ウェザエモンの遺産
時間は数日前、ユニークモンスター「墓守のウェザエモン」戦を終えた二日後まで遡る。
墓守のウェザエモン戦を終えてラビッツ関連のシナリオも済ませた俺はログアウトすると、それまでの反動が一気にのしかかってきたかのように即寝落ちした。次に目覚めた時には丸一日経過しており、朝寝たら朝起きていた、という中々に無い経験をすることになった。
「ご飯……水分……ぉぉお………」
趣味柄、断食紛いの事には慣れているが、流石に丸一日寝ていては身体がエマージェンシーをガンガン鳴らしている。ホラーゲームのゾンビ(走らない、爆発しない、謎の進化をしない)の如く千鳥足で冷蔵庫にたどり着いた俺は牛乳と菓子パンを大至急で補給して肉体からのエマージェンシーコールを切る。
「流石にエナジードリンクは暫くは飲みたくないからなぁ……」
適当に冷蔵庫を漁って朝食を済ませ、五分ほど日光浴した後にシャンフロへログイン。我ながら酷い生活リズムだとは思うがそれだけのめり込んでいるという事だ。
「サンラクサン!おはようですわ!」
「んーおはよう」
さて、昨日はロクに調べずにログアウトしたからな、色々調べてみますか。まず手始めにとステータス画面を開いて……思わずニマリと笑顔を浮かべる。
「ふふふ……めっちゃレベルアップしてら」
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PN:サンラク
LV:78(200)
JOB:傭兵(二刀流使い)
150マーニ
HP(体力):30
MP(魔力):10
STM (スタミナ):60
STR(筋力):40
DEX(器用):50
AGI(敏捷):70
TEC(技量):55
VIT(耐久力):2
LUC(幸運):74
スキル
・無尽連斬
・ドリルピアッサー→グローイング・ピアス
・インファイトLv.MAX
・スケートフット→ドリフトステップ
・パリングプロテクト→セツナノミキリ
・ハンド・オブ・フォーチュンLv.6
・グレイトオブクライム
・クライマックス・ブーストLv.9
・五艘跳び→六艘跳び
・シャープターン→選択可能
・アサシンピアスLv.MAX
・オプレッションキックLv.MAX
・ベストステップ→ムーンジャンパー
・
・オフロードLv.2
・致命刃術【水鏡の月】→致命刃術【水鏡の月】参式
・イグニッションLv.1
・オーバーヒートLv.1
・ニトロゲインLv.1
・デュエルイズム
装備
右:兎月【上弦】
左:兎月【下弦】
頭:凝視の鳥面(VIT+1)
胴:リュカオーンの呪い
腰:無し
足:リュカオーンの呪い
アクセサリー:格納鍵インベントリア
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レベルが25も上がってやがる。それにポイントがレベルアップ分だけよりも明らかに多い。ボーナスでレベルアップ分以外にもポイントが入っているのか? 美味しすぎるぜユニークモンスター……できる事ならまた戦いたいような、二度と戦いたくないような。
スキルもスキルでレベルアップや進化しすぎててワチャワチャしてるな。後で
「ステータス関連の前に、まずは戦利品だな……ふふふ」
「サンラクサン、わっるい笑顔してますわぁ……」
「欲望に正直なだけだからピュアな笑顔だよ、多分」
「ベジタリアンを主張するヒドラより信用できないですわ」
「俺は種族の食生活レベルで邪悪かよ」
気を取り直してアイテムの確認を行う。まずは【晴天流奥義書】だ。
・晴天流奥義書
神代の剣豪が残せし天の剣術の奥義を記した記憶媒体。解読には神代の設備が必要。
その一太刀は天を斬り、大地を穿ち、暗雲を晴らす。
「マジか、もしかしなくても
マジか、いやマジか。無我夢中で攻略したあれらの技の数々を使えるとか胸が熱くなるな。とはいえ奥義書と銘打たれてはいるが、アイテムとしては何やら半透明なキューブに時折光のラインが走る超文明の香りがするものである。説明文通りこれを読み込むための設備を見つけるまで中身のスキルはお預けというわけか。
「次は「世界の真理書「墓守編」」……あぁ、成る程要するに運営側からの答え合わせか」
世界観に沿ったものではなく、どうやら運営が想定していた攻略方法や背景ストーリーが記述された攻略本のようなものらしい。というか必死こいて攻略した後に攻略本渡されてどうしろというのか。多分だがユニークモンスターはリスポーンしないのだから、完全にオマケでしかないな。
「まぁ暇な時に読むか……ふふふ、さぁ本命だぁ……」
さぁさぁ、明らかに重要かつレアっぽいアイテム、格納鍵インベントリアの詳細を見せてもらおうか。
・格納鍵インベントリア
格納空間への鍵であり扉でもある神代の時代においても一部の者のみが持っていた特殊な腕輪型アクセサリー。
装着した時点でアクセサリー欄を一つ消費するが、装着者がPKされても略奪されない。
魔力を消費することで格納空間内へと転移可能。
空間拡張術式携帯アクセス装置。神代において、肉体情報と同期することで一体化し装着者の
容量制限:無し
格納限界:縦横高さ50mまでの非生物
内容
規格外戦術機鳥【
規格外戦術機虎【
規格外戦術機龍【
規格外戦術機亀【
規格外特殊強化装甲【
規格外特殊強化装甲【
規格外特殊強化装甲【
規格外特殊強化装甲【
規格外武装:太刀型【ハービンジャー】EMPTY
規格外武装:鋼線型【キープアウト】EMPTY
規格外武装:穿拳型【バタリングラム】EMPTY
規格外武装:撃槍型【ファランクス】EMPTY
規格外武装:轟鎚型【エレバス】EMPTY
規格外武装:双剣型【ヒエロス・ロコス】EMPTY
規格外武装:大砲型【レグルス】EMPTY
規格外武装:双銃型【カストル・ポルクス】EMPTY
規格外武装:長銃型【サジタリウス】EMPTY
規格外武装:収束機構型【コメットカタパルト】EMPTY
規格外武装:拡散機構型【メテオディフュージョン】EMPTY
「…………………………………」
「サ、サンラク……サン?」
「……チョット、ネル。」
「は、はぁ……」
セーブ&ログアウト。ベッドから無言で起き上がり、ジャージに着替え、家を出て…………
「んなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!?!?」
叫びながら十分ほどただひたすらに走り続けて、ようやく俺は吹き飛んだ思考力を取り戻すに至った。散歩中のご老人に妖怪でも見るような目で見られたが今はそれどころではない。恥を押しつぶすパニック、気分は一発で目当ての乱数を引き当てた時の運ゲーだ。
いやいやいや、いやいやいやいや、いやいやいやいやいやいやいや。
え、何このワンマンアーミー、俺だけでシャンフロの全プレイヤーを相手にでもすんの? それでも余裕で勝てそうな気がしてならないんだけど。ちょっともう、世界観がいきなりスペースオペラになったんじゃないかと思えるくらいのSF武装の羅列に思考がまた吹っ飛びそうだ。と言うか地味にこいつも呪われた装備系アクセサリーかよ。
「と、とと、とりあえずメールを……」
そう、メールだ。少なくとも心臓が破裂しそうな動揺を俺だけで味わうのは理不尽だ。あの二人にも
「至急、格納鍵インベントリアを確認せよ……送信っと」
心臓がバクバク動いているのは決して十分ほど走り続けたからだけではあるまい。精神と肉体を落ち着かせるようにゆっくりと歩いて自宅へと戻ると、ちょうどそのタイミングでペンシルゴンとオイカッツォから返信が届く。
件名:え、なにこれやべくねゲーム間違えてい?
差出人:モドルカッツォ
宛先:サンラク
本文:(このメールには本文が書き込まれていません)
件名:へんなこえでた
差出人:鉛筆戦士
宛先:サンラク
本文:ひるにさーどれまにあつまろう、いつものへびのりんごで
件名に本文を書きこんだり、漢字変換せずに送ってきたり、文体からだけでも二人のテンパりっぷりが分かる。やっぱり苦楽は他の二人とも分け合わないとな!
「ちょっと昼までインベントリアの事は忘れよう……」
精神衛生上あまりよろしくない。とりあえずステータス割り振りとスキルの整理だな……うん。
ユニークモンスターがもたらす莫大な利益、それをまざまざと見せつけられた俺はある意味でウェザエモンと戦った時以上の精神的ダメージを受けたのだった。
最早「いつもの場所」と化したNPCカフェ「蛇の林檎」。皆テンションがおかしくなっていたのか、何故か満場一致でバースデーケーキを注文した俺らは、NPCの店主に珍獣でも見るような視線を向けられつつも、個室でバースデーケーキを囲んで席についていた。内容が内容なのでエムルにはちょっとお留守番してもらっている。
「えー……二人も見たとは思うけど……どうしようか」
「どうしよう、って言われても……ねぇ」
「それに関してなんだけど、私ここに来る前に格納空間に行っていろいろ調べて見たんだよね」
見てるだけでも意味がないので、バースデーケーキを三等分に分けていると、若干引きつった笑顔を浮かべつつもペンシルゴンは検証の結果を話し始める。
「結論から言うと、今の私達にとってはあれは観賞用以上の価値はないね」
「その心は? ほい、これペンシルゴンの分ね」
「えー私そっちの果物が多い方がいいー。簡単に言うと、動力源がない」
「動力源? オイカッツォ、フォークくれフォーク……投げるな!」
「しれっとキャッチしてるくせに……つまりただの置物?」
雑に甘いバースデーケーキを口に運びつつ、俺たちはペンシルゴンに話の続きを促す。
「うん、特に戦術機系のゴーレムやパワードスーツなんかは「規格外エーテルリアクター」ってアイテムが必要みたいなんだけど、入手方法がサッパリ分から……」
「俺それ持ってるんだけど」
「ぼっふ!」
「うっわ汚ねぇ! 俺の顔に向けて吐くなよ!」
「ゲッホゴホ! ゲームなんだから実際に飛び散ってないでしょ! ってか持ってるぅ!?」
バースデーケーキを口から噴き出したペンシルゴンがいつもの不敵な態度が消し飛んだ様子でオイカッツォへと迫る。オイカッツォもまた、困惑した様子で自身の言葉を裏付ける為に口を開く。
「ほら、俺ってあの戦いでほとんど騏驎と戦っていたからなのか、報酬で「規格外エーテルリアクター(破損)」ってのを貰ったんだよね」
「でかした馬に縛り付けられてた人」
「見直したよ緊縛しながらロデオしてた人」
「場合により俺はモデルでも顔を重点的に殴るよ?」
歪んだ男女平等だ……それはともかく、破損した神代文明の道具、ねぇ。
「先に言っておく、口の中のものを飲み込め」
「オッケー」
「確証はできないが、破損した神代のアイテムを修理できるアテがあるかもしれない」
「んぐ、ゔぇ………ふぅ、私達に追い風吹き過ぎじゃない……?」
今ちょっと
「と言うわけで俺にそのアイテムを預けて欲しいわけだが」
「……条件が一つある」
「条件?」
オイカッツォはケーキにトッピングされた苺っぽい果物を口に放り込み、俺へと告げる。
「お前が隠してるユニークの発生条件を教えてくれ、そしたら俺はアイテムを預ける」
……成る程。
「カッツォ君それは……」
「はぁー? どうせ俺はユニーク自発できないですしぃー? 他人のユニークに乗っかるしかないわけでぇー?」
「この人面倒臭いこじれ方してるよ!?」
「仮にもプロゲーマーとは思えない駄々のコネっぷりだ……まぁいいけど」
「えっ」
ふっかけた側が驚くなよ……あまり明かしたくないのは事実だが、他人にユニークモンスター由来のアイテムをホイホイ預けられる程俺もオイカッツォもピュアな性格はしていない。であれば友人関係であっても誠意は見せるべきだ。ゴクリと唾を飲み込んで俺を見るオイカッツォとペンシルゴン、俺は厳かにこれまでずっと秘匿してきた真実を明かす。
「とは言ってもこれ、って確証があるわけじゃないが……俺の場合はランダムエンカしたユニークモンスター「夜襲のリュカオーン」相手にレベル20以下で五分間ノーダメかつ二百回ほど「
「はい解散!」
「持ってけバカヤロー!」
「あいたぁ! んぎゃあ!」
オイカッツォが投げつけたひび割れた缶詰型のアイテムが顔に直撃したことで、仰け反った身体は椅子ごと後ろへと倒れる。強打した頭を抑えて破損リアクターを拾い上げつつ、俺は抗議の声を上げる。
「なんで俺がキレられるんだよ!」
「どうやったら空を飛べますかと聞いたら大胸筋を鍛えようって答えられた気分だよ! くたばれ曲芸お馬鹿!」
「理不尽すぎる!」
うんうんと頷くペンシルゴンもどうやらオイカッツォと同意見であるらしい。くそ、納得いかないぞ……
譲渡処理を済ませた上で顔面にぶつけられた規格外エーテルリアクター(破損)を格納鍵インベントリアの格納空間に放り込み、俺は椅子を立て直して着席する。
「あ、そうだサンラク君」
「なんだよ?」
「預かってた例のもの、返してくれる?」
あぁ、そういえばウェザエモン戦以来会うのは今日が初めてだから、返してなかったか。
「ほいよ」
俺は自前のインベントリを漁り、あの時反転の花園から秘匿の花園へ戻る前にペンシルゴンから預かっていたものを取り出す。ゴトリ、と机に置かれた黄金の天秤が、個室に吊るされたカンテラの光を受けてキラリと輝いた。
主人公達の現状を非常にシンプルに説明すると「大量の最新鋭おもちゃ(電池無し)とぶっ壊れた電池だけもらった」という感じです
一応捕捉しますが流石に「装着すればウェザエモンと同等の力が……!」とまでは行きません