12月19日:Wake Up! Guns Guns Mercenary cor←Shoooooot!!
◇
事前の予告は無かった。
事前の告知は無かった。
事前の予兆すらなかった。
すなわち、それは完全な………
「はーい! ガンガンやってる!? GUN!GUN!傭兵団アルファです!!」
下水道への侵入、あるいは下水道からの侵入を阻むための鉄格子を粉砕しながら、灰色の金属塊が姿を現す。
左手にグレネードランチャーを装備したその金属塊は、辺りを索敵しながらも自身の周囲を浮遊する鉄鏡に朗らかな声を上げる。
「完全突発配信! GUN!GUN!傭兵団フルメンバーによるサードレマ電撃作戦!! クリスマスには早いけどサプライズ配信!!」
ボポンッ、と間の抜けた音を立てて真上に向けられたグレネードランチャーが弾を上に発射する。弾速に優れているわけではない擲弾は緩やかに上へ上へと登っていき、その推進力によって届く上限まで到達したところで…………
「
グレネードランチャー自体の能力により、射手本人の任意で起爆した擲弾が上空に大きな爆炎の花を咲かせた。そして、それに呼応するようにサードレマの各所から同様の爆発が連鎖していく。その数、合計八つ。
それはサードレマの各所に【
「いや本当、SNSで連日「GUN!GUN!傭兵団なにやってんの?」って百万回聞かれましたけどね! 全てはこの日の為だったってわけですよ! 見てるかリスナー! 祭りだ祭りだ祭りだーっ!!」
全てはこの瞬間の為に。初日のぱやぶさによる電撃戦術に紛れ込んでサードレマの地下下水道から街に侵入、そしてそれぞれが潜伏してイベント終了一日前まで待った上で
それこそがGUN!GUN!傭兵団が立てたプラン、正真正銘”勝つための”電撃戦術であった。
アルファ、もといシャンフロでのPN「アップルパイ@GGMC」はある程度の練習を重ねたとはいえ、やはり生身とは異なる動きの戦術機の調子を確かめるように軽く
「では改めて戦力紹介……っていうかまぁ動画制作担当の
シャンフロにはログインせず、八人の配信管理を一手に担っているだろうもう一人のメンバーに謝罪しつつ、アップルパイは改めてサードレマの街並みを見渡す。
人気のないがらんとした光景は、民衆がどこかに避難した後だということを示している。それは本気の市街地戦を求めてこのイベントに参加したGUN!GUN!傭兵団からすれば肩透かしどころか肩を落とすような残念な結果であるのだが、まさかそれを口にするわけにもいかないのでアップルパイはほんの少しだけ溜息を吐いて気持ちを切り替える。
「これより我々GUN!GUN!傭兵団は市街地を突破して敵本丸に突撃、前王陣営の要人トルヴァンテとアーフィリアを確保する! 点呼!」
『バタースコッチ了解でーす』
『こちらチョコレート、了解~!』
『こちらドーナツ、了解』
『こちらエクレア~、あいあいさー』
『こちらフィグ、了解……せめてコードだけフィナンシェに出来ないかな』
『…………こちらジンジャーエール、了解。紛らわしいから諦めろ』
『こちらハニートースト、了解しやしたー』
昨今ではリアルタイムでの動画編集すら可能となった時代だ、実際にゲームをプレイしている八人の配信はリアルで動画編集を担当する「エックスレイ」によって一つの生配信動画として現在進行形でGUN!GUN!傭兵団のチャンネルで配信されている………このリアルタイム編集による多視点配信こそがGUN!GUN!傭兵団が高い人気を誇る理由の一つである(チャンネルの屋台骨とも言えるエックスレイも含めたメンバーのキャラクターも人気の一員である)。
「さあて………このリアリティでガチの攻城戦ってのも燃えて来た…………ぅおぉっ」
ぶるり、と身体に震えが走る。それは武者震いのようで、あるいは強風が吹きつけたようで……………
「
戦術機はカスタマイズによってその性質は千差万別であるし、オンリーワンの機体ともなれば再現が困難な特殊機能を持っていることもある。だが一つだけ共通していることがある。
それはスーツは気密性に優れており、風など感じるはずが無いという事──────
『アップルパイ!
ソナー、索敵、即ち…………
◇
がごん、と重い連結音が響く。だがそれが
「………よし、」
瓦礫によって最上階にあった捕虜用の軟禁室は原型こそ留めていないものの、辛うじて塔としての形は維持しているそこから長大な……あまりに長すぎてそれを構えながら動くことが困難な程に長い銃身をサードレマ下層に突き付けるそれは、まごうことなく金属の塊であり………
しかし、まごうことなき人間であった。
「ルスト、作戦開始だよ」
『………了解。支援は不要』
「言うと思った。じゃあ僕は僕でチクチク狙撃してるよ」
その金属塊には名がある。神代の技術と、ネフホロ最強の女王の影に控える支援屋………あるいは畏敬と揶揄を込めて
「【
『
装着者の音声を認証した戦術機が右背部に搭載した奇妙な箱のような装置を展開する。それは見ようによっては大型の
───────────────ッッッ!!
それは音を発しなかった。否、少なくとも人間の可聴域では聞き取れない音……あるいは衝撃を放った。
それはサードレマの上空四か所に展開し、自立滞空する
「一人発見………じゃあ始めようか」
本体リアクターに直結された超長距離
◇
「どおおおっ!!?」
アップルパイは
キュゴッッッッ!!
「おいおいおい………生身だったら弾け飛んでるでしょこれ………」
石畳を抉り貫いた狙撃の跡を見つめながらアップルパイは思わず、と言った様子で呟く。だがアップルパイとて歴戦のFPSゲーマーだ、既に状況把握は思考内で完了している。
既に配信者ではなく
「
後に「サードレマ機鋼戦」と呼ばれる一戦。戦術機というコンテンツにおける”最上級”を世に知らしめた戦いは一発の銃弾から始まったのだ。
・戦術機錐ピラミッドメン【
ネフホロ界隈にて「タッグマッチのモルドは最優先で潰せ」「デバフを撒き散らす呪いの石像」「広域スピーカーで落語を流すのもやぶさかではない」とまで言わしめるモルドが自身のプレイスタイルと王国騒乱イベントで予想される戦闘から逆算して設計した戦術機。
ステルスしながら広域探査で敵の位置を補足してルストに伝達しつつ自身はサイレンサー付きの狙撃銃で狙撃し続けるという人によっては額に青筋浮かべて罵倒しかねない後方支援火力に特化しており、放置すると場所はバレるわ狙撃されるわルストが向かってくるわで厄介極まりない。
なお”