雀(お気に入り)への挑戦。特別を省いた汎用で特別なそれらへどこまで迫ることが出来るのか。それを突き詰めた戦術機RS:Δ「雅龍鳳枢(ガリョウホウスウ)」を纏ったルストは、眼下の傭兵団達を見下ろし、武装を展開する。


「……爆撃開始」


一切の容赦が無い爆撃が街に、そして傭兵団達四人に降り注ぐ。「できれば街に被害は出さないようにしよう」と考えるだけの理性をルストは今も持っているが、それはあくまでも「できれば」の話だ。モルドのように必要であれば被害を出すのも厭わない、とは違う。ノって来たから(・・・・・・・)、という理由でルストは半径20メートルを丸ごと焦土にする勢いで爆撃を行う。


(……これで全滅するならそれまで、どうなる?)


その時だった。


『現着ゥ~っ!』


「……ッ!?」


間延びした拍子抜けするような声。そして……ルストの拍子を完全に貫いた狙撃銃の一撃。

それは雅龍鳳枢(ガリョウホウスウ)の翼の根元を的確に破壊し、滞空に要するブースターの片割れを損失したルストの身体はバランスを崩して地へ墜ちていく。

だが、かつて緋色の片翼をもってネフィリムホロウの頂点に立ったルストにとって偏ったブースターで機体を制御する事は、決して不可能なことではない。残った右翼のブースターを器用に制御し、まるで竹とんぼがその回転を維持したまま地面に落ちるように不安定ながらも加速力で無理矢理姿勢を維持した回転運動で不時着したルストはすかさずスモークミサイルを足元に叩き込んで煙幕を発生させつつ、思考と行動を同時に行う。


(撃たれた、狙撃? いや、狙撃手はモルドが相打ちにした………違う、狙撃手だけが狙撃銃を使えるわけじゃない、私のキルスコアは2、モルドが1、この場に四人………もう一人いた(・・・・・・)


何度か使用しつつも、損傷が少ないRS:◇「玉石紺攻(ギョクセキコンコウ)」を展開しながらルストはこれまで姿を見なかったGUN!GUN!傭兵団最後の一人を思い出す。


”A”pple pie、”B”utter scotch、”C”hocolate、”D”onut、”F”ig、”G”inger ale、”H”oney toast。抜けているのは”E”のフォネティックコード。そして事前調査で調べた、GUN!GUN!傭兵団で”E”を担当するのは───


『へぇ~、なんかヤバいのがいるってのは無線越しに分かってたけど~…………強そうじゃ~ん?』


配信者としての活動では「エコー」と、そしてこのゲームにおいては「エクレア(”E”clair)」を冠する男。

GUN!GUN!傭兵団最強のプレイヤーが機巧の鎧を纏いながらも随分と慣れた動きで狙撃銃を投げ捨てながらも、煙越しに正確にルストへと照準を合わせて二丁拳銃を構えていた。


1v1(タイマン)やろうぜ~?』


「……上等」

・RS:Ο「伐斬凱青(バツザンガイセイ)

対人~対戦術機体想定の斬撃特化型。全身を流線型の装甲で構成することで敵の攻撃を受け止めるのではなく受け流す設計思想の元、射程距離5m圏内でのベストパフォーマンスに特化している。武装は大刀一本と腕部に仕込んだ双剣二本。


・RS:Δ「雅龍鳳枢(ガリョウホウスウ)

RS共通の名前に色を入れる法則を無視した派手なネーミングセンスのソリッドメン。飛行能力に特化しており、空中戦だけではなく対地爆撃、滞空しての長距離狙撃などを可能とする空の覇者(ルスト談)。その名にある「鳳」の規格外戦術機「朱雀」の再現を目指すと同時、名前に「龍」が盛り込まれている通りユニークモンスター「天覇のジークヴルム」へのリスペクトも盛り込まれている。強いて言うならば「赤」と「金」の意味を持つ戦術機とも言える。




電撃菓子(エクレア)3号@GGMC

エクレアが設計した戦術機球キューブメン。西部劇のカウボーイのような意匠(デザイン)でありながら、分厚い装甲を採用しているため、ふとっちょのカウボーイのような印象を与える。

ブースターの稼働率に大幅に手が加えられており、その推進力は太く短い。さらにその両手にはあるギミックが仕込まれており、配信を見ているリスナーに真似させる気のないエクレアの操縦に特化した専用戦術機と言える。

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