状況結実
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状況結実
当初の予定としては、一番対処しやすそうな……明らかに俺を低レベルと舐めプしているPKプレイヤーの中でも大剣持ちのプレイヤーから
大剣はどうやっても一秒間に出せる手数が少ない、つまり攻撃の回避に必要な行動を少なく済ませることができる。ついでに言えば見るからに物理特化ですと言いたげな装備は不意打ちの魔法の心配も少なく見える。
まぁ一番の理由は一番俺を舐め腐っていそうな奴だったから、ではあるが。ともかくこちらから先手を取って不意を打ってすり抜けて逃走が俺の当初の予定だった……なぜ「だった」と過去形でしつこく説明するのか? 理由は簡単だ。
今その大剣使いが海老反りの「く」の字になって彗星の尻尾よろしくポリゴンを撒き散らしながら門の先へと吹っ飛んでいったからだ。というか俺のすぐ隣を通過したあからさまにヤバそうな衝撃波、あと少し右に寄っていたら俺も消し飛んでいた。
「なんだ!?」
「一撃だと!?」
「誰がやりやがった!」
門の先、大通りのど真ん中で爆散する大剣使いPK。それが想定外の事態であるということは、小者臭さが極まったPK達の反応を一目見れば分かる。ああも混乱していては冷静に攻撃を仕掛けるなんてできないだろう。だからこそ、分かりきった光景を見ることなく俺は振り返った先、剣を振るった姿勢で立つプレイヤーの姿を直視していた。
(見るからにハイレベルプレイヤー、ネームは赤くないしペンシルゴンのツレではないようだが……)
そもそもこの場に俺というプレイヤーの絶対の味方は存在しない。敵の敵は味方、なんていうが現在の状況に最も適切な言葉は敵同士が共食いし始めた、である。
ユニークを握る俺は手出しを防ぐだけの後ろ盾もレベルもない、喋る兎という強さとは別の方面で求める者が多そうなユニークだったというのも拍車をかけている。アニマリア氏がいい例だろう、動物好きなプレイヤーにも狙われる可能性は極めて高い。いや、それよりもあのプレイヤーについて可能な限りの情報を集めなければ。
プレイヤーキラー、それも物理ビルドの大剣使いを一撃でHP全損にする……まず間違いなく最前線クラスのプレイヤー、それもアニマリア氏やペンシルゴンとは比べ物にならない完全前衛特化。PKの吹っ飛び方、ダメージ判定を見るに一撃の威力を高めるタイプと想定……
「装備……大剣、盾、全身鎧……」
クソ、装備のバリエーションが増えると一見して魔法を使うのかどうか分からないってのが厄介だ。魔法は使ってくるものと想定するべきだな。
ガッシャガッシャとペンシルゴン達をガン無視して一歩ずつ近づいてくる鎧騎士、さぁどうするこの状況。即興で思いついたプランは三つ。
一つ、正面突破。仮に鎧騎士が後ろから来るとしても脳筋である事を祈ってあわよくばアサシンキル。
二つ、逆走。前衛ハイレベルプレイヤーと戦えるか、元来た道を戻る。レベル上限に到達してそうなプレイヤーが三人いるけどな!
三つ、離脱。勝てるわけないだろ、強制ログアウトでもなんで……いや、
「プラン4だな。」
俺は迷う事なく全力で門へと突貫する。強い奴らってのはどいつもこいつも格下が躊躇いなく突っ込んでくるとなぜ驚くのやら、初心者のC4突撃とか経験がないのか? 少なくともあのワンコにはあるわけないか。
一切減速する事なく、更に言えば武器すら構えず俺はPK達へと肉薄する。強いていうなら装備:エムルと言ったところか?
「………っ!」
三、鎧騎士が慌てたように駆けてくる。
「きゃぁぁあーーーっ! 死ぬ死ぬ死にますわぁぁぁぁ!!」
二、鎧騎士の大剣を握る手に力が入り、ようやくPK達も戦闘態勢に入り始める。
一、そ「なんだあれ?」
「っ!?」
「にゃっ!?」
全力疾走と見せかけての全力停止、全力よそ見……不意に動きの止まった車の中にいる者が慣性に従って前に投げ出されるように、音ゲーの最中に第三者によって突然ゲームのポーズ画面を開かれたように。
時間にすれば数秒の「空白」が生まれる。側から見れば古典的かつ陳腐な手段だが、誰も彼もが
「エムル、門の用意。」
「は、はゃい!?」
棒立ちからの
一歩踏み出しすぐ後ろまで来ていた鎧騎士へ肉薄し、二と三歩目で剣を「駆ける」。そして四歩目は……
「………待っ、ふぎゅっ!」
「悪いね。」
タッパのデカいアバターはこういう時にいい足場になる。
重量級の大剣と、それを支えるSTRによって無理矢理見出した剣の坂道を駆け上がり、鎧騎士の肩を踏み台に反転した位置関係の結果背後にいるPK共を一息に跳び越す。少し気合を入れて跳び過ぎたせいで体勢を崩しかけたが、空中で一回転入れて着地。
「はっはぁーっ! システムアシスト無しで成功させるアクロバットはたまらんなぁ!」
「ちょ、揺れて集中できないですわーー!」
こういう時、ひょろ長いアバターは役に立つ。テレビで見るような高身長陸上選手の動きを肉体の制限なく再現できるからな。
「おうさっき許可は得たから入っていいよな! 悪いが返事は聞かない!」
「え、あっ!」
門番のおっさんにそう言い残してようやっと門の先に一歩足を踏み入れる。
「サイガ-0、ね……名前だけでも覚えておくか。」
一瞬見えたプレイヤーネームを思い出すように唱え、記憶に留める。俺が握るユニークをハイレベルプレイヤー達が狙う以上、立ち塞がるプレイヤーの名前とスタイルは覚えて損はないだろう。正直ペンシルゴン以外のPK達とか覚えてられないが。
俺はもう後ろを振り返る事なくサードレマへと駆け込むのだった。
「…………」
ただ、無言。
第一線にその名を轟かすトップクラン「
(は、話しかけられちゃいました……!)
まるで憧れのハリウッドスターに話しかけられでもしたかのような心中の
それなりの数の野次馬達がサイガ-0から距離を離す中、逆にサイガ-0を囲むように近づく者もいた。
「な、なぁ……マジでやるのか? 相手は「
「ビビってんのか? 最高火力っつったって所詮はバフデバフの支援ありきだろうが。ここで俺たちがあいつをキルすればランキング一桁にだって行けるんだぜ?」
「街の中に入られたらどうしようもねえよ、俺たちじゃ
アップデートによって「街中でPKをする」ことを条件に出現する特殊NPC、
そんな街中でのモラルを守るようになったプレイヤーキラーによるPKクラン「阿修羅会」、そのメンバーたるプレイヤー達はいざという時の
「…………」
第三者が見ればしょうもない喜びかもしれないが、本人からすれば月面に踏み出した宇宙飛行士の第一歩が如き進展に喜んでいたサイガ-0だったが、よくよく考えれば
「……その、なんというか……八つ当たり……です、じゃなくて……だ。」
明らかに無理のあるロールプレイによる死刑宣告。数秒後、プレイヤーキラー達は阿修羅会No.2の助けを受ける事もできず、「
変更点全てを要約すると
・戦った場所が街中から門の前に
・PKが街中での戦闘を避ける理由「賞金狩人」の追加
です。
賞金狩人。
バウンティーハンター、物語開始前の大規模アップデートで追加された街中でPKが行われた時点でポップする特殊な職業のNPC。某悪夢で狩りする啓蒙ゲーの狩人のような連中が無言でPKを殺しにかかってくる姿はかなりのホラーだが、5%くらいの確率でロシア系金髪幼女賞金狩人「ティーアスちゃん」がポップするため、談合の上でわざと街中PKをする&されるプレイヤーも存在する。ちなみにティーアスちゃんの現在の装備はビキニアーマーのためティーアスちゃんと戦闘する際にはPKKされるプレイヤーの装備を賞金狩人の特徴である「奪取」が行われた際に上書きされないよう全裸装備がマナー。
かつての阿修羅会ランキング旧三位が偶然遭遇した際、周囲のプレイヤーを味方にして時間稼ぎさせてる間にインベントリ整理して「自分がPKKされた時に絶対にティーアスちゃんがビキニアーマーを入手する」状態にして着させたもの。
ちなみに賞金狩人達のAIは「3S」を基本としています。すなわち、
「します」
「させます」
「させません」