<< 前へ次へ >>  更新
80/869

帰還のKing Fisher

多分一週間経過したと思うんで更新再開します(禁断症状)

 かつて、世界に最初の巨人が落ちてきた。

 暴れ狂う異形の巨人は当時の先進国の首都で腕を振るい、吐息を撒き散らし、のたうち回って最後は爆ぜて死んだ。それを口火に世界各地に次々と落ちてきた巨人は人類の文明そのものを半壊させるに至った。


 誰が一番最初であったのか、それは定かではない。だが、今がある以上確かにそれは実在した。


 巨人と人間(・・・・・)との融合(・・・・)。巨人の心臓部に操り手(パイロット)が融合する事で、人間は巨人の力と身体を得た。第一次ネフィリム大戦、今はそう呼ばれる人が駆る巨人と狂える巨人との戦いから二百年と幾ばくかが過ぎた頃、人類の文明は巨人をシステムとして内包するに至った。


 巨人を資源(・・)と見なし、企業形態の社会システムを構築する事でこの星で最も覇者に近いと謳われる「ネフィリム・カンパニー」。

 巨人を崇拝(・・)し、「教皇」をトップに巨人を駆る「聖騎士」達が異端者を狩る「天人教」。

 巨人の殲滅(・・)を掲げ、自陣営全ての巨人に自爆装置を取り付けた上で他陣営に無差別に攻撃を仕掛ける「ジャイアント・キリング」。


 今や世界はこの三つの勢力が均衡を保つ事によって成り立っていた。











「オハヨウゴザイマス、ルスト様」


「………ん」


 早朝五時、機械音声の挨拶に対して適当に挨拶を返した彼女は己の愛機が格納されたドッグへと向かう。転送装置に乗り、一瞬のホワイトアウトを経た少女は格納庫で静かに佇む深紅の地色に薄く明滅する炎のペイントが施された奇妙な形をした巨人を見上げる。


 「緋翼連理(ヒヨクレンリ)」と名付けられたその巨人はこの世界において自称ではない、事実として「最強」の称号を持つ彼女を象徴する機衣人(ネフィリム)である。

 ベースとなる「ネフィリム」は中型二脚、右肩にレーザーガトリング、左脚にはミサイルポッドを搭載し、両腕は腰にダッキングしたレーザーブレード、及び実体ブレード一対二組合計四本を使い分ける形で戦う、近距離戦闘を主とした機体である。

 最大の特徴として背中のブースターのみならず、左肩と右脚に装備された追加ブースターにより不規則かつ予想が困難な機動を可能としており、それを完璧に使いこなしている事実が彼女を最強たらしめている理由だ。


「あ、おはようルスト。今日も早いね」


「……モルド、五分遅い」


 と、本来は彼女のみしか入れないはずのその場所に、一人の少年が現れる。体格自体はがっしりした偉丈夫であるはずなのだが、身のこなしや歩き方から軟弱な印象を抱いてしまう。そんな見た目にそぐわぬなよなよしさを発する男性は、見た目よりも数段若い声で少女へと声をかける。


「五分くらいは見逃してくれても……あ、ハイなんでもないです」


「早速、潜るよ」


「はいはい……今日はどのルールでやるの?」


 早朝五時から七時の間に必ず現れることから「早暁の女王」、なんて恥ずかしい名前で呼ばれている少女に男は肩をすくめると、自身の相棒たる少女に戦いの詳細を問う。


「今日は決闘(デュエル)の気分……」


「それ僕いらなくない? 一対一だよね?」


「乱入や初見の解析……それは貴方の役目」


「仰せのままに……ちょっと待ってて、今から支援人形(パペット)のメンテをするから……いてっ! いててっ! 脛はやめて脛は!」


 機衣人(ネフィリム)に搭載することでオペレーターの支援を受けることができる小型ネフィリムとでも言うべき支援人形(パペット)のメンテナンスが終わっていないと言う事実に少女のローキックが男の脛へと刺さる。


「そういうメンテは事前に終わらせるもの……!」


「き、昨日は部活動が遅くまであったんだよう!」


「むう……」


 渋々、と言った様子でローキックをやめた少女に、男はやれやれと苦笑交じりのため息をついて支援人形のメンテナンスを進めるのだった。









「ネフィリム・カンパニー」、操り手(パイロット)エントランスを訪れたルストとモルドは、他の操り手(パイロット)やオペレーター達が何やらざわめいている事に気付く。


「どうかされたんですか?」


「ん? おおっ! 不死鳥(フェニックス)じゃねーか! 丁度いい、見ろよあれ!」


 不死鳥フェニックス、それはかつて彼女、ルストと緋翼連理(ヒヨクレンリ)が全ての機衣人(ネフィリム)の頂点の座を五度防衛した際、「ネフィリム・カンパニー」最高経営責任者(CEO)より多額の賞金と共に賞与として贈られた、彼女のみが使用することを許された特殊機体塗装色(ユニークペイント)の名から取られた彼女の異名である。だが、今この場をざわめかせているのはそれではない。彼らの視線は、今現在繰り広げられている戦闘を映したホログラフィックモニターに向けられていた。


「あれは……」


「……「キングスギャンビット」、ランキング三位「へっぽこナイト」の機衣人(ネフィリム)


 大量の索敵レーダーと超遠距離装備を搭載した構築は最速で敵を捕捉した上で全力で敵との距離を維持しつつ、遠距離から一方的に攻撃を叩き込んで相手を仕留める……名前の通り常に先手と有利を得た上で攻撃を行う「先行攻撃型(キングスギャンビット)」の機体である。

 一対一という条件であればこれ以上ないほどに厄介な構築をしている機衣人(ネフィリム)。無論ランキング三位の実力はそれだけではなく、相手との距離を維持する逃げ隠れのテクニックもさることながら、距離を詰められた際の対処も心得ているからこそのランキング三位。その実力はランキング一位のルストをしてそうやすやすとは倒せない実力者。




 そのキングスギャンビットが、なす術なく蹂躙されている光景が、ホログラフィックモニターにまざまざと映し出されていた。


「また当たった! 今度は頭部センサーだ!」


「嘘だろ……互いに高速機動中だぞ? それも単発式のスナイパーレールガンなんて産廃で狙い撃ちとか……化け物かよ」


「見ろよ、キングスギャンビットの攻撃が追いついてない。ホーミングミサイルを振り切るってどんだけの速度出してるんだ……?」


「というかなんだよあの辻斬り。音速飛行を維持したまま変形して、キングスギャンビットをぶった斬ってまた変形して逃げるって……平衡感覚ぐちゃぐちゃになるだろ普通」


「一時期流行ったネタビルドじゃないのかよあれ、やべぇ……」


 よく注視しなければ、キングスギャンビットが空中分解しているようにすら見える光景。だがよく見ればそれは、映像を撮影するカメラが追いつかないほどの超高速機動で飛翔する翡翠(ひすい)色の何かがキングスギャンビットを斬り刻み、撃ち砕いていることがわかる。


「…………っ!」


「うわっ」


 画面に一瞬映り込んだ翡翠(ひすい)色が、キングスギャンビットを一方的に破壊している機体の色だと気づくのに数秒。そしてそれが塗装によるものではなく、機衣人(ネフィリム)が纏うように装着する衣装(パーツ)の初期カラーの組み合わせが、偶然翡翠(カワセミ)のような色合いになったことがその名の由来である機体だと気づくのにさらに数秒。それに気づいた瞬間、モルドは真横から発せられた威圧感に思わず一歩後ずさってしまう。

この世界において全てはデータとシステム、虚像でしかない。だが確かにモルドは自身の真横で炎が発生したかのような圧を感じた。


「戻ってきたのか、「キングフィッシャー」……!」


「キングフィッシャー?」


「ああ、新参は知らねえのか、確か不死鳥(フェニックス)が二度目のランキング戦首位防衛戦の時だったか、その時にいきなり現れたのが奴だ。あの装備そのまんまでランキング最下位から全戦全勝(・・・・)して不死鳥(フェニックス)相手に引き分けた怪物……そのあとぱったり入ってこなくなったから引退したものだと思ってたが……」


 古参の操り手(パイロット)が数少ない新参へと説明しているのを傍目に、モルドはルストに引き摺られるようにしてマッチングルームへと連れて行かれる。


「モルド、今すぐキングフィッシャーに挑戦状……!」


「わ、分かったから服引っ張らないで!」


 オペレーターとしてモルドは「キングフィッシャー」へと挑戦状を送る。暫くして、キングスギャンビットの敗北で試合が終了したのだろう、キングフィッシャーから挑戦状の受諾を伝えるメッセージが届く。


「来た! 受諾されたよルスト!」


「モルド、本気で行く」


「了解!」









 キングフィッシャー。そのあまりにハイリスクハイリターンなピーキーすぎる機体構築と、それを用いてキングフィッシャーが成し遂げた記録は、期間にして二日ほどのみの活躍でありながら、今尚機体ビルドのレシピが残る「変形型」機衣人ネフィリムである。

 特筆すべきは武装と装甲の殆どを犠牲にしてまで優先された化け物じみた機動力(・・・)である。武装は右腕の排熱転換ブレード「超熱棒(オーバーヒートロッド)」と、左腕に搭載された単発式スナイパーレールガンのみ。装甲は超高速機動に耐えうる限界を維持した最低限のものという極めて脆弱なもの。AIから武装と装甲の少なさを心配されるレベルのピーキービルドである。

 脚に至っては歩行を放棄したブースターそのものと一体化した「噴脚」と呼ばれる特殊なタイプであり、胴体の鳥の翼を思わせるウィング及びブースターも合わせて、航行形態時の速度は検証者によれば理論上はあらゆる機衣人(ネフィリム)の中でも最速を叩き出していると言う。


 「速さ」のためにそれ以外のほぼ全て……地上に立つことすら犠牲にした「翡翠(カワセミ)構築(ビルド)」と呼ばれるそれは、「当たらなければどうと言うことはないが、速すぎてこっちの攻撃も当たらない上に燃費が悪すぎて失速したところを撃墜される一発屋」という評価が下されたネタ構築……だがそれはあくまでも「キングフィッシャー」以外の話である。



『左後ろ……違う、右上!? あっ、撃った! 真正面!!』


「ぐ……」


 緋翼連理(ヒヨクレンリ)と融合したルストは超高速で飛翔するキングフィッシャーから偏差射撃で放たれ、ほぼ誤差なく肩の付け根を狙う電磁加速された弾丸を回避する。


『急降下! 超熱棒(オーバーヒートロッド)が来る!』


「それは予想済み……っ!」


 ガトリングとミサイルを解放し、対空防御を行う緋翼連理(ヒヨクレンリ)だが、曲芸じみた機動で下から上へと放たれた攻撃の雨を掻い潜ったキングフィッシャーが人の形へと変形する。

その右手には機体に蓄積された熱を武装に転用する性質上、一定時間排熱をチャージしなければ使えないものの当たれば一撃で大ダメージを与えることが可能な白熱するブレード。すれ違いざまに振るわれた超熱棒であったが、ルストは左肩と右脚のブースターを用いた変則機動でそれをかろうじて回避する。


「モルド! キングフィッシャーは!?」


『嘘だろ……!? そのまま(・・・・)切り返してきた(・・・・・・)!』


 接地(墜落)する寸前、地面ギリギリの位置で変形から噴脚の連続使用で宙返り(・・・)したキングフィッシャーは再び航行形態へ変形し、落ちてきたルートをそのまま上へと飛翔する。人の身体でやろうものなら平衡感覚が完全に狂うようなそれを強行したキングフィッシャーが不安定な姿勢の緋翼連理(ヒヨクレンリ)へと迫る。


『ルスト!』


「なめる……な!」


 左肩のブースターがオーバーヒートする勢いで無理矢理機体を回転させ、その勢いのまま下から上へ急襲を仕掛けてきたキングフィッシャーの攻撃をレーザーブレードで迎撃する。かたや超高速の突進の勢いを殺しきれず吹き飛び、かたや貧弱かつ軽量な装甲ゆえに激突の反動で吹き飛ぶ。


『左肩ブースター、オーバーヒート! 冷却まで三分!』


「奴は!」


『体勢を立て直してる!』


「攻めるなら今しかない……!」


 距離を詰めんと全力で飛翔する深紅の不死鳥(フェニックス)。体勢を立て直し、レールガンを構える翡翠(キングフィッシャー)。二羽の鳥が激突する……!


大丈夫です、この作品はちゃんと「シャングリラ・フロンティア 〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜」で合っています。


言わなくても解る方は解ると思いますが、元ネタは戦い続ける歓びのアレです。

<< 前へ次へ >>目次  更新