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12月19日:たった八人の襲撃、たった二人の防衛

古戦場から一旦離れて読むことをお勧めします、できれば本戦中に三千回くらい読み直して欲しい、特に硬梨菜が対戦する相手団の人。


───敵は二人。


───大公城からの狙撃を引けば一人。


───複数の戦術機を切り換えて戦う。


───やばいやばいやばいこの人めっちゃ強い。


───砲身がグネグネ動いて……ぐわーっ!?



それが銃声と砲声の中、ハニートーストがかろうじて伝えてきた情報の全てだった。


「なーるほどね………」


成る程確かに、手薄なサードレマを狙えれば万々歳、とは考えていたが予想を遥かに超える奇手を打たれた。まさかたった二人しかサードレマを防衛していない、とは思わないだろう。

厳密にはサードレマの「外」に防衛線が敷かれているが、それにしたって内部の守りは二人というのはあまりにも少なすぎる。あるいは野良のプレイヤーは探せばいるのかもしれないが……恐らく、前王陣営側のまとめ役が直接任命したのはこの二人だ。


だが「舐めた真似を」とはもう言えない。

既にフィグとハニートーストが撃墜されている、彼ら二人とて初心者ではないのにも関わらず、だ。

敵は二人、そして何より……恐ろしく強い。


『どうするアップルパイ』


「これでケツまくって逃げたら末代まで弄られるでしょ、それにタイマン最強ならウチにもいるしな……エクレア!」


『こちらエクレア〜、とりあえずハニトーが死んだところに急行してまーす。あとどっかの戦場で死んだのかな~? リスポンしたっぽいプレイヤーを何人かキルしたよ。はい9キル~』


よし、とアップルパイは笑みを浮かべる。GUN!GUN!傭兵団は本気でプロゲーミングの道を目指したりしているわけではないカジュアルゲーマー指向の配信者グループだ。だからといって自分たちがプロのFPSゲーマーと比較して隔絶的な差があるとも思っていない。


「ジンジャーエール、敵砂頼める?」


『…………生粋の砂マンって訳じゃあなさそうだ、やるだけやってみよう』


「よーし! 作戦変更!! ジンジャーエール以外全員エクレアと合流!!」






「……うーん、狙撃警戒されちゃってるなあ」


モルドは姿の見えなくなったGUN!GUN!傭兵団の姿を探すが、どうやら向こうも狙撃を警戒しているらしく【安全領域(セーブゾーン)】の装備する狙撃銃のスコープには影も形も映り込むことは無かった。


「もう一回広範囲索敵を打つ? いや、エネルギー残量的にも早すぎる………」


安全領域(セーブゾーン)】とて戦術機、無尽蔵に稼働し続けられるというわけではない。念のために予備のエーテルリアクターを持ち込んではいるものの、それはイコール無制限というわけではないのだ。さらに言えばサードレマ全域を範囲とする索敵は特にエネルギーを食う、莫大なアドバンテージを得る代償は決して安くはない。


(最初索敵した時点で引っかかった八人はサードレマの四分の三くらいにばらけて出現していた。多分、いざって時は合流しやすくするために全域にばらけないようにしていた……と、思う。そして地上ではルストが大暴れしてるわけで、正直ロボを使ってるルストが負けるイメージ湧かないし、向こうもルストを最大に警戒してるはず)


少なくとも、Nephilim Hollowの機衣人(ネフィリム)とシャングリラ・フロンティアの戦術機に類似点が多い以上、ルストは仮に八対一であっても互角に渡り合える……それはモルドにとって確信と言っていいものだ。


とはいえ、シャングリラ・フロンティアにおいて戦術機は全てにおいて優位性を発揮しない。何せ最大の速度も最大の火力も最大の防御も、それらの栄誉は機巧ではなく生身の人間が持っているのだから。

故にGUN!GUN!傭兵団のプレイヤーが戦術機だけの強さで突撃を仕掛けている、と考えるのは早計だろう。


(……いや、ここは僕が墜ちるリスク承知でもう一度サーチをかけるべきだ)


あくまでも本命はルスト、そして自分の役目はルストがカバーしきれない範囲の補完と後方支援だ。モルドは二度目の全域探査を行おうとして……


「っ!!」


視界の端に映り込んだ、そして一秒と経たずに迫ってきた(・・・・・)光を肩装甲で受け止めた。


「狙撃!?」


完全に虚を突いた一撃、気づいていなければ側頭部に命中していただろう一撃を肩で受け止められたのはそれが実弾ではなく魔力光による狙撃であったからだ。慌てて射線から逃げるように隠れながらモルドは損傷状況を確認する。


(大丈夫、ある程度殴られること前提の衝撃拡散装甲だから挙動に問題はない。でも………)


その可能性はあった。否、あって当然のものとしてモルドも計算に入れていた。GUN!GUN!傭兵団がFPS……銃を撃ち合うゲームに慣れ親しんでいるというなら、当然その中に狙撃を得意とする者がいるだろうことは分かっていた。


(多分……っていうか、間違いなく僕より上手いスナイパーだ……)


狙撃というものは理不尽を感じるものだ。だが本当に強いスナイパーは理不尽すら感じさせない……その気配すら気取らせない、それを思考する前に脳を撃ち抜かれている。それこそが本当に強い狙撃手だ。

そして今の一撃は……モルド自身は全く認識できていなかった。いるはずがない(・・・・・・・)と思っていた場所からその光は放たれていた。


(……でも。これはただの銃撃戦じゃない)


これが生身の狙撃対決であればモルドに勝ち目はない、だがこれは戦術機同士の対決だ。向こうが銃撃戦に親しいというのなら、こちらはロボット同士の対戦に親しいプレイヤーだ。


「よーし………防性子機(シールドローン)攻性子機(アサルドローン)、展開!!」


四つ足の膝が花開く……否、膝にくっついていたドローンが展開し、飛び立ったのだ。それらはモルドの操作、あるいは自律的な行動によってサードレマ大公城から飛び立っていく。


「さて。サイガ-0さんのお姉さんは五本マニュアル操作できるんだっけ………僕にも真似できるかな?」


周囲を警戒しつつ、再びモルドは広域探査を起動する。それは敵の位置を把握するためであり……同時に、これからまともに支援できなくなるルストへの今出来うる最後のアシストのために。


「さぁやろう、【安全領域(セーブゾーン)】!」


安全とは、己の力で勝ち取るものだ。

・ドローン

オートパイロットモードとマニュアル操作モードがある。要するに剣聖のアレですよね、どっちかというとこっちが先ではあるんですが……時代的に。

差別点としては当然だがスキル補正が乗らないが、射程がとにかく広い(ただし搭載できる武装がしょっぱいのでぶっちゃけ生身でもサンラククラスじゃないと大ダメージにならない)




話は変わりますがコミカライズ版シャングリラ・フロンティア7巻が1月17日に発売します!

表紙は悲しきカップ麺モンスター、生活力が無い訳じゃなくて食事に対するパラメータ振りがカップ麺までしか振られていないのです。惜別の涙を使うためにちょっとだけ信仰にレベル振ってる感じですね。

あと17日から渋谷でなんか色々シャンフロがジャックするらしいですよ……硬梨菜の人生トロフィーコンプリートプレイの中で「自分の書いた文章が30メートルになる」なんてトロフィーを獲得する日が来るとは思いませんでした、取得率何%なんですかねこれ

そんなこんなで2022年初っ端からフルスロットル、そしてさらに加速していくシャングリラ・フロンティアを宜しくお願いします。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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