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12月15日:その攻め火の如く、また火の如く攻めるべし

ひっさびさに予約投稿を活用しましたね……


「大公死んだ!!?」


「おバカ言いなさいカッツォ君! この私が重要人物をあからさまに重要そうな施設に置くとでも!?」


「王族を天井から吊るした奴が言うと説得力が違うね!!」


「……なにそれ」


「今は気にしなくていーの! それより被害状況は!!」


王国騒乱開始直後、死火山の山頂よりサードレマを襲った極熱の光条はただ真っ直ぐに、しかしひたすら暴虐に突き進み……サードレマがかつて城砦としての役割を持っていた頃から、幾多の戦いを制してきた堅牢なる魔法防御結界をバターを溶かすよりも早く貫いてサードレマを象徴する大公の城を貫いた。


「見ての通りだけど一番上の部分が吹っ飛んだ! あれヤバいよ同志! 瓦礫すら落ちてこないってこれ……!!」


蒸発したって(・・・・・・)……!?」


光熱、灼熱、高熱の攻撃は、シャングリラ・フロンティアにおいては稀ではあるが存在する。少なくとも魔法使いの中でも炎系に特化し続けるとビームが撃てる、というのは魔法使いをジョブに選ぶプレイヤー達の間では常識に近い。

そして炎を、そしてビームを扱うモンスターも存在はする………だがそれでも、どれだけ規模の大きいものであってもダメージが大きいものであっても……耐えられた(・・・・・)


例を挙げるなら「最大防御(ディフェンスホルダー)」ジョゼット。魔法防御に特化した彼女が本気で防御を固めれば、ユニークモンスター「天覇のジークヴルム」、そのブレスですら耐えることが可能となる。

だがそれはジークヴルムの攻撃がHPを削る攻撃であるからだ。例えば黒死の天霊トゥルー・クワイエットが行使する即死攻撃(・・・・)にはいくら絶対の防壁を張ったところで問答無用の死が齎される(それはそれとして対抗手段が無いわけではないとジョゼットは答えるだろうが)。


だがもしも、


「あの規模の即死攻撃(・・・・)だとしたら……?」


「……あり得る。相手はレイドモンスター、要するにボスモンスター。マルチ前提のボスなら先制即死技は珍しくはない」


「だとしたら連発はしないんじゃないかな? どちらかというと最初に威力を見せてから戦闘中に止めないともう一度発動するっていうカウントダウン系、とか?」


ペンシルゴンが口にした予想に対して、ネフィリムホロウだけではなくそれなりにアクションゲームの経験があるルストとモルドが肯定的な意見を返す。

既に対人的な戦争(イベント)としての緊張感は吹き飛び、プレイヤー達は死火山の頂上に現れたレイドモンスターに我先にと殺到する。それを苦々しい表情で眺めていたペンシルゴンだったが、元より完全なプレイヤーの制御など望むべくもないと割り切ってこれからの作戦を慌ただしく組み立てる。


「どうしますか!? 最初の作戦通りで行きますか?!」


「カッツォ君、どう?」


「んー……むしろ俺がこっちに残った方がいい気もするけど。多分あれ非活性時の性能そのまんま殺意マシマシにしてる感じだろうから軽戦士キラーな性能なんだよね……」


(にら)がる大赤翅(だいせきし)」は非活性状態とはいえいくらかの戦闘報告があるレイドモンスターである。

そしてこの中では最もその非活性の(にら)がる大赤翅(だいせきし)との戦闘経験があるオイカッツォはしばらく考え込んでいたが、何かに納得を得たのか俯いていた顔を上げる。


「結論は?」


「とりあえず今向かってる連中が一通り死んでから挑みたいなって。二日くれれば攻略できる……かな?」


「……かな?」の部分を完全に無視してオイカッツォなら出来る、と判断したペンシルゴンは序盤も序盤に崩壊しかけた作戦をリペアし、改めて指示を出す。


「よーし! あのビーム兵器はオイカッツォ君がソロ討伐してくれるらしいから私らは作戦通りだっ!」


「言ってないけど???」


「流石にこっちだけレイドモンスターが襲ってるとしたら全員で運営に抗議メール爆撃だけど、竜災大戦やらかしたこのゲームの運営なら多分向こうにもレイドモンスターぶつけてるでしょ! だったら条件は同じ、あとはどっちが作戦通りに動けるかってこと!」


「同志! 当たりっぽいです! 向こうにも緑のレイドモンスターが襲撃かけてる! 軍団系だってさ!」


少なくとも、当初の予定が狂ったのは向こうも同じであるらしい。こちらは時限式の広範囲即死火力だが、どうやら向こうのレイドモンスターは単純な物量タイプであるらしい。どちらも広い範囲に大損害をもたらす、という点では共通するが相違点もある。


「いいねぇ! なんかの間違いで向こうさん全滅してくんないかなぁ!」


普通は思っても言わないことを堂々と叫びながらペンシルゴンは「確実に指示通りに動く手駒」へと次々に指示を出していく。


「A部隊は予定通りサードレマの所定位置に、B部隊は偵察込みで敵本陣に突撃! C部隊はD部隊からの情報を迅速に通達する! 合言葉は!!」


「「「「「サードレマに一等地! 下を見るのがブルジョワジー!!」」」」」


「よぉーし! 時代は資本主義(キャピタリズム)だ! 全員行動開始ッ!」


規律の取れた動きで行動を開始したRPAの面々を満足げに見送り、ペンシルゴンはある種「本命」である自身のクラン……【旅狼(ヴォルフガング)】の面々へと振り返る。


「さて皆に関してだけど………」


「え、今の流れで協力するの普通に嫌なんだけど。同じ勢力だと思われるじゃん……」


「なんとびっくり、地獄の果てまで一緒の勢力だよ。断頭台に乗る時はお(ソロ)のギロチンにしようね……………」


「まずいわ同志ペンシルゴン!」


行動を開始するべく別の場所に移動したはずのRPAのメンバーが、泡を食った様子で戻ってきた。

少なくとも、慌てるだけの何かがあったのだろう。彼女がリアルで配信戦線(ライブライン)の配信を視聴(ぼうじゅ)することで情報を集めているD部隊からの情報をゲーム内に伝達するC部隊に割り当てられたプレイヤーであると判断したペンシルゴンは視線だけで要件を伝えるように示す。


「ぱやぶさとGUN!GUN!傭兵団が率いてるプレイヤーの一団がレイドモンスターを強行突破した!」


それが示すものはつまり。


「電撃戦を仕掛けに来てる!!」

ヒロインちゃん(楽郎君来ないのかな………リ、リアルで連絡とったりとか……して……いい、のかな……?)

秋津茜(す、すごい集中力です………)

ルスト(……あののっぺらぼう頭装備、前見えるの?)





魔力発火現象(たきぎのまなざし)

ペンシルゴンの予想通り即死攻撃。厳密には単なる光熱攻撃ではなくニラ蝶の翅眼が視認した射線上、あるいは視線上のマナ粒子に干渉してエネルギー変換している。つまり目からビームを出しているのではなく視線に入っているマナ粒子が直接エネルギー変換されてビームになっている、というのが正解。

ところで人間君って体内にマナ粒子貯蔵してるんだね(視線に入った時点でどれだけ防御を固めようが体内からエネルギー変換された超高熱マナ粒子が溢れて消し飛びます)




隷属の縁(ひなのす)

幼生付着(たくらん)によって肉体を置換された生物のなれの果てを運用する技。基本的に緑孔雀の眷族化したプレイヤーはスキル・魔法を再現された状態。しかしながら個々のAIレベルが物凄く低いので取り込まれた本人とは比べ物にならないくらい弱い、具体的に言うとゾンビ並の知能。

まぁでも百人のゾンビが一斉に火の玉ぶん投げたら威力百倍と同義なんですよね、そして緑孔雀本体の知能まで低いとは言ってないんですよ

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