300リミット狂想曲、勝算を追う者
ほぼノーモーションで放たれる地面から襲い掛かる槍と化した木の根(当然の権利のごとく
クソが、オチかけた意識を無理やり引きずり戻して考えながら動かないとやられる。
まず大前提として、俺の攻撃の一切はアレに通用しない。リュカオーンのようにスペックが違いすぎて歯が立たないとかそういうものではなく、相性の問題としてあのミイラ擬きはこれ以上なく物理職殺しだ。
「物理攻撃完全耐性だぁ……!?」
開始数秒の間はまだ攻撃のチャンスがあった、故に遠慮なく攻撃を叩き込んだのだが、返ってきたのはゴムを巻いた鉄塊でも殴っているような不毛な感触。この手の類は大抵それ以外の攻撃で倒すのが定石、というか敵Mobとしてのお約束であるが、魔法など一つも覚えていない俺にはこいつに1ミリのダメージも与えることはできない。
となればヴァッシュが設定したクリア条件……五分間逃げ延びる、という一見簡単そうなそれも、開始二十秒で甘い考えは消しとばされた。
「あっぶ……ねぇ……っ!」
地面が不自然に黒くなった数秒後にヘドロが噴き出してくる。畜生、また新しい攻撃だ。
ルーザーズ……長い、
ただ救いがあるとすれば、木乃伊椰子の本体は闘技場の中心から一切動くことはなく、繰り出される攻撃の数々の合間には確かにモーションとモーションとを繋ぐリキャストが存在していることだ。
少なくともあの魔法と思しき技に捕まりさえしなければ、五分くらいなら大丈夫なんだが……
(明らかに逃げっぱなしだと詰むんだよなぁ)
少なくとも最初の二十秒間はただ火の玉を飛ばしたり、地面から突き出る土の槍も一本だけだったのが、二分現在の時点で同時に五本は発生する上にホーミング、リキャストも明らかに短くなっている。
くそ、頭痛い……何か甘いもの食べたい……まだ動く脳細胞をかき集めて考えろ。次に活かすにしたって情報は……いや。
「諦め前提でクリアできるゲームなんてのはなぁ……!」
クソゲーにすら劣るんだよ! 全く伏線なく発生するイベント戦闘以外はなぁ!
思えば俺は少し甘えていたかもしれない、その結果が
そうだ、攻略済みのクソゲーをぬるくプレイするならともかく、未攻略のゲームで手を抜くなんてナンセンス。
なんてことだ、クソゲーのしすぎでメンタルがクソキャラになっていたのか。やはりクソゲニウムの過剰摂取は危険性を伴っておりカミゲニウムで中和………………うん。
「さっさとクリアして……寝よう!」
疲れてるんだよ、俺。
となればどう時間を稼ぐか、それが問題だ。物理完全無効という俺キラー、攻撃の密度はどんどん上がり、最終的には雨霰のごとく魔法が広範囲に発生するのだろう。
全体魔法、ってのは分かりやすく強キャラを作るためには非常に便利なファクターであり、無論俺もそういった攻撃への対処は心得ているが……流石に魔法無しで軽戦士ビルドで対処はなぁ。おっと危ない。
「雷、発生から大体0.5秒後……」
見たことのない攻撃とは言え、覚えておいて損はないだろう。それにこういったホーミングではない場所指定時間差攻撃はスタミナ回復のチャンスだ。
次は泥……来た!
「ネタ切れか!」
思い出せ、奴の攻撃パターンを!
まず火の玉、次に土の槍、間欠泉泥、落雷、魔力の鎖、瘴気の煙……そして近距離での物理攻撃!
そうか、冷静に考えたら規模が違うだけで大まかな攻撃の属性や形状は一緒……くそ、勝手に別種類の攻撃だと思い込んでいた! いつもならもっと早く気付けてたのに、カフェインを摂取したい。
「時間経過で攻撃の密度と威力が上がるモンスター、物理攻撃完全無効……いや。」
確かに物理特化職を殺しにかかってる性能な木乃伊椰子だが、物理特化職が完全にゴミになる……そんなことあり得るのか?
このゲーム、こいつと戦う適正レベルプレイヤーを想定している調整として、全員が全員魔法も覚えた物理職になると仮定されてモンスターを作るか? 恐らくだが完全物理職でも勝てないにしろ何らかの対抗は可能なはず。
「と、なれ、ば……」
見えたぞ攻略の糸口。
特にこの章で説明することを思いつかなかったので本編に出す確率が低そうな設定開示コーナー
・シャングリラ・フロンティアには大量の「エクスカリバー」が存在する。
厳密に言えば「エクスカリバー」は一振りしか存在しないのだが、プレイヤー鍛冶師が自作の武器にエクスカリバーの名前をつけるため、市場には大量のエクスカリバーが叩き売りされています。
尤も、公式が用意した「エクスカリバー」と同名の名前をつけることはできないため
「真・エクスカリバー」
「RE:XCALIBUR」
「儀典エクスカリバー」
「工クス力リバー」←「エ」と「カ」が違うが、フォントで分かる
「スーパーエクスカリバー」
など微妙に文字を付け足したものになるのですが、これは便宜上本物と呼称しますが本物のエクスカリバーに形を似せたものを初心者に売りつける詐欺行為対策でもあります。
中にはガチで本物を越えるべくプレイヤーの情熱によって作られた「エクスカリバー」も存在するため、一言でニセエクスカリバーと片付けることもできない、ある種の宝くじです。