12月19日:回した根の長さ
全部何もかもマスターデュエルとアルセウスのせいです
◇
(屋内に潜伏してる? 地下……はどうだろう、流石にスナイパーがそこまで射線切るかな。でも下水道を通って別の場所に移動している可能性は高い、流石にもうインパクトソナーは撃てない………そうなると………)
その時だった。サードレマの空に飛翔する光の一撃。それは周回軌道で移動していた
「狙撃!?」
中枢を貫かれ爆散した索性子機に目もくれず、モルドは斜線を辿って狙撃点を特定する。狙撃は出来ない、索敵の為に攻性子機を操作している弊害だ。
「位置は近い……ドローンで位置を割り出す!」
片手で操作できる攻性子機を両手で二機、それぞれをメット内に表示したサードレマ市街地のマップに従って巧みに操作しながらモルドは狙撃手を挟み撃つように攻性子機を狙撃点へと急行させる。
街道に姿は無し。攻性子機Aを上空に移動させつつ、モルドは数秒ほど迷った末に攻性子機Bに搭載されたショットガンで民家の扉を破壊して突入させる。
「いない………いや違う!」
カメラを真横に向ければ、そこにはでかでかと壁に開けられた大きな穴……そして、風通しの良くなった壁から見えるは攻性子機Bに銃口を向けた戦術機の姿。
「~~~~~~~っ!」
反射的に攻性子機Bを操作する腕が強張る。だが完全な不意打ちではなく、もしかしたらと予想していたからこそモルドは無理やり強張った左腕から意識を引き剥がして右手にのみ意識を集中させる。
攻性子機Bのカメラから送られた映像に一瞬光が瞬き、信号が途切れる───
だが、
「見つけた……!!」
攻性子機Bを切り捨て、攻性子機Aにのみ集中していたモルドはついに敵狙撃手を完全に射程圏に捉えていた。さしもの
家屋と家屋の間、小道にいる標的を狙って攻性子機Aから放たれた散弾を全身で浴びる事となった敵狙撃手だったが………その機体に目立った傷はない。
なにせ攻性子機に搭載されているショットガンは非常に威力が弱い。それこそVITに全くパラメータを振っていない半裸という、そうそうない条件を満たしていなければ致命傷を与えられない程だ。
『こけおどしか……? まぁいい』
すぐさま銃口が攻性子機Aへと向けられ………映像ごと信号が途絶えた。それを無言で眺めていたモルドだったが…………
「よし」
その表情は、失敗とは程遠い笑みの形となっていた。
◇
「生身想定だったのか……?」
標的にされたドローンを即座に捨て、もう一つのドローンで攻撃を仕掛ける。敵が即座の割り切りと瞬間的な判断に秀でていなければできないアクションをしたことにそれなりの衝撃を受けていたジンジャーエールだったが、そのあまりにも低すぎる威力のショットガンに首をかしげていた。
「あの程度じゃ戦術機相手じゃカスダメにもならない。なら何故攻撃を仕掛けた……?」
恐らくゲームバランス的にドローンにはそもそも高火力の武器が搭載できないのだろう。もしそれが可能ならば、とっくの昔にこのゲームはドローン戦争になっているはずだからだ。下手をすれば戦術機を装備していない生身ですら仕留め切れないのではないだろうか。
だからこそ、ショットガンで射撃という行動に納得がいかない。もしジンジャーエールが攻撃側であったのならば……
「普通、ドローンにC4くっつけて突撃とかだろう……」
それがセオリーだろう。わざわざ重量を割いてまで低威力の武器を搭載するくらいなら、爆薬でも積み込んで自爆特攻させるのが一番費用対効果的に優れている。だがそれをしなかったのはわざとか、それとも油断か。
「とにかくこれで三機撃破。残るドローンは三つ……広域探知をノーリスク低コストで出来るとは思えない、あれを破壊すれば探知はできない筈だ」
狙撃銃をリロードし、また別の民家で息をひそめながらジンジャーエールは窓から上空を見上げる。何をするにしてもこちらの情報が向こうに筒抜け、というのは非常によろしくない。そうしてじっと外を見ていたジンジャーエールはふと気づいた。
「何か飛んで……───」
◇
アーサー・ペンシルゴンと
だがこの二つには明確な違いがある。それは人数ではなく方針でもなく、性格の悪さや目的ですらない。それらはそもそも比較する必要がない。
論ずべき点はただ一つ。それは立場だ。
今回の王国騒乱にあたり、配信戦線もアーサー・ペンシルゴンも総大将たる新王アレックス、及び前王トルヴァンテから開拓者達を率いる者としての立場を与えられている。とはいえ、NPCならともかくプレイヤーが大規模なイベント戦で総指揮を取ることのデメリットは両者共に重々承知している。(そもそもプレイヤーが指揮系統に入る確証もない)
故に「正統王国開拓者軍指揮官」なる立場を与えられた配信戦線はそれをひけらかすことすらせずに君臨すれど統治せず、あくまでもプレイヤー個々の活動という形を取り………「サードレマ特別相談役」の立場を持つペンシルゴンは開戦までの”裏方”を担っているという体でその存在すら明かしてはいない、無論王国騒乱イベント期間中も何か指示を出しているわけでもなければ号令をかけているわけでもない。
共に得た肩書きとそれによるメリットを捨てるところまでは同じ。だがそれでも肩書きそのものの意味合いが違う。配信戦線のそれはあくまでも現場指揮官的なものに過ぎないのに対し……アーサー・ペンシルゴンの持つ相談役の肩書きはサードレマの政治中枢に影響力を持つ。
サードレマ大公、ひいては前王トルヴァンテに対して特別相談役ペンシルゴンが提案したのは極々シンプルなものだ。すなわち──────
「おいおいおい……! 本拠地でミサイルぶっ放すだと!?」
サードレマにおける大規模火力作戦の認可である。かみ砕いて言えば………勝つためならサードレマの半分までなら
「うおおおお!?」
潜伏していた民家から慌ててジンジャーエールが飛び出した直後、民家に八発のミサイルが着弾する。火に衝撃を伴う爆発が隣接する民家ごとターゲットを吹き飛ばし、なんとか即死を免れたジンジャーエールが振り返れば、そこには民家の痕跡すら残さない瓦礫の山が燻っていた。
「…………まずい事になったかもしれないな、これは」
ジンジャーエールの口から思わず、といった様子で言葉が漏れる。
潜伏は完璧だった、であるにも関わらずミサイルは的確にジンジャーエールが潜伏していた場所を狙ってきた。それはすなわち、自身の座標がどういうわけか向こうに完全に補足されているという事。
「作戦変更だ……!」
ジンジャーエールが見上げた先、自身めがけて殺意の数々が飛来する。
このサードレマを守るために!!(民家粉砕)