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12月19日:遠く交差する思惑

古戦場一位の人たち読者しかおらんのか?って段々怖くなってきた今日この頃

マンモス君がくれたインターバルで書き上げました、ありがとうマンモス君……闇古戦場に出張ってくんなや!!


モルドから転送されてきた敵の位置情報、そして先程の一発………それだけでルストはおおよその状況を把握していた。というよりも想定していた状況に合致した、というべきだろうか。


(……元々、あっちのメンバーの中にスナイパーがいるのは分かっていた。というか基本的に全員どの射程でも普通に戦える人たち。モルドが狙われるのは想定内)


あわよくば向こうが配信映えを優先して全員でモルドを狙撃! などしてくれれば横から根こそぎかっさらうこともできたが……やはりそう甘くはないようだ。


(……五人が一か所に集まっているのに対して一人だけ単独行動している……この単独一人がさっきの狙撃手。五人集まったのは数で一気に突破するため?)


これが普通の対戦であればルストも単独行動するスナイパーを狙いに行っただろう。場所のバレたスナイパーなど案山子と大差ない。

だがこれは防衛戦だ、百人倒しても残った一人が本丸を攻略してしまってはキルスコアは勝利に貢献しない。故に今ルストが選べる選択肢は一つだけだ。


「……五人を相手にする」


先ほど戦闘を行った場所付近に集まりつつある五人。もしルストを避けて体制を整えるなら悪手といえる場所にあえて集まる理由……最初の広域探査でこちらが索敵手段を持っていることは分かっているであろうことを踏まえれば答えは一つ。


───呼んでいるのだ、かかって来いとでも言わんばかりに。


「……上等。乗ってあげる」


より劇的なシチュエーションはルストも望むところだ。より大きな注目を集めるほどに……登場人物の言葉にはそれに比例した力が宿る。

ルストは五つの反応が集まる場所へと急行する。その背に大いなる使命を背負って………






安全領域(セーブゾーン)】の本意気はただの後方支援ではない。

剣聖の代名詞でもある従剣劇(ソーヴァント)をドローンの思考操作で擬似的に再現し、攻・守・索の三要素を高水準で満たす事を可能とした「動く司令塔」。それこそが【安全領域(セーブゾーン)】………安全な場所に陣を敷くのではなく、陣を敷いた場所を安全にする。それがこの戦術機の基礎コンセプトである。


「本当は本丸決戦想定だったんだけどなぁ……!」


モルドが当初想定していた最終防衛と決戦支援を兼ねた用途とは少々異なる出番となったが、元よりPvPが何もかも思い通りにならないことはよくよく理解している。

なってしまったからにはやるしかない、モルドは【安全領域】を防御形態に固めながら視界を埋め尽くすように展開された各ドローンの制御を開始する。


索性子機(サーチドローン)に帰還……いや、さっきのスナイパーがいた辺りを円周軌道で周回させる。防性子機は直線上で待機しつつ一つは自衛モード、攻性子機はマニュアル操作だ)


二度目の広域探査で割り出した情報からルストが導き出した結論と同様の理解をモルドも得ている。故に集結しつつあるGUN!GUN!傭兵団五名をルストに丸投げし、モルドは狙撃手……事前に情報収集のために見ていた彼らの動画内での役割分担から考えても傭兵団でも屈指のスナイパー「ゴルフ」との対決に集中する。


(ちょっとでも射線が通ったらアウトだ、車で走ってる相手もヘッドショットできるような人だし……向こうが先に構えていたら僕に勝ち目は無い)


同じ状況のように見えて、しかし向こうは攻城戦でこちらは防衛戦だ。【安全領域】が固定砲台寄りの性能である事を踏まえて高速で動き回るような戦闘は行えないし、なによりも最終防衛ラインとして大公城から離れすぎるのも良くない。


その点においてサードレマ市街を自由に移動して狙撃ポイントを選ぶことができるゴルフ……確かシャンフロでのプレイヤーネームはジンジャーエールだったか……の方が明確に有利と言える。

何せ狙撃の腕で劣っているのだ、モルドは後手に回った時点で常にヘッドショットのリスクを負い続ける。


ならばその不利を覆さなければモルドに勝ち目はない、その為のドローンだ。


(索性子機はエネルギー消費が大きいから多用できない、カメラだけ繋げておきつつ索敵中(・・・)と誤認させる……本命はマニュアル操作の攻性子機、こっちを動かして潜伏した敵を炙り出す!)


防性子機は先手を打たれた際の保険と「狙撃を防ぐ手段」というカードをあえて開示する事で相手にプレッシャーをかける二つの意図がある。

元より大公城という最大の防御(防衛する者が防衛対象を盾呼ばわりするのもどうかと思うが)がある。率先して使い潰したいわけではないが、潰れてもいいが故の布陣だ。


(ドローン操作とか懐かしいなー、ルストが緋翼連理の二つ前のネフィリム使ってた時はよくドローンで爆弾貼り付けたりしてたっけ)


すいすいと苦もなく二つの視点で市街地内を飛ぶ二つのドローンを制御するモルド。それは複数本の剣を操って激しい戦闘をこなすサイガ-100の技術と同じように見えて、それとは異なる驚異的なテクニックであった。


「よーし……早撃ち勝負だ」





「───ドローン、か」


一方、民家の壁をぶち破って潜伏中のジンジャーエールは上空に漂うディスクのような形をしたドローンを見つめながら思案していた。


「空でずっと回ってるのが索敵ドローンだろう、ならあそこで滞空してるのは……防御用か? 二つあるが片方は……動きが臭い(・・)な、オートっぽくない」


モルドと異なり、ジンジャーエールはGUN!GUN!傭兵団……すなわち配信者だ。リスナーに自分が今何を考えてどうするつもりなのか、その思考を言語化して伝えなければならない。

自身の戦術機(ピラミッドメン)「GGMC:ホール・イン・ワン」の確認を並行しつつ、隕鉄鏡へとさらに呟いていく。


「厳密に何機いるのかが問題だな、当てられないことはない大きさだがにしても小さいから全部で幾つなのか把握できなかった。見た感じ……五か六、ってところだろうが」


十機二十機と展開されていたらもっと分かりやすく大量に空を飛ぶドローンが見えたはずだ。だがそれが無いということは戦術機、ひいてはプレイヤーのキャパシティー的にも多くても八機といったところだろう。

すなわち、現時点でジンジャーエールが把握していないドローンが最低でも一機以上は存在しているということだ。


「芋砂……ってのも失礼か。優秀な防衛砲台(スナイパー)だ……だからこそ対芋砂と同じ方法で攻めるとしよう」


ぺふ、とジンジャーエールは民家の床に残されていた猫らしきモンスターのぬいぐるみをベッドの上に置いて立ち上がる。


「我慢比べだな」

・GUN!GUN!傭兵団

エンジョイ優先のカジュアル勢を自称しているが実力はプロゲーマーチームともそこそこ(・・・・)渡り合える程度には高い練度を誇る。特にメンバー同士が集合しての敵拠点への突撃には定評があり、「全員スナイパーで突撃してみた」は6000万再生を記録した。


コミカライズ版シャングリラ・フロンティア7巻好評発売中です。ありがたいことにAmazonの売り上げランキングではページ開いて二秒で見つけられる位置に七巻があったり、渋谷では30メートルだったり古戦場では一位だったりと色々感謝の意を述べないといけないことが多すぎてとりあえず平身低頭で感謝スタンバイ状態です。感謝を要求された瞬間に頭を下げる事が可能なまさしく早撃ち感謝………

それはそれとして七巻が発売したという事は八巻が待ち構えているという事です、ブルっちまうよ……

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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