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宙を駆けるは壁画のアレ

 地図を確認し、サードレマの地形から千紫万紅の樹海窟へと続くルートを決める。

 大通りを直行できれば最速なんだが、ある程度の隠密性も確保しなければ最悪ユニーク狙いの連中とコンニチワだ。


「ここを通って裏路地経由して……」


「ここ通ると近道ですわ!」


「成る程……よし」


 ルート決定、あとはコケないように走るだけだ。











「いない……」


 最近隠れんぼばかりしているような気がする、とサイガ-0はサードレマにあるプレイヤー経営のレストランでため息をつく。

 「ゲーム内で食べた料理をリアルでも食べたいと思わせたら勝ち」という理論のもと、現実で実際に料理人の職業に就く者達が運営する「レストラン」の中でも、サードレマは中々の激戦区だ。

 そんな中でも千紫万紅の樹海窟で手に入る食材アイテムをメインで取り扱うこの店はサイガ-0のお気に入りの店だ。個人的なオススメは「蛍光苔とニトロトマトのシーザーサラダ」、サイガ-0のリアルにサラダブームが到来したのはこれが元凶である程だ。


「すごくせわしない人とは聞いていましたが、マグロみたいな人なんですね陽務君……」


 止まると死ぬ、とは中々に辛辣な評価を下しているのは交流の第一歩をいつまで経っても踏み出せないことにほんの僅かな苛立ちを覚えているからだろうか。

 では現状を打破するにはどうすれば良いのか? サラダを待ちながらサイガ-0が考えた方法は「発想の転換」であった。


(つまりは手順の入れ替えですっ)


 とはいえ具体的にどうするかと問われると答えに詰まる。現実もゲームもままならないなぁ……と見上げた先、


「はい?」


 身体を膝辺りまですっぽりと隠す白い頭巾に眉毛と目だけ書き込んだようなシンプルな姿の何か(・・)が筆舌し難い機動で宙を舞っていた。


「えーと、あの、エジプトの……」


 さながら大地と冥府の神の館に住まう人間の心臓(ハツ)がお好きな目からビームを出すアレ……


「……はっ!」


 その瞬間、サイガ-0の思考が雷光の如き速度でバラバラの単語を繋げていく。

 素足、紋様、隠す、奇行、探し人……プレイヤーネームは遠くてよく見えないが恐らく四文字。確証はないが確信した、あの妙ちきりんな白頭巾は間違いなく陽務 楽郎(サンラク)であると。

 果報は寝て待つものだが、朗報は自分から掴みに行かなければいつまで経っても何も進まない。未だ来ないサラダに後ろ髪引かれながらも、サイガ-0はある秘策を以ってサンラクと思しきメジェ……もとい白頭巾が跳び去って行った方向へと駆け出すのだった。








「い、いきなり捻り回転を加えて飛ぶのはやめてほしいですわ!?」


「いやすまん、こうやって隠すと逆に中身を晒すのが恥ずかしくなってつい……」


 アイテム名「祭衣・打倒者の長頭巾フェスタ・メジェ・カフィエ」。

 どこからどう見ても装備した姿はエジプトの壁画にいる設定はボスみたいな癖に見た目はゆるキャラなアレにしか見えない、というかアレそのものなのだが中々にユニーク(面白い的な意味で)な性能をしている。

 これ、分類的には頭装備なのだが膝の辺りまですっぽりと白い布が覆ってしまうため、頭装備欄だけでほぼ全身を隠すことが出来るのだ。ただデメリットとして装備中は腕を使うスキルの一切が使用不可となるという戦闘ではゴミ以外の何物でもない効果が付与されている辺り、本格的にネタ装備だ。まぁ街中でファッションとして使う分には問題はないという判断だろう。


 そんな祭衣・打倒者の長頭巾を装備した俺は時に家屋の屋根を跳び、時に路地裏を潜り、時に大通りを駆け抜ける。

 酷く目立つが初見で瞬間的にコレとサンラクが同一人物だと見抜くのは不可能だろう。名前を確認してようやくコレがサンラクだと気づく頃には俺は既に逃げ切っている。完璧な作戦だ、コレとサンラクがイコールであると理解された後の俺への評価はコラテラルダメージだ。


「でもなんで遠回りするんですわー!?」


「フェイクだよフェイク!」


 木箱や壁を踏み台にし、時に人目につかない場所で頭巾をたくし上げて手を使ったりして屋根の上によじ登り、再び走る。

 今俺は千紫万紅の樹海窟へ続くルートへ一直線……ではなく、神代の鐵遺跡へ続くルートへと走っている。とは言っても目的地は変わらず千紫万紅の樹海窟だ。これはあくまでもフェイク、本命は直前で裏路地を駆使して千紫万紅の樹海窟へと向かうルートを構築したのだ。


「いいかエムル、人を本気で騙すなら最低でも嘘っぽい嘘と、嘘っぽい真実と、真実っぽい嘘を用意しなければならない」


 これはペンシルゴンの受け売りだ。真っ当な真実が必須項目に混ざってない辺りに奴の畜生さが窺えるな。

 それは兎も角、大多数に俺が「神代の鐵遺跡」に向かうと思わせて本命の目的を霞ませる。仮に千紫万紅の樹海窟へ向かうところを見られたとしても大多数の意見が少数の真実を押し流す。マジョリティハウンドのモンスターコンセプトは実に合理的だよ全く。


「さぁ存分に悪目立ちしようじゃあないか!」


「きゃああ宙返りも堪忍ですわぁぁ!!」


シャンフロにおける料理ガチ勢は二種類に分かられます。

即ち他プレイヤーに食材採取を依頼する料理人プレイヤーと、包丁とフライパンでドラゴンだろうが叩きのめすセガールみたいな料理人プレイヤーです

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