刹那に想いを込めて 其の十一
修正報告
「和紙は紙より丈夫」という情報を多く頂き、和紙装甲からティッシュ装甲に変更しました。作者の中では和紙とティッシュの耐久性はイコールになっていました、なんでだろう……?
光陰矢の如し、平日の月曜日から金曜日は延々と続くのに連休の一週間はふと気づくと最終日……時間とはかくも残酷でかくも慈悲深い、そんな
待ち合わせ場所はNPCカフェ「蛇の林檎」、何故ここにこだわるのか問うたところ実はこの店のメニューは味覚制限が無い上にレッドネームプレイヤーも受け入れてくれる稀有な店らしい。
初心者はこんな場所知らないし、上級者はもっと先の街の同じような施設を利用するので、知名度の割には人が少ないという穴場スポットなんだとか。というか、だから毎回オイカッツォはここでケーキを注文してたのかずるいぞ俺も食べる。
「んー、雑に甘い!」
「俺はこういう大雑把な甘味嫌いじゃないよ」
「はいはい……わざわざ朝集まってもらったのは他でもない、作戦決行における予定の再確認だね」
ムッシャムッシャとケーキをパクつきながらも、俺とオイカッツォは予定の復誦を行う。
「とりあえず俺達はサードレマで待機、そんで11時半になった時点で樹海窟に行く……だろ?」
「今の俺達なら大体十五分あれば例の場所に着くから入り口前で待機」
「そう、私はフィフティシアに行く阿修羅会のメンバーを足止めする罠を仕掛けてから向かうから、大体五十五分予定……そして日付が変わるその瞬間が、決戦の時」
何をどう便宜したのか、NPC店主たる強面のおっさんが揉み手で案内してくれた個室にて、俺達三人は絶賛悪巧み中だ。
レベリングは完了、スキルも整理し、武器防具も新調した。オイカッツォは何やら隠し球を用意したと言っていたが、俺は俺のできることをやるだけだ。
便秘で超速ボスの練習を行った今の俺はわずかな予備動作から相手の動きを読み取ることすら可能だ、多分。
さらにはオイカッツォがレベル49で苦戦している時にレベリングに参加して、呪いを有効活用したライブスタイド・デストロブスター釣りによってある程度スキルも鍛えた。そんな今の俺のステータスはといえば。
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PN:サンラク
LV:53(15)
JOB:傭兵(二刀流使い)
150マーニ
HP(体力):30
MP(魔力):10
STM (スタミナ):60
STR(筋力):40
DEX(器用):50
AGI(敏捷):70
TEC(技量):55
VIT(耐久力):20
LUC(幸運):74
スキル
・無尽連斬
・ドリルピアッサー
・インファイトLv.4
・スケートフット
・パリングプロテクト
・ハンド・オブ・フォーチュンLv.3
・グレイトオブクライム
・クライマックス・ブーストLv.2
・五艘跳び
・シャープターン
・アサシンピアスLv.5
・オプレッションキックLv.6
・ベストステップ
・
・オフロードLv.2
・致命刃術【水鏡の月】
装備
左右:帝蜂双剣
頭:凝視の鳥面(VIT+1)
胴:リュカオーンの呪い
腰:命潮の腰帯(VIT+19)
足:リュカオーンの呪い
アクセサリー:なし
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……ええ買いましたよ買わされましたよ! 買わないとなんか怖かったんだよ!
いやそんなことよりも祝、ティッシュ装甲からダンボール装甲! これは偉大な前進だ、何せダンボールはすぐに水で溶けない。
どちらにせよ焼け石に水ではあるのだが、最善を尽くすならば僅かでも努力はするべきだろう。様子見も兼ねて最初は帝蜂双剣で行くが、場合により装備は切り替えて行く。
「てか罠って何をするつもりだ?」
「上位クランに阿修羅会のクランの場所をチクる」
「「うわぁ」」
「多分上位クランが知らない場所、つまり例の場所に逃げ込んで来るだろうけど、少なくともあいつらが襲撃を受けてから即その答えにたどり着けるとも思えないし」
こいつ、たった一戦のためにクラン一つを潰すのか……いや、バレれば間違いなく袋叩きは確実な真似をしてでも勝つという決意か。
「とりあえずエリアに入るまでの作戦はこれで行くとして……本題は戦闘中の作戦」
「俺がウェザエモン担当で」
「こっちが騏驎担当、ペンシルゴンはサポートだよね?」
「そう、それについてのさらに詳細な確認だよ。まずサンラク君」
この場にエムルがいない寂しさになんとなく首の後ろを撫でていると、ペンシルゴンが俺に視線を向ける。
「まず君には、少なくとも墓守のウェザエモンが持つ大体のスキルを十分で完全対処できるようになってもらうよ」
「マジか」
「十分経過するまでは私とカッツォ君がアシストに回れるから、兎にも角にもあいつの動きに対処できるようになってほしい。多分後半に行くほどサンラク君には対処できなくなるから」
ふむ……事前情報があってもやはり実際の光景を見ない分には対処の仕方も変わってくる。十分の間であればカッツォを肉盾に出来るというのであれば、出来る限り節約しつつも酷使出来るな。
「というわけでよろしく頼むぞ肉盾」
「任せろふやけたダンボール」
無言でメンチを切る俺とオイカッツォの漫才をもはや無視したペンシルゴンは、次にオイカッツォへと視線を向ける。
「カッツォ君、多分だけどキミは相当回数死ぬことになる。だから十分経過して騏驎が来た時点で私は実質カッツォ君の専属サポートになる」
「……ヤバい、とは聞いてたけどそこまでヤバいの?」
オイカッツォは十分経過時点で出現する戦術機馬【騏驎】、それの
「なんていうかな……馬とか牛とか、そういうイメージは捨てたほうがいいよ。あれはなんていうかもう……足の生えたダンプカーだと思った方がいい」
「予想の二段階くらい上行っちゃったなー」
安心しろ、俺は予想の三段階上で内心ドン引きしている。ペンシルゴンをして警戒を抱かせるデンジャラスロデオに挑むオイカッツォであるが、不敵な笑みを崩すことなく堂々と告げる。
「まぁ俺はこれでもプロゲーマーだからね、そこの悪食アマチュアゲーマーがロボ武者にボコられてる間優雅に馬と戯れているさ」
「行ってろ、精々後ろ足で蹴り上げられないようにな」
「あ、騏驎の後ろ足で蹴られたら死ぬよ。阿修羅会のタンクが掠っただけで消し飛んだし」
「…………」
笑みが引きつってるぜプロゲーマー。
「決戦は夜、とりあえず晩まで寝るとして……」
三日前から生活リズムをずらして来た俺は、今日の夜がベストパフォーマンスを可能とする時間帯だ。今すぐログアウトして寝てもいいが、寝る前にいくつかやっておきたいこともある。
ペンシルゴンから貰った
「キィーッ!」
「うおっなんだ!鳥!?」
いきなり肩を鉤爪で掴むように着地したそれは、俺の覆面とはまた違う鋭い眼光にまごう事なき猛禽の特性を備えた……ハヤブサ?
何事かと慌てて振り払おうとするが、肩にほとんど痛みを感じないことと、ハヤブサの脚に何か筒がくっついていることに気づく。
「もしかして……伝書鳩的な?」
「ピィー」
はよ受け取れや、とでも言いたげに脚を差し出して来たので筒に触れるとそれはポリゴンとなって消え、ウィンドウが表示される。
「手紙か……差出人は、んん!?」
拝啓
真夏の日差しも強く、日々猛暑の今夏でありますがいかがお過ごしでしょうか?
突然のことではありますが直接伺うのもご迷惑かと考え、こうして手紙を出させていただきました。
本日十一時にシャングリラ・フロンティアでは大型アップデートが実施されます。電子的な機微に疎い私としてもログアウトの必要なくアップデートするシャングリラ・フロンティアの技術力には驚嘆するばかりです。
本題ですが、宜しければ大型アップデートが実施された後の諸々について一緒に確認したい、と考える次第ですが如何でしょうか?
どうぞ御一考の方宜しくお願い致します。
サイガ-0
一瞬あまりに堅っ苦しい文体過ぎてそういうロールプレイの果たし状か何かだと思ってしまった。
ええと、要約すると今晩空いていますか? という意味なんだろうが……残念だが今晩は空いていない。
「ええと、返信は……これか」
わざわざ羊皮紙型のウィンドウが表示されるあたり細かいが記入はタッチパネル式のキーボードである。
とりあえず断りの言葉と……ああそうだ、どうせならシャンフロ内でもトップクラスの実力を持っているであろうサイガ-0氏に質問でも投げてみようじゃないか。
「ハイレベルの方々は超速フレーム攻撃にどうやって対処なされてるんですか……っと」
これはハヤブサの脚にくっつければいいのかな? おーよしよしそんな面倒そうな顔すんなよ……鳥のくせにやけに表情豊かじゃねぇか、睨んでも無駄だぞ目力の強さならこっちも自信がある。
「ほうれ行ってこーい」
「ピャーッ」
猛禽類とは思えない気の抜けた鳴き声で飛び去って行ったハヤブサを見送り、さて改めてラビッツに……あっ、
「ピェー」
「えぇ……」
ちょっと早過ぎない?
息切れしているハヤブサの頭を撫で、手紙を開けば今の一瞬でどれだけタイピングしたんだと聞きたくなるほどの大量の文章の羅列。肩で息切れするハヤブサを休ませ、なんとか解読したそれを要約する。
「要するに……「お返事ありがとう、残念ではありますがまたの機会に宜しくお願いします。基本的に高速で放たれる攻撃は予備動作を把握するか、ガードクリティカルなどで対処します。あまり見かけませんが幸運のパラメータを100以上にすることで戦闘中一度だけあらゆる攻撃を受けても体力が1残る仕様もありますが、多段ヒットや即死攻撃には無力なためあまりオススメはできません」か」
これでも五分の一にまで圧縮した内容だぞ、実は俺のメールが届く前から既に俺が質問するであろう内容を把握していたんじゃなかろうな、恐るべしサイガ-0。
にしても……うーん、あんまり役に立たない情報だ。いや、そうでもないんだが、今の俺ではどうしようもない情報ばかりだ。
「とりあえずお礼書いて……」
「ピィ……」
「……鮭でも食ってくか?」
「ピィー!」
高速シャトルランさせられているハヤブサがあまりにも哀れだったため、余りに余りまくっているライブスタイド・サーモンを食べるかと聞けば喜んでいるのか、羽を広げて一鳴きした後に鮭をつつき始めた。
「おーおー愛い奴め。しかし凄い作り込みだな……さすがシャンフロ」
ポリゴンのかけらも窺わせない狂気じみた作り込みは、実はゲーム内と見せかけて本当に異世界に来ているのではとすら思わせる。
「………っは」
「ピヨ?」
「何でもない……ってお前本当にハヤブサか?」
思わず自分の突飛な発想を鼻で笑う。異世界には行けないし行きたいとも思わないが、その非日常性を体験だけはしたいからこそ、ゲームをやるのだから。
「サンラクサン!いらっしゃいです……わ?」
手紙をくくりつけたハヤブサを見送り、ラビッツへと転移した俺を出迎えたエムルだったが、何やら顔をしかめると俺の方によじ登って鼻を動かす。
「どうした?」
「……なんだか他のケモノの匂いがする! ですわ!」
お前はヤンデレ系ヒロインか。例の「ピザ留学」にもヤンデレ系ヒロインはいたなぁ、最終的にお前主人公<<ピザなのかよと購入者から総ツッコミ受けてたな。
そんなことを考えていると、エムルはさらに俺の身体をよじ登って頭の上へと到達する。
「サンラクサンのここはアタシの定位置ですわっ! ポッと出の鳥になんて負けないですわ!」
「兎も一羽二羽で数えるし似たようなもんじゃ……」
「むーーーーー!!」
「いたっ!いたたたたやめっ!」
STR30でポカポカ殴るな痛いから!
シャンフロ内のメールは鳥を利用した所謂伝書鳩的なシステムを利用しており、お金を積めば積むほどより速くメールが相手へと届く。厳密には実在の動物そのものではないがほぼその見た目のため鳥の名前で認識されている。
ちなみに「送信→返信」が一回分の料金であり、ヒロインちゃんは合計二回最高級の伝書鳥を使用しています。まさに廃人プレイヤーのみに許されたブルジョワメール
スズメ(最安価、送信してから五分後に宛先に届く、30%程度の確率で猛禽に捕食されてメールが届かない)
ハト(普通、送信してから三分後に宛先に届く、スズメより若干速いが猛禽に捕食される可能性は5%存在する)
カラス(割高、送信してから四分後に宛先に届く、猛禽に捕食されることはないがハトより僅かに遅い)
フクロウ(高、夜間限定で送信してから二秒後に宛先へと届く、ただし日中は送信不可)
ハヤブサ(最高級、送信してから三秒後に宛先へと届く、稀に宛先人にアイテムをくれる……スズメの羽とか)