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12月17日:メラメラ・ビートアップ Part.10

ド難産でした


上昇する温度に限界は無いとされている。ただひたすらに、尽きせぬエネルギーを攻撃に注ぎ込めばその眼光は空間を削ぎ落すかのような光熱を以て大気を切り裂き、もはや燃焼という現象すら起こす前に焼失した大気の欠落を埋めんと流れ込む大気の流れによって、轟々と嵐の如く風が吹き荒れる。


否、それはもはや乱気と呼ぶことすら烏滸がましい。焠がる大赤翅の蝶貌から放たれたレーザーの通過した場所の大気が莫大な熱量によって焼失し、そしてその光は巨大な赤子からすればぶんぶんと周囲を飛び回る戦術機(羽虫)の群れを撃ち落とすために何本も、何度も放たれている。

大気の"虚無"を埋めようと流れ込む大気がさらに焼き消されるのだ、円を描くだけ竜巻や台風の方がまだお行儀が良い。

右に流され左に吹き飛び、上下も前後もおぼつかない程にかき回される光景……やっとの事で焠がる大赤翅の背中にたどり着いたオイカッツォ達が見たものがそれだった。


「人間ピンボールってこういうことなんだね……」


「なまじ空中なせいで熱線に当たるまでぶっ飛ばされ続けてるやつがいるのも哀愁を誘うぜ……」


戦術機を纏ったプレイヤーとて強風の影響は受ける。ましてそれが左右上下前後にきりもみ回転を伴うような超乱気流の中とあっては、死ぬまでピンボールになるのも無理はない。結果的に背中という眼光が届かない場所に登攀という手段で辿り着いたことは最適解であった。


「さて………登ったはいいけどどうしようか」


「無策だったのか?」


「いや、改めて見てみると規模がデカすぎてどうしたものかって」


焠がる大赤翅「擬人相」は巨大だ。山頂から山麓にまで届かんばかりのサイズともなれば、背中だけでもサッカースタジアム並の大きさになる。ましてゲーム的に体感距離が縮小されてこれなのだ、シナリオの設定に忠実に準拠したならば最早そのサイズは人間が群がってどうにかなるものではなかっただろう。なにせ手を振り回し這い回るだけで地上の人間が潰れ、その目から放たれる熱線によって空中の人間は蚊トンボのように蹂躙される。

ただやみくもに殴ってどうにかなるものなのだろうか、とその圧倒的すぎるサイズに不安になっていたオイカッツォであったがそんな不安を晴らしたのは身近にいた人物だった。


「俺に案がある」


「なにか知ってるの?」


「いいや………”象牙(ママ)”のところで色々調べてたんでな。英才教育って奴さ、俺ぁ今この瞬間も性癖(ユメ)の中に生きている……!」


何もかもが狂っている、その言葉をギリギリで呑み込めたのはまだエターナルゼロが気心知れた友人の枠に到達していないからだろう。友人の友人は八割くらい他人と相場が決まっているのだ。そしていま、残る二割の関わりを悔いているのだ。


「いいか、焠がる大赤翅の……"今の"焠がる大赤翅の本質はデカいことじゃねぇ、奴が人の姿になってるってことだ」


「特撮の巨大ヒーローだってもう少し可愛げのあるサイズだけどね」


「元より奴はエネルギー無限大の生きた力の塊だ、少なくとも世界観的な設定だけなら………死なないだろ、そんなの」


「ゲーム的には死んでくれないと……………いや、待った」


そこでオイカッツォは気づいた。気づいたと言うよりは思い出した(・・・・・)。大多数がそうであったから、少数のその可能性をド忘れしていたのだ。


「撃破は撃破でも撃退(・・)の可能性か!」


ウェザエモンが、ジークヴルムが、そして同じレイドモンスターである彷徨う大疫青が討伐というHPが0になる形での決着だったからこその失念。クターニッドや話に聞くリュカオーンはどちらかの命が尽きるのではなく、戦闘の終了という形の決着である。

相互理解の「そ」の字も叶わなさそうな敵であったからこそ、お帰りいただく(・・・・・・・)という答えから離れていた。


「……そうなると、やっぱり消耗させる必要がある? いや……このゲームならマジで体力無限とかありそうだし……」


「へっ、大事なのはそこじゃねぇって言ったろ? こいつはなんの心意気も分かっちゃいねぇ、見てくれだけのオギャりだがな………見てくれだけなら赤子なんだぜ」


オイカッツォの背中から降りたエターナルゼロは揺れ動く焠がる大赤翅の上をよたよたと進みながらも人体でいう肩甲骨の辺りに辿り着く。


「赤子が何故はいはいするのか……それはママのところに帰るためだ」


「そうかなぁ?」


「そしてなぜ赤子がママを求めるのか……それは"信頼"……命として脆弱な自分を守ってくれる存在への、全てを預ける本能の信頼……! すなわちトラスト・マミー……!! こいつにはそれがねぇ! 完全無欠の存在故に! どれほどに真似たところで……こいつには甘え(・・)がねぇ! 甘えてんのか!!」


狂人が暴論を振り回している。どうせなら拳を振り回してこちらに襲いかかってきた方がまだマシだったとオイカッツォは遠い目をするが、残念ながらエターナルゼロは味方であり……さらに言えば、とても心強い”智者”であった。


「ベヒーモスライブラリでこいつの情報には目を通してある。こいつの本質はエネルギーの塊ってことだが………こいつ自身の”自我”を確立するためにその形状にはある程度の縛りが発生する……これは他の始源眷族にも言える事らしい。新大陸の───」


「悪いね、青空教室やるなら別の日で良いかな!?」


「ああ(ワリ)い、要するに………本体はあくまでも顔のアレ(・・)ってことだ」


そう言ってエターナルゼロが指さしたのは焠がる大赤翅の頭部……さらに言えば、顔面に張り付くように生えた蝶の貌そのものだった。


「つまり顔面を狙えと?」


「へっ、自分で「撃退が勝利条件」っつったじゃねぇかよ? 多少翅を削ったところで即回復されるだろうよ…………いいか、こいつは今人間の赤子を模倣している………完全無欠の性質で不完全な……ああ、肉体的な意味で、な? 赤子は完全生命体だからな……ともかく、こいつはこの姿になったからこその弱点を負っている」


正論と暴論の二丁拳銃で蜂の巣にされたような気分になったオイカッツォだったが、正論部分だけで言えば納得できないこともない。とはいえ、だ。


「殴っても死なない性質そのままに赤子になったこれにどんな弱点が?」


首が据わってないのさ(・・・・・・・・・・)



……


…………


………………



オイカッツォはインカムを通して、パーティメンバーに……そして、パーティメンバーを通してこの場にいるプレイヤー全員に届くようにその指示(オーダー)を出す。


「あー。暫定だけど有力な攻略法が出たのでできれば全員に、他のプレイヤー達にも通達してほしい」


確証とまでは言わない。だが屏風ノ虎(スクリーンティガー)の攻撃によって、確かに他の部位に当てた攻撃よりも治りが遅い首の傷口を見ながら、オイカッツォは見当が外れればそのままレイド討伐失敗にもつながりかねない……しかし見当が当たっていたならば、まさしく勝利への王手となる一手を指す。


「弱点は首だ、焠がる大赤翅の頭部が火口に来るように誘導して………首を切り落とす(・・・・・・・)!!」


ちょっと長くなったので分割。思ったよりエタゼロがしゃべりすぎた


・擬人相

焠がる大赤翅が「人類」をコピーしたことで「完全な不完全」となった姿。要するに完璧にコピーしすぎて人間の構造的欠点もそのまま引き継いでしまった。確かに焠がる大赤翅は無尽蔵のエネルギーによってあらゆる損傷を即座に再生させることが出来るが、それは逆説的に「ダメージ自体は受けている」ということに他ならない。

さらに言えば、人をコピーしたという事は人並みの(・・・・)知性もまた脳の再現と共に生み出されてしまっているので、人並みの好奇心や嫌悪感、あるいは人並みの敵意も抱いている。

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