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状況始動

 なるほど、どうやら阿修羅会なるPKクランのリーダー様は意地でも俺から情報を吐かせたいらしい。


「三……いや四人かな?」


「何人いようがお前みたいな低レベルキルするのなんか楽勝だっつの」


「雑魚をPKするとカルマポイント爆増するから嫌なんだけどなぁ」


「そりゃ上の奴らも一緒だろ、だから俺たちが実行班にされたんじゃねーか」


 こちらに敵意と武器を向けるプレイヤー、頭上のプレイヤーネームが赤く染まっているのはプレイヤーキラーの証だ。取説に書いてあった。とりあえず現状をまとめよう。

 達成すべき目標はサードレマへの到達を経てラビッツへの到達、その為に文字通り越えなくてはならないハイレベルプレイヤーの壁。位置関係は……門、PK四人、2メートル空けて俺&エムル、そして数メートル後ろにペンシルゴンとアニマリア氏。

 気になったのはカルマポイントなる聞き覚えのない単語、PK達の言葉的に溜まると奴らにとってはあんまりよろしくないものなのか? 嫌がらせのために徹底的に奴らに殺されまくってやろうかと一瞬考えたがエムルがいるこの場でその選択肢はノーだ。とりあえず見た限りではPK共には遠距離武器の類は無いが……魔法や遠距離対応のスキルがないとも言い切れない。さて、誰に(・・)したものか。

 じりじりと包囲するプレイヤーキラー達に、腕にしがみついたモコモコがぶるりと震えた。なに、舐めプした二流のプレイヤーキラーなんぞにそう簡単にやられはしない。世の中には「ここは始まりの村だよ」というNPCのごとく新規プレイヤーのスポーン地点で武器を構えて出待ちするハイレベルプレイヤーが普通に受け入れられている世紀末円卓(ユナイト・ラウンズ)があってじゃな。

 ちなみにそんなことをする理由は自分よりレベルが低いプレイヤーを一定数キルすると得られる称号「騎士失格」が割と便利だからだ。協力ゲーでなんでそんな称号があるのか運営に問い詰めたい、問い詰めたら「デメリット効果のつもりが結果的にメリット効果になっていた」だそうだ。

そらNPCからの好感度が最低になるデメリット効果が「NPCを煽れば武器を持ち出して襲ってくるのでぶち殺して武器ゲット」とかいう超蛮族的メリットになるとは思わんわな! そもそもそんな称号を作るなバーカ!

 よし、クソゲーの悪しき記憶(ストレス)を思い出して現状に萎れかけた俺の心が立ち直った。気を取り直して笑みと共に脚に力を込め……











 アーサー・ペンシルゴンというNPC達からすれば殺人鬼に等しいプレイヤーの登場に逃げ惑うNPCの波からようやく抜け出したサイガ-0が見たものは、文字通り火花を散らすアーサー・ペンシルゴンとSF-Zooのクランマスター、そして四人のプレイヤーキラー達に囲まれつつあるサンラクとその腕にしがみつく垂れ耳のヴォーパルバニーの姿であった。


(私が目を離した間に一体何が!?)


 一瞬サイガ-0の脳裏に「赤子より目を離せないなあの人」と不可思議な感情がよぎったものの、これはチャンスであると思い直す。

 古今東西、ピンチから始まる出会いのなんと多きことか、悪意を持って襲いかかるプレイヤーキラーを撃退してみせたのなら、それはただ話しかけるよりも遥かに良い関係を築く事ができる。幸い、PKをキルする……即ちPKKは数ヶ月前のアップデートによって一部のNPCからの自身への好感度が下がる程度で身内(クラン)に迷惑がかかる事はない。


(チャンス! チャンスですよこれは! 兎にも角にもこのゲームの中で面識を得て、そして現実で………っ!)


 千客万来? 千載一遇? もはやサイガ-0の中には「とりあえずプレイヤーキラーから彼を助け出す」という考えしかなく、その過程に用いる手段の加減が頭の中から吹き飛んでいる。


「……「断撃【破城斬(はじょうざん)】」!!」


 レベル99、トップクラン「黒狼(ヴォルフシュバルツ)」にて前衛として戦うサイガ-0の放つ城塞クラス(・・・・)の装甲を持つモンスター用のスキルが放たれ……










「いやぁ、中々に楽しめたよ園長さん。流石、モンスターを撮影するためだけにデバフ状態異常を極めた呪術師なだけあるよ、うん。」


「く、ぅ……」


 アーサー・ペンシルゴンは、足元でHPが尽きようとしているアニマリアを見下ろしながら、心からの賞賛を送る。

 廃人狩り(ジャイアントキリング)などという小っ恥ずかしい異名はともかくとして、ペンシルゴンが今もフィフティシアで挑戦(・・)しているハイレベルプレイヤー達を狙い、そして勝ってきたのは事実だ。

 そのペンシルゴン相手にハイレベルとはいえ対人の素人が善戦した事は十分に賞賛できる。ペンシルゴンはステータスに表示された夥しい数のデバフのアイコンに苦笑を浮かべる。


「そりゃここまでデバフ叩き込まれたらモンスターも哀れな被写モデルになるしかないよねぇ」


「スタンや、毒を何度も、仕掛けたのに、何故……」


「ん?その秘密はねぇ……じゃーん! 対呪術師において最高レベルのメタとして機能するユニークアイテム「応報の藁人形」君のお陰でしたー! いやはや偶然って怖いねぇ」


 アニマリアの敗因はただ一つ、ペンシルゴンがかつて呪術師PKKに粘着されていた経験から対呪術師の対策として最高クラスの呪術師対策アイテムを所持していたという……要するに運が悪かった。そもそもPvPに詳しいプレイヤーであるなら、対策の有無関係なしに「万全の状態のペンシルゴン」と戦うことが最悪手であることを知っていただろう。


「なる、ほど………」


「ま、そんなわけで因果応報呪い全カウンターってわけ、実際危なかったよ」


 なにせこのゲームにおける呪術師は中々に厄介だ。そう単純でもないが要約するとMPを消費すれば発動できる魔法と違い、呪術系は発動にMPとは別の何らかのコストが必要になる。その分メリットも大きく、レイド戦であれば二、三人呪術師がいると一気に戦闘が楽になる程にはコストとリターンの双方が大きいジョブだ。

 そして、「シャングリラ・フロンティアのあらゆる動物系モンスターを愛でる」ことを目的とするSF-Zooのクランマスターたるアニマリアはスペルスロットの殆どを拘束系の呪術で構築していた。

 サンラクが期待した足止めという点において、偶然にもアニマリアというプレイヤーは最良であったとも言える。


「さて………」


 どうしたものか、とペンシルゴンは思案する。サンラクを仕留めるためにクランマスターがペンシルゴンに同行させたプレイヤーキラー達ではあるが、ペンシルゴンは彼らがサンラクを仕留められるとはカケラも思っていなかった。ついでに言えば彼らに加勢するつもりもない。


(サンラク君、自前でDEX用意してるの狡いよねぇ……普通レベル差50以上あったらろくに抵抗もできずにキルされるってのに)


 クソゲーという制限付きとはいえジャンルを問わないあらゆるゲームの積み重ねから得た経験値はこのゲームのシステムにおいて下手なユニークアイテム以上の価値があることをペンシルゴンは知っている。

 自分と同等かそれ以下のプレイヤーを囲んでPKする事しかできない者達ではアレを止めることは不可能だろう。かつてペンシルゴンも同じような判断をして痛い目を見たのだ、その推測には実体験が伴っていた。


(あのバカはチキってるし、そのせいでつまんないプレイヤーばっかりメンバーに増えたし……そろそろ潮時かなぁ。カッツォ君もシャンフロ始めたらしいし、あの計画(・・・・)も現実味を帯びてきたね……)


 ペンシルゴンが思い浮かべるのは、レベル99……シャングリラ・フロンティアにおける現段階でのレベル上限に達したプレイヤーたるペンシルゴンを含めたハイレベルプレイヤー15名による討伐隊ですら、いとも容易く全滅させてみせた武者の姿。

 プレイヤーキラークラン「阿修羅会」最大の秘密とも言える()と張り合える知り合いは、かつてたった二人で鉛筆戦士アーサー・ペンシルゴンの国を墜とした彼らの他にはいない。あとはタイミングさえ合えば計画は現実的なものになるのだが……と、ペンシルゴンはふと視線を倒れ伏すアニマリアへと向ける。


「ふむ、ところで園長さん?私の記憶が間違ってなければ貴女、「詠唱丸暗記」と「HP1桁」の時のみ発動できる呪術を今まさに使おうとしているように見えるんだけど……?」


「……………」


 にっこり、とモデルとして常日頃から顔の筋肉が引きつるほどに笑顔を作っている天音 永遠(ペンシルゴン)をして魅力的だと感じるアニマリアの笑顔だが、無言の笑みの中に確かに「死なば諸共」という非常に禍々しい意味が込められている事を理解させられる。

 応報の藁人形は先程ストックを使い切った、そもそも破格のメタ性能の代償として持てる数が極端に少ないのが消費系のユニークアイテムの特徴だ。


「……ハナセバワカルヨ」


「問答無用、【冥府の旅路は汝と共に(フェロウ・トラベラー)】……!」


 最高クラスの呪術師による自滅呪術がペンシルゴンへ……






そして状況は一斉に始動する。


変更点

PKの数を五人から四人に

位置関係説明描写

主人公がクソゲー比較でモチベーション回復

サイガ-0が順番待ちで出遅れた→PKのやべーやつから逃げたNPC達の人波に呑まれていた

ペンシルゴンが応報の藁人形を持っている理由

ペンシルゴンの自クランへの評価追加

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