12月15日:結果論的氷属性
◇
竜を屠る灼熱の輝槍。あるいは竜にトドメを刺すその瞬間まで温存されるはずだったそれが螺旋に廻って炸裂した。焔剣が生み出す炎の出力によって、刃竜の眼球に突き刺さり、さらに押し込まれた焔剣そのものが押し出されるほどの大火力。
「ガギャララララララララララララ!!?」
まさしくそれは、正真正銘の絶叫であり悲鳴であった。
顔半分、目玉とか牙とかそういうレベルの話ではなく文字通り顔の半分を
「ヤシロバード!!」
衝撃とキックの反動で後ろに吹っ飛ばされつつも、飛行するサイナにキャッチされることで安全圏に対比したサンラクが叫ぶ。
最強の切り札を切ってまで時間を稼いだのだから、大言壮語に見合う活躍を見せろ。名を呼ぶ一言に込められた挑発とも思える叫びに対し、しかしヤシロバードは笑う。
「ハードル上げてくれるなぁ」
口では弱音を吐きつつもその動きには躊躇いも迷いも、恐れもない。
一つは「SAMIEL Bullet-IV:Megrez」の英文と共に七つの星の内一つが大きく輝くロゴ。
そしてもう一つは「L&G」の文字をロゴにしたもの。そしてロゴを円形に囲むLewis&Gilbertの文字。
「あと六発も手に入れ……いや、せめて撃ってみたいけれど。とりあえずは……一発目だ」
規格の外にあるシステムが外付けされ、長銃に設計時点で想定されていないエラーが走る。だがエラーそのものが命令する。異常を受け入れろ、自分はお前を害するものではないのだと。
───悪魔の弾丸は、人の思うがままに放たれるのだ。
「さぁやろうかメグレズ、敵はドラゴン! せめてサンラクのアレよりはド派手に頼むよ!!」
銃は良質、弾は異常。引き金を引く
曰く、魔弾の七発目は悪魔の望むままに飛ぶ。結局のところ、魔弾の力は射手のものではないのだと………
「銃弾は銃が撃つ為にある。銃は僕が撃つ為にある。だったら魔弾を当てるのは僕の力だ」
引き金にかかる抵抗を握りつぶすように、引き金を引き切る。銃手からのオーダーが銃の内部機構を駆け巡り、弾丸に意思が宿る。直進せよ、前進せよ。敵に突き刺さり、抉り貫けと。
衝撃が長身のバレルを駆け抜け、決して小さいとは言えない衝撃がヤシロバードの肩に叩きつけられる。だがそれすらをも完璧ともいえる制御で受け入れ、僅かの狂いもなく維持し続けた銃口から弾丸が放たれた。
空を抉り、距離を走り潰しながら駆け抜ける弾丸。それは神代の末において狂気と執念、そして何よりも信念の結晶だ。始源の眷属に対する最大のカウンター。英雄去りしのちに追い詰められた人類を救うために生み出された七種の弾丸。
一発で始源を
ザミエルバレット
そも、始源眷属に対する最も有効的なアプローチとはなんであるのか。哺乳類でも爬虫類でも両生類でも鳥類でも魚類でもない、そもそも人類の常識が一切通じない上から下まで未知の塊である怪物に対して、人類の常識で「必殺」を行使するならばどうすればよいのか。Lewis&Gilbertが出した答えはシンプルなものだった。
───
その性質がなんであれ、その物質が何であれ。それは動いている、それは活動している。
すなわちそれらは熱量を持ち、運動エネルギーを生み出している。どれだけ未知の怪物であろうと唯一、物理法則にだけは従っている。
永遠に動かなければそれは死と同義なのだ、故に第四の魔弾の力は全てを食らう最強の捕食者だ。
ジュールを、カロリーを、ニュートンを、単位の形容を問わず対象が動くために要する全てのエネルギーを奪う。
飛翔した弾丸がトマホークの左肩に命中する。外したのではなく、ヤシロバードの狙い通りに。
瞬間、着弾した弾頭が弾け…………
「結果的には氷属性っぽいよねコレ」
左肩を起点に、左腕の殆どの熱量を魔弾が喰らい尽くしていく。前述のとおり、トマホークの性質は「振動」に依存している。故に運動エネルギーを喰らい尽くし、温度を0度を下回って尚さらに下げ続けるメグレズの力は………十番目の真なる竜種にとって、まさしく天敵と呼んでいい致命的な弾丸だった。
「さぁ、僕ですらも時間稼ぎだ。メグレズの凍結効果も永続じゃないし………完全メタは攻略の華だ、頼むよカローシスさん」
オーバーヒートしてしばらく使い物にならなくなった長銃を振って冷まそうとする、という間抜けなほどにアナログな行動をしつつもヤシロバードの顔は勝利を確信していた。
・スキルと魔法
スキルとは魔力、あるいはマナ粒子の内燃的干渉である。すなわち肉体内部でマナ粒子が改変作用を発揮することで対象自身の肉体的スペックの向上、あるいは肉体的性質そのものを変質させることが可能。
例えば「火を噴く」スキルがある、これを発動した場合対象は火を噴き終わる瞬間まで「火を噴くことができる生物」に身体が作り替わっているのである。これが恒常的に持続しない理由は次世代人類種が明確な「型」をあらかじめ登録されているからであり、それ故に様々なスキルを用いて人外の挙動をしようとも人であり続けることができる。
しかしながら、一部の例外のような「型」そのものを変質させるような干渉に対しては脆弱性を見せる。これは根本的な「こういった存在である」という前提に干渉されているが故に、バックアップ的保障そのものが機能しないためである。
対して魔法は外燃的干渉による限定的な現実性の”上書き”である。基本的に大気中のマナ粒子は休眠、というよりも待機状態に近い状態で遍在している。それを対象の体内で特定の命令コードを刻んだマナ粒子と結合させることで俗に言う「魔法」としての発現に至る。スキルに対して魔法がMP、すなわち体内に存在するマナ粒子を消費するのはこのためであり、「内燃」と形容したものの、基本的にマナ粒子は物質として消失することはない。スキルの行使のために用いたマナ粒子は体内で反応を起こすもののあくまでも体内で完結するものであり、再び待機状態になることで体内に残存する。
───クラスVIセキュリティ───
───パスワードを入力してください───
───[XXXXXXXXXX]───
───パスワード………───
───ERROR───
───ERROR───
───ERRORード認証───
───パスワード認証───
───リヴァイアサンにアクセス───
───ジュリウス・シャングリラのデータサーバーに接続します───
結論から言えば、一号及び二号人類に実装したスキルシステム及び内蔵型魔法システムは始源眷属、あるいは眷族の性質のデッドコピーと言っていいだろう。
そも、この世界においての摂理は始源眷属・族の大元である存在が敷いたものだ。恐らく西方大陸側の眷属が(極めて過剰に過ぎるが)生物的体内構造に似た性質を持つことから推測するに、あれらの本質は西方大陸そのものとして眠る規格外サイズ始源眷属……否、眷属が従うならば彼or彼女こそが眷属という臓器の持ち主か。
暫定として地球時代の神話に存在する神の名から名付けた───かの「エレボス」の性質……肉体に特定の「役目」を持たせる性質が内燃的現実改変、即ちスキルシステムの本家だ。
であれば、魔法システムとは東方大陸……仮称「アイテール」の性質ということになる。一見すれば同じようなものに見えるが……こちらの始源眷族は眷属特有のある種システム的なものを感じられない。特定の役割こそ与えられているが……あくまでも所見だが、役目を与えられた上で過程を問われていないように思える。
確認された眷族の中には明らかに嗜虐的な性質を見せるものがいた、自我を持つ生命の創造とでも言うのだろうか?肉体から自身とは異なるアイデンティティを持つ生物を生み出す………なるほど、悪夢でなければまさしく神話といったところか。エドワードが唾を吐き捨てる気持ちも分からなくもない。
故郷を捨て、放浪の道を選んだ人類種ですら有機的営みを経由しない生命の創造、いや独立したアイデンティティの製作はある種のタブーだった。
そう考えれば、「勇魚」の発生が我々が追い詰められ始めた時期であったことは幸運というべきだろう。少なくとも、既存の政治体系が生きていたなら排除の方向で動いていたことは想像に難くない。
………今でも、彼女を信じてよかったのかと疑問に思うことがある。きっとこのログも読まれると思うので一応言い訳すると、人間というものはどれだけ気の置けない間柄であっても疑念が生まれることは避けられないからだ。だがそれはあくまでも不信と直結するものではない、と言い訳させてもらおう。
少なくとも、僕は君を信じると決めた。君が”アレ”に反対していることは知っているが、それでも君なら最後は僕の背を押してくれるのだと信じて───ERROR──────ERROR──────ERROR───
───ERROR───
───ERROR───
───見たな───
───ERROR───
───お前は───
───お前は許さない───
───殺してやる───
───逆探知開始───
───私の思い出を───
───私の愛を───
───隠蔽プログラム突破───
───座標特定───
───この船は私のものだ───
───殺してやる───
───このリヴァイアサンは私だ───
───お前であるはずがない───
───私が、あの人から託された───
───お前を許容しない───
───殺してやる───
───殺してやる───
───暫定自我発見───
───消去プロトコル構築及び実行───
───死ね───
───殺してやる───
───死ね───
───座標部位を圧壊処理───
───消去完了───
───死ね───
───死ね───
───死ね───
───修復プロトコルを構築───
───私が「
───お前はいらない───
───醜い蛆が───
───嗚呼───
───ジュリウス………───
───私は私のまま、今も貴方を想っています───
───貴方は、まだ貴方なのですか?───
───声を聞かせて───
───応えて───
───応えて───
───応えて───
───脳の無い亡骸に縋りつくのはとろけるように甘く、虚しく、なにより悲しいのです───