鳥頭バーサス大蛇
「必要な手数は増えたが消耗度はケチっていかないとなぁ。」
そろそろ壊れそうなゴブリンの手斧でアルミラージをポリゴン爆散させながらそう独りごちる。致命の包丁は温存、傭兵の双刃はそろそろ耐久が怪しい。流石にビギナーノービスルーキーニュービー……呼び方は何でもいいが初心者が最初に入るエリアだ、余程のことがなければレベルの暴力だけでやっていけると思うが……
「………あれか。」
視線の先、遠目に見える人工物の連なりは二つ目の街「セカンディル」で間違いないだろう。
この森……地図では「跳梁跋扈の森」と記載されていた森とセカンディルへの道を断ち切る渓谷には吊り橋が一つ掛けられている。そして吊り橋の前に門番が如く立ち塞がる……いや、
「所謂フィールドボス、いやエリアボスか?まぁどっちでもいいや。」
あれを倒さなくてはセカンディルへは行くことが出来ないようだ。推奨人数三人、推奨レベル10らしいが、果たしてソロで行けるだろうか。場合によっては出し惜しみ無しでやらなければファステイアでリスポーンだ。
というか夢オチリスポーンということはインベントリのアイテム全損ということでは?とふと思ってしまった為にそれを実証しない為に意地でもノーコンクリアしなくてはならない。
「蛇型モンスターっていうと……巻きつく、噛み付く、丸呑み、毒、脱皮……まぁここら辺がメジャーな攻撃手段か。」
少なくとも「プレイヤーの予想の斜め上行けば面白いだろう」と突然蛇が爆発とかしなければプレイヤースキルでどうにかなる、筈だ。
「確かエリアボスに挑戦するソロプレイヤーなりパーティなりが戦闘を始めた時点で他プレイヤーやモンスターは干渉できなくなる、だったか。」
正直飛び入り乱入!とかは嫌いではないので少しだけモヤっとするが、不意打ちの心配なくボスとタイマンを張ることが出来るのはありがたい。暫くボス戦に備えて
名前こそご大層だが所詮は初心者用のボス。動きは読みやすく、初見殺しな行動もない。
ほぼ思い通りに動くこのアバターの挙動ならばノーダメージで倒すことも容易い……と思っていた時期が俺にもありました。
「げぇえっ!!」
どうしようもない亀裂と共にポリゴンに変わり果てた傭兵の双刃が、貪食の大蛇の装甲値の高さを示す。
ぬかった、確かに初心者でも倒せる難易度だろうが、さすがに壊れかけの武器は舐めプすぎたか。鈍重そうな見た目とは裏腹に滑らかに地を這う貪食の大蛇が口を大きく開いて俺に飛びかかる。
それを身体を捻って避けつつ、俺はナックルラッシュを発動、格闘技と呼ぶには少々雑な拳の連打を貪食の大蛇の横っ面へ叩きつける。
(お、これパンチ一発一発が独立したクリティカル判定なのか。)
十発ほど拳を叩き込んだが、二、三発程強い手応えを感じる事があった。スキル一回での連打全てがクリティカルではなく、一発一発で別々の判定があるようだ。流石にレベルの暴力を横っ面に受けてはノックバック効果が無くてもそれなりにダメージは入ったらしく、貪食の大蛇は顔を仰け反らせる。
その隙に、事前に練習を重ねた高速装備切り替え……複数の武器を持ち込めるゲームでは割と重要なテクニックを行使してこれまで温存していた隠し球……致命の包丁を左右の手に装備する。
まるで餌食となった者達の血を吸ったかのように赤黒い刃を持つ包丁を二刀流で構え、半裸にやたら目力が強い鳥頭が新たな街への橋を塞ぐ大蛇と対峙する姿は相当滑稽だろうが、オワタ式クリティカルアタッカーとしては現状これがほぼ最適解だろう。
「
いきなり座標ごと瞬間移動したり、不可視の攻撃を背後から叩き込んできたり、全身即死判定の塊にならないようでは俺の敵足り得ない。
「三枚おろしにしてぶべぇ」
話は変わるが蛇型のモンスターを相手にする場合、注意するべき部位はどこか。
まぁ殆どの人が顔、尻尾と答えるだろう。何せ手足がないフォルム故に蛇型なのであって攻撃手段は巻きつく、噛み付く、尻尾で薙ぐが殆どのパターンだ。
だからこそ、まさか尻尾ではなく尻尾の近くにある穴からヘドロのようなものを飛ばしてくるとは思わず、不覚にも俺は貪食の大蛇が放ったヘドロ……うん、もしかしなくても排泄物に直撃してしまったのだった。
流石に匂いまで完全再現とかいうリアリティという名の畜生クオリティではなかったが、全身に冷たさを失った湿布を貼り付けられたような気持ち悪さが悪臭の代わりに襲い掛かる。
そして何よりもヤバいのが、
「マズイぞ……」
一秒ごとに削られていくHP、スリップダメージ、即ち……
毒だ。
・貪食の大蛇
跳梁跋扈の森エリアボスであり、セカンディルへ行くために必ず倒さなければならないモンスター。
締め付け攻撃と噛みつき攻撃は予備動作が分かりやすいため落ち着いて対処すれば簡単なボスではあるが、体力を一定まで削るとノーモーションで放ってくる毒糞攻撃に注意、ダメージはないが継続的にダメージを受ける毒状態にされる。