12月15日:炎魔羽々焚く
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栄古斉衰の死火口湖。あるいは栄古斉衰の死火口湖
そのレイドモンスターの覚醒によって火口湖にあった水分は一滴も残らず蒸発し、大規模なエネルギーの爆発によって再活性した火山が同じくそのエネルギーによって抑え込まれる、という一見矛盾しているかのように思える現象によって火口は今、溢れかえりそうになりながらも結果として冷え固まったマグマで埋まり、足場が形成されていた。
「Vorrrrrrrrrrrrrrrrrryyyyy……」
「いたぞ!
「さっきの一撃で怯んでるのか?」
「これチャンスじゃないの?」
「バカ言え、これだけで倒せるならレイドモンスターなんて名乗っちゃいねーだろ!! とりあえず囲んで叩くぞタンクいるなら前出てくれ!!」
「チャンスは貰ったぁああああ!」
「あっバカ」
そこへと殺到した多数のプレイヤー達。彼らは油断の多かれ少なかれはあれど、先ほどまでサードレマからでも確認できる程の光を放っていたとは思えないほどに静かな、しかし弱々しさとは無縁の熱を放つ焠がる大赤翅を囲んで武器を構える。
サードレマは彷徨う大疫青の侵攻を受けたばかりであり、一見してひ弱そうに見えても中身は大量のプレイヤーを虐殺しうるだけの性能を保有していることは多くのプレイヤーの記憶に新しい。
しかしそんなことは知ったこっちゃない、と言わんばかりに大上段に武器を構えて突撃するプレイヤーもまたいるもので。
「Buuuuurrrnn………!!」
「あつっ」
剣を振りかぶり、丁度人間が剣を叩きつけるのにちょうどいい高さに浮遊していた焠がる大赤翅めがけて突撃していたプレイヤーが、焠がる大赤翅が羽ばたくように……あるいは邪魔なプレイヤーをはたくように開いた炎の翅に触れた瞬間、一瞬で体力を削り切られて消失……否、
「え、まさかあれも即死技?」
「いや違う、奴の装備品が洒落にならんレベルで耐久度を削られている………あんまり考えたくないが、即死にしか見えない速度で燃焼系のスリップダメージを受けたんだ……」
「あーあー、どう見ても戦争用の使い捨てじゃなくてガチ装備に見えるんだけど………」
「”ゆうしゃ様”、今のクソリスポン適用時にガチ装備でレイドモンスターに挑むのは流石に勇者すぎるぜ……」
明らかに手間がかかっているのだろう装備の数々が「余熱」で焼け消えたのを憐みのこもった視線で見つめていたプレイヤー達だったが、無防備に浮遊しているだけのように見える焠がる大赤翅がやはり、大量虐殺の力を秘めたレイドモンスターであることを再認識し、規律とは程遠いものの前衛、中衛、後衛に分かれて包囲陣形を組み上げる。
「バッファーはとりあえずタンクを全力強化するわよ!」
「デバフが通ってるのか通ってないのか分からないんだけど!」
「レジストされてるっぽいけどなんか変だな………」
「やっば! 毒薬ポーションが途中で蒸発したんだけど!」
「これ全裸になったら日焼けするんかな」
「紫外線出てるか? いや試すな試すな」
がやがやと纏まりのない軍団が、しかしながらレイドモンスター討伐という共通の目的のために雑ではあるがひと纏まりに近い状態へと移行していく。いくらかのタンクに耐熱効果や防御力上昇の強化が付与され、自然とタンクが前線に出て火力職と後衛を守る動きを取る。
「先に後衛が水系魔法をぶっ放す! 巻き添え喰らいたくなかったら出しゃばるなよタンクーっ!」
「それはいいけど背中に当てんなよーっ!!」
赤の他人とはいえ、同じ戦場で同じ敵を見据えていれば仲間意識が芽生える。先走るプレイヤーが焠がる大赤翅によって灰にされたこともあってか、このイベントの性質を見誤って替えの利かないガチ装備でやって来たプレイヤー達はすでにこそこそと撤退を始めたのでこの場には替えの利く装備に身を包んだリスクマネジメントを心得ているプレイヤーだけが残る。
魔法職達は詠唱を始め、タンク達は万が一焠がる大赤翅が先制攻撃を仕掛けてきても対処できるように盾を握りしめ、火力職達は僅かな隙があればすぐにでも今出せ得る最大の火力を叩き込めるよう前のめりに構える。
「【スプラッシュ・フォース】!!」
「【ウォーター・プレス】!!」
「必殺! 【タイダル・トリトン・トライデント】!!」
「【アクアビット・バースト】!」
「食らいやがれ! 【オケアノス・グランドウェーブ】!!」
「行くわよ、【アケロン・スパイラル】!!」
この場にいる魔法使いたち、それも水に関連する大技を習得した者達が一斉に自身の誇る最高の技を撃ち放つ。それだけではなく大地が隆起し、落雷が降り注ぎ、風の刃が虚空を切り裂く。ここが後衛の輝きどころとばかりに数多の魔法が焠がる大赤翅へと殺到する。
「Svooooooaaaaaaaaarrrrmmmm……!!」
雷が直撃し、風に切り刻まれ、大地に打ち据えられ、そして大量の水に晒された赤き魔蝶は………
「なん………ッ!?」
「風!?」
「いやこれは………
「うわああああああああ!!!!」
莫大な、熱を帯びた蒸気が一気に膨らんでプレイヤー達を薙ぎ払う。中には偶然踏ん張るためのスキルを発動してその場に留まったタンクもいるにはいたが、殆どのプレイヤーは文字通り爆発的な勢いで膨張した水蒸気に押し出されて勢い良く吹き飛ばされていく。さらに言えばこの水蒸気もまた、人間の皮膚が耐えるには熱すぎる代物であり、少なくない数のプレイヤー達がスリップダメージで肉体ごと命が砕け散る。
確かにこの場にいるプレイヤー達は素人ではない。中にはレベル99、さらにはそれすら超えた三桁のレベルを持つプレイヤーもいる。だが単なる強さだけで組み伏せられる程
何故ならばこれはシャングリラ・フロンティア。勝利への道は、いつだって設定の理解を遂げた先にあるのだから。
焠がる大赤翅が火口深部から地表に出てくるときに活性化して蘇った火山が噴火しかけたけど、他でもない焠がる大赤翅に熱エネルギーを持っていかれたことで冷え固まったマグマで火口に蓋がされて足場ができた。
大地とは即ち神の亡骸、ならば神の肉体より生まれしモノは大地より力を得るは必定………
ニラ蝶攻略アドバイス!
水をぶっかけるとスリップダメージ付きの大ノックバックでカウンターされるよ!
水を浴びせることは間違ってないけど水を浴びせることは間違っているんですね
あとデバフのかけ方も間違えている
・
特定の攻撃、主に水に発露した場合に発動するカウンター技。
攻撃に用いられた水を蒸気に変換して広範囲に衝撃波としてぶちかます。当然この水蒸気にも熱によるスリップダメージ判定が存在するので食らい続けると危険。
なにせ「熱」というものはどれだけ頑強な鎧を纏ったとしても中身を蒸し上げるに十分な殺意を秘めているものだ。