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12月17日:メラメラ・ビートアップ Part.7

かつてそれは山河を跨ぎ、大地を踏み締めていた……その時は、巨大な芋虫として。

だが幾星霜の時を経てただ自分のためだけに戦う事を許された焠がる大赤翅は、少し趣を変えることにした。


焠がる大赤翅は「赤」に属するモノであって別に「炎」に属するモノではない。

あるいは"赤き神"になっていたかもしれないそれは、あらゆる「力」を振るう事を許された偉大なる赤き神虫。

焔に視力(・・)を宿した大赤翅は、眼前に群れるモノ共………かつて蹂躙し(・・・・・・)たモノと似た(・・・・・・)ひょろ長い四肢を持つそれらが、「その形」であるからこそ可能なマナの流れを得ている事を認識していた。


自我を取り戻してなお希薄な意識の中で、無機質な思考が違和感の根本、大地の底の底を読み取る。


──────。


それに人間的な情緒は存在しない。しない……が。

強いてそれを人間にも理解できるように翻訳したなら、焠がる大赤翅は「理解した」と考えた。


「様子がおかしい!」


「翅を丸めた……?」


焠がる大赤翅にエネルギーを「貯める」という概念は存在しない。何故ならどれだけ浪費しようが、損失したエネルギーはすぐさま生産補填されるからだ。

だからこそ、丸まったその姿……「蛹」が羽化するまでに、そう長い時間はかからない。


「BBBBBBBBB………」


ぐむ、と炎が膨れ上がった。

何か分からないが行動させてはならない、と魔法や熱量喰いの弾丸が命中するものの世界観とゲーム、二つの理由からその攻撃は通じない。

炎球が膨れ上がる、そして直径10メートル程にまで膨張した炎球に一筋の縦線が入る。まさかくす玉の如く割れるのかとプレイヤー達は警戒を見せたが………不正解。確かに炎球は二つに割れた、だが分たれてはいない。


次は横に割れる、これで2が4になった。さらに割れる、4が8に。割れる、割れる、割れる……16、32、64………数千、数万と一つ一つの大きさを縮めながらも総合した大きさはむしろさらに肥大化し、そしてそれは形を変えていく。

その様子を見て、誰が気づいたか。ぽつりと呟かれた言葉が自分の背後から聞こえた事で、オイカッツォは正解に辿り着いたのがペッパー・カルダモンなのだと気づいた。


「細胞、分裂………?」


───灼熱の塊は極めて冷静(クール)な思考で結論を出していた。

大きな身体を作るとして、奴らの姿をそっくりそのまま真似ては不都合が起きる。であれば産み出す身体は地に四つ足で踏ん張り、安定感を高めた方が良かろう。

満ち満ちたエネルギーが四肢を肥えさせる。鍛え研ぎ澄ます必要はない、大赤翅はただそこに在るだけで誰よりも何よりも富めるモノ故に。膂力(・・)が足りないなら鍛えずとも増やせばいい。耐久力(・・・)が足りないなら耐えずとも増やせばいい。


神すらも羨む、尽きせぬ散財を許されし至高の赤色(プライム・レッド)。負けて従ったのではなく、白き神の願いに応じて従う原初の赤色(プライマル・レッド)


「これは……!!」


地が揺れる。丸々とした手指が地を握りしめる。

山が揺れる。足裏ではなく膝で地を踏みしめる。

それはキョロキョロと首を振り………視力(・・)を生やし忘れていた事に気づく。顔のない頭に花弁の如く翅が咲く。その姿を知らぬ人類はいない、試験官の中で生まれた二号人類とて知識として持ち合わせている人類(ヒト)という生命の大前提故に。


無貌に咲いた蝶の翅、その表面に巨大な……あまりに巨大な「眼」が浮かび上がる。

ぎょろり、と調子を確かめるように眼……灼眼球を動かした大赤翅は待たせたなと言わんばかりに眼下のそれらを睨みつける。


「BaaaaaBuuuuuuuuu………!」


赤子。巨大な赤子。蝶の顔を持つ赤子。大きな、巨大(おお)きな、偉大(おお)きな"赤"子。


「きっっっっっっ………しょ!?」


「いやこれどんだけ………ウチのアパートよりでけぇが!?」


「山の麓まで足届いてる……!?」


赤子が動く。火口の(ふち)に片手をかけて、もう片方を天に伸ばす。月すらも鷲掴みにしてしまいそうな巨大な手がパーの形で天に掲げられる。赤く発光する巨大な赤子だが、目撃者達は気づく。


「なんか、手に光が………」


ちょっと待て、とオイカッツォは呟いた。赤子の掌に宿る光、「赤」の始源眷族としての存在意義を否定するかのような青い発光(・・・・)を見て、しかしオイカッツォの警戒を最大まで高めた理由は色そのものではなくその光り方だった。


「あれ、まさかスキルエフェクト(・・・・・・・・)……っ!? 全員逃げ─────」


逃げる………どこへ?


焠がる大赤翅の「手」が栄古斉衰の死火口湖に叩きつけられ………大激震が起きる。


・始源解帰

眷族と眷属、互いに備えた能力であるが同音異議、その意味合いは全くの別物と言っていい。

エレボスに属するものが「大元の本体とつながる事でより強化される」効果であるならばアイテールに連なる眷族の始源解帰とは即ち神の支配からの一時的な脱却、かつて在った姿と力を取り戻す事にある。

しかしながらそれは「義務」ではない、取り戻した力を以ってかつての力を誇示するのも間違ってはいない。


でも「さらにその先」を見出す事だって出来るよね?

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