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要約すると興味がある方

追記:予約投稿ミスってそのまま投稿してたみたいで、今更非公開にするのもアレなので予定外ですが二話投稿です

「……なぁエムル」


「はいな?」


「さっき立ち寄ったアイテム屋の人に明らかにヤベー奴を見る目で見られたんだが、本当に大丈夫なのか?」


「き、きっと大丈夫ですわ! それに、街を出たら脱げばイイんですわ!」


現在時刻午後二時、プレイヤーのログイン率としては微妙なラインだが夜間よりはまだ人は少ない方だと信じたい。

エムルが「身内割引」をしてくれた上で手持ちの素材アイテムの殆どを売っ払ってようやく購入できたそれは、外見の偽装という点では満点ではあるのだが、堂々と道のど真ん中を歩けるようなものでもないのだ。だが呪い(マーキング)を隠す為には現状選べる選択肢はこれしかなく、故に全ては短期決戦だ。


「確かこの先はエリアが三つあるんだったな?」


「はいな、一つはフォスフォシエへ続く「千紫万紅の樹海窟」、次にファイヴァルへ続く「栄古斉衰の死火口湖」、そしてシクセンベルトへ続く「神代の鐵遺跡」……アタシは栄古斉衰の死火口湖をオススメしますわ」


千紫万紅の樹海窟は巨大な迷宮洞窟の中に樹海の如く植物が生い茂っており、地面には一面色とりどりの花が咲いているエリア。


栄古斉衰の死火口湖は既に活動を停止した死火山の火口に水が溜まって湖となったエリア。


神代の鐵遺跡は神代の時代の遺跡であり、なんでも「宙に浮く鉄の板」からこの名前がつけられたというエリア。



「いいか、これは戦略シミュレーションでどの陣営を操作しどの陣営から搾取し、どの陣営に媚を売り倒すか……そんな高度な思考に似た極めて高難易度のトラップだ」


「は、はぁ……」


まずこの中で一番入るべきでないエリアとはどこか……これは考えるまでもない、神代の鐵遺跡だ。

今現在九割ファンタジーと言って良いこのゲームに垂らされた一滴のサイエンスという名の甘露、仮に皆が剣や槍を振るような文明している中で一人だけピストルでスタイリッシュにモンスターをBANG!BANG! 出来るとしたら……?

あれはまさしく荒野に一本だけ生えた樹液ダバダバのクヌギの木、カナブン(初心者)カブトムシ(上級者)も、場合によりギラファ(ガチ勢)すら誘引されている可能性を帯びたまさに蠱毒の壺……っ!

いや物の例えで流石にそこまでギスってはいないと思うが、俺では対処出来ないプレイヤーがいる可能性が最も高いエリアは避けるべきだ……例え、俺が、サイエンスなファンタジーにめっちゃ興味があるとしても……だ!


「つまり俺が選ぶべきは千紫万紅オア栄古斉衰のどちらか……だが、どちらともリスキーな点は否めない」


「り、りすきー」


そう、この二つのエリアにはそれぞれメリットとデメリットが存在する。

まず千紫万紅の樹海窟、これは所謂「ダンジョン型」エリアだ。行き止まりや分岐路を多く内包するこの手のマップは隠れる、場合により逃走する必要性がある今の俺にとっては素晴らしいエリア……と思えるがそれは違う。

ダンジョン型エリアがその真価を発揮するのは作業が始まってから、これは俺の持論だ。

レベリング? 素材集め? 理由はなんでもいい、スタートから頑張ってゴールを目指すというゲームプレイヤーの基本原理においてダンジョン型とは王道の試練足りうる。だからこそ、そこに何度も通わなければならない理由ができた瞬間にダンジョン型マップは牙を剥く。

周回は楽な方がいいに決まっている、脳細胞をロクに使わない周回ルートだとなおグッド。その点においてダンジョン型マップというのは本来の目的にプラスして複雑なルートを覚えるという面倒さが……話が逸れたな。


つまりはだ、初見のプレイヤーは後述するが死火口湖よりも樹海窟を選ぶ可能性が高い。

洞窟の中に樹海? 一面の花畑? しかもダンジョン型マップ? おいおい、目の保養にもなって迷宮を冒険できるとか最高にエキサイティングじゃんか……! というわけだ。



「まさに食虫植物……冒険とロケーションという甘い餌でプレイヤーを引き寄せる魅惑の花園(セクシーダイナマイト)……!」


「せ、せくしーだいなまい……」



ならば正解は栄古斉衰の死火口湖? いや、こちらもこちらで罠が仕掛けられている。

樹海窟がダンジョン型マップであるなら、こちらは「オープンワールド型マップ」と言うべきか。いや、このゲーム全エリアオープンワールドだけど、そう言う意味じゃない。ここにおけるオープンワールド型とは即ち「クッソ広い」という意味合いで用いられる。

ダンジョン型マップには必ず「正解ルート(アリアドネの糸)」が存在するが、オープンワールド型にはそれがない。

厳密には「最適ルート」は存在するが「正解ルート」はゴールに辿り着ければ全部正解と言える。

「我が心肝慄わす衝撃に全身より脂汗噴き出し、本能の警鐘とそれに伴いし衝動に抗わんとするも全ては砂上の楼閣が如く」と「マジヤベェ、パーペキにブルったからエスケープするわ」は結局のところどちらも同じ意味であるのだ。

オープンワールド型マップの強みはその自由度だ。寄り道してもよし、最適ルートを直行するもよし、地形という大局的な流れに行動を制限されない圧倒的自由度。


さっさと次の街へ行くのならば死火口湖がベター……とでも言うと思ったのか?

俺はRTAをやってるわけじゃないんだよ、いやステータスビルドはRTAみたいなことになってるけど違うんだよ。

俺は楽しむために効率を求めているのであって別に速さは重要ではない。そもそもラビッツから出た理由は次の街に行きたいからじゃなくて楽しくゲームプレイしたいから、だ。

だから死火口湖の最適解による時間短縮という長所は俺にとってはメリットたり得ないし、さらに言えば火山というあからさまに遮蔽物が少なそうなエリアは他のプレイヤーに目撃される可能性が高い。


「効率というメリットを提示すると見せかけ、その裏に要するにただの山登りじゃんという事実を隠すまさに巧妙なる手腕(テクニシャン)……!」


「て、てくにしゃーん」


そう、これらの情報を加味して俺が選ぶべきは……


「千紫万紅の樹海窟だ」


「つまりサンラクサンはせくしーだいなまいっ! なんですわ?」


「はぁ?」


変装前も変装した今もミスターデンジャラス(格好がやべーやつ)じゃねぇかなぁ。

実際のところ、現在実装されている全てのエリアを攻略したプレイヤーは全体的に見ても少数です。

シャングリラ・フロンティアの世界観にこそ魅せられ、その最奥まで暴くことを目的とした考察勢や、世界観的な意味ではないゲーム的な意味で未知を明かすことこそを目的とする完クリ勢などが主人公がゲームを始めるまでに隅々まで開拓しきってなお今も考察と探索を続けています。

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