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刹那に想いを込めて 其の十七

金のイクラを回収するバイトが忙しくて……(見苦しい言い訳)


さて問題です、ゲームを作るにあたって……この問題では「ボスエネミーの調整」におけるやってはならないこととはなんでしょう?

理不尽攻撃? 40点、イベントに繋げたり特殊なアイテムによって打ち消せるのならば、それは世界観の彩りでありむしろ率先して入れるべき要素だ。

バグらないようにする? 0点、それは当たり前の要素と言うのだ馬鹿め。


正解は「ボスの攻撃に間隔を入れない」だ。

ターン制バトルであれ、アクションであれなんであれ、ボスを攻略して初めてゲームはクリアされる。そして強敵たるボスとの戦いにおいて、レベル差以外での「一方的」は容認されてはならない。

ずっと攻撃し続けるボス、ずっと回避し続けるボス、どれだけ攻撃を叩き込んでも防御が破れないボス……強さとクソさは表裏一体、世界観という縛りが絡むからこそ、強くし過ぎたボスキャラがゲームをクソにすることはままあることだ……フェアクソとか、フェアクソとか、フェアクソとか。


であるならば、「ずっとボスのターン」をゲーム性を破綻させることなく導入する場合どうすれば良いか……簡単だ、制限を設ければいい。濃すぎる原液は薄めればいいのだ。

例えば「特定の部位に攻撃を当てさえすれば行動を封じることが出来る」であったり、前述の「特殊なイベントやアイテムによって解除される」であったり、「時間制限を設ける」なんてのもいいかもしれない。

その点で言えば、墓守のウェザエモンが放った「晴天大征(せいてんたいせい)」なるそれは、「生き残れば確定勝利」という明確なクリアラインが設けられているという点では有情な技と言えた。



問題なのは、「三十秒間、あらゆる技をノータイムノーリキャストでぶっ放す」という超ド級の理不尽攻撃であるということだ。











断風(タチカゼ)


「つぉお!?」


雷鐘(ライショウ)


「そぉお!」


大時化(オオシケ)


「だぁあ!!」


超速の居合を回避した直後、転ぶように回避した俺を雷の雨がホーミングし、雷を突き破って俺の頭を掴まんとする掌を咄嗟に蹴って弾きつつ反動で距離を稼ぐ。


入道(ニュウドウ)……」


「っ! お前ら範囲攻撃が来るぞ!」


(グモ)


薙ぎ払う腕の動きに合わせて背後に回り込み、スタミナを回復させる。既にクライマックス・ブーストと餓狼の闘志(ハンガーウルフ)を発動してこのザマだ、攻撃する暇などありはしない。


断風(タチカゼ)断風(タチカゼ)断風(タチカゼ)


「んなぁ!?」


顔狙い、心臓狙い、肩狙い。

頭がそれを理解するよりも先に身体が反射だけで超速の三連撃を回避する。くそ、同じ技でも連続で使えるのか、リキャスト概念ぶっ壊れかよぉ!?


()……!」


断風(たちかぜ)入道雲(にゅうどうぐも)雷鐘(らいしょう)大時化おおしけ……「か」から始まる技はない、つまりここにきて新技か。


(上か!? 下か!? あああもうやってやる!)


(サイ)……」


太刀を逆手に握り、杖をつくように地面へと突き立てる。太刀が突き立った場所を基点に地面が赤く発熱する。それは蛇が地を這うように捩くれた直線で地面を赤く熱く染めながら俺へと迫る。


「見切ったぁ!」


リュウ!!」


赤熱を越えて白熱した地面がスライムのように隆起し、地面を食い破るようにして炎の柱が発生する。

見ようによっては天へと昇る龍にも見えるそれをギリギリまで引きつけてからバックステップで回避した俺は、火柱に隠れて見えない墓守のウェザエモンを視界に入れるべく立ち上がることもそこそこに火柱を迂回するように回り込む。

視界に入ったウェザエモンは、地面に突き立てた太刀を引き抜いて空に掲げ……その刃の先、気味が悪いほどに真っ白な上空を覆うように黒い雲が発生しているのを目撃する。


「元から組み合わせるのを前提とした攻撃か……っ!」


灰吹雪(ハイフブキ)


俺の言葉を肯定する墓守のウェザエモンの言葉をトリガーに、上空へ滞留する黒雲が意思を持つかのように俺へと殺到する。一瞬確定即死攻撃かと硬直しかけた身体を無理やり動かし、蜷局を巻く蛇の如く俺を包囲せんとする黒雲の、僅かに残った切れ目に身体をねじ込むように取り込む。

体力が削られるのを自覚しつつも、なんとか灰の包囲網から抜け出すことに成功する。見上げればこちらへ手を伸ばす墓守のウェザエモン、初見攻撃を更に重ねられるよりはマシだ。逆にこちらからウェザエモンの手首を掴み、横へと押し出す。捕まりさえしなければその技は怖くない。


(何秒経った? 幾つ技を使った? 何がトリガーでこれは終わる?)


考えることすら億劫だ、だが考えなければ。これが時間経過で終わるならまだいいが、なんらかのアクションをしなければ終わらない場合はそれを見つけ出さなくてはジリ貧に追い込まれる、というか追い込まれている。


第一、第二形態で受けた全攻撃を圧縮したような怒涛の攻撃に追い詰められているのがわかる。

だが、全身の亀裂から炎だけではなく、黒煙が上がり始めたことから向こうもノーリスクで理不尽攻撃をかましているようではないようだ。

この際反撃は捨てる、両手の兎月を投げ捨て、インベントリからアイテムを取り出し攻撃に備える。


晴天大征(セイテンタイセイ)、流転と手向けを以って終極と為す」


「速っ……!」


アイテムを取り出すためにウィンドウに目を向けた一瞬で俺との距離を詰める墓守のウェザエモン。どうする、もう一度開いて武器を取り出す……いや間に合わない。


晴天(セイテン)転じて我が窮極の一太刀。我、龍をも断つ……【天晴テンセイ】。」


「こなくそぁ!!」


手に持ったアイテムを放り投げ、回避を試みた瞬間、身体がいきなり止まる(・・・)。集中が切れたとか、転んだとかそういうレベルじゃない……これは、


「行動そのものがキャンセルされ……」


最後に俺が出来たことは、大上段から俺を真っ二つにする一撃から急停止した身体のうち、かろうじて首を傾けることだけだった。

右肩より少し上、首筋に刃がめり込む。抵抗は一瞬すら保つことはなく、蒼い刃の一筋をなぞるように黄金の輝きがあるのを確認して、そこで左腰へと刃が抜けて真っ二つ。身体がポリゴンと砕け、視界が暗転し……


「土壇場で成功! 究極奥義セルフ蘇生(・・・・・)ィィ!!」


上空へと放り投げた、自前の再誕の涙珠が投擲エネルギーを使いきったことで重力に引かれて落下し、直下でポリゴンと化した俺へと命中する。

お値段がお値段故に実証無しの賭けではあったが、「自分自身への使用」も可能であったらしい。


ありったけのスタミナを使ってウェザエモンから距離を離し、俺を真っ二つに斬り裂いた一撃の攻略を大至急で考える。


天晴(てんせい)だかなんだか知らんが、ヤバい)


腰を撫でれば、そこにあったはずの腰装備……命潮の腰帯が無い。あの一撃だけでほぼ無傷だった装備が破損したのだ。


(装備破壊、多分装甲貫通もあるな。それにあんまりにもあっさり死にすぎてる……まさか即死効果?)


自慢じゃないがこの戦闘内だけでどれだけあの太刀に切り捨てられてると思ってるんだ、斬られた時の感覚の違いくらいは分かる。あれは普通に当たった時とも、おそらくクリティカルによるオーバーキルとも違う。

もっと根本的にプレイヤーをぶち殺しに来ている。仮にフル装備で防御を固めたレベル99のプレイヤーが盾を構えてあの一太刀を受け止めたとしても、俺と同じく豆腐でも切るかのように真っ二つにしてしまうだろう。

出来れば考えたくないが、当たった時点でシステム的な問答無用の死は確定していると断定していいだろう。


(だが、一番やばいのはそれじゃない)


回避行動を阻害する謎の金縛り。あれの条件を見つけなければ、恐らくこの戦闘そのものを終わらせる最後の一撃であろうあの斬り捨てを攻略できない。


(セルフ回復するにしても再誕の涙珠は二つ、生命の神薬は5個そのまま残ってはいるが……)


セルフ蘇生は片手間で出来るようなイージーなテクニックではない。相手の攻撃に対して死ぬ前に上へと放り投げなければならない、ということは死が確定した攻撃かどうかを判断した上で行動しなければならない。

兎にも角にもあの攻撃をなんとかするまで、何度か死を前提とした特攻をしなければなるまい。

そう判断し改めて墓守のウェザエモンを見れば、丁度そろそろ一分前になるくらいかそれくらいの過去に見た構えをとるウェザエモンの姿。


「しからば、わが窮極を超えぬ限りこの身は斃るることあらず…………晴天大征(セイテンタイセイ)


「もしかして最初からやり直し(・・・・・・・)ぃ!?」


火砕龍(カサイリュウ)


龍の火柱を回避しながら、俺は果たして何回最後の一太刀まで辿り着けるか懸念しなければならないのだった。


天晴(テンセイ)ってどんな技なの?

触れた時点で装備を破壊します。

VIT数億の鎧を着込んでいようが問答無用で破壊しながら攻撃を肉体に届かせます。

というか体力が5000兆あろうが確定で即死させます、幸運? 運命ごと切り捨てたるわ。

避けるな、甘んじて死ね。

天晴に対処できない? 残念、最初からやり直しです!!


うーんこの糞技、一応「かっこいい攻略法」と「クソつまらない攻略法」の2種類の突破口があります

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