鎧騎士は見た!
東に絶版のクソゲーあらばネットオークションでポチり、西に流通数が少なすぎるクソゲーの目撃情報あればリニア一人旅にて店を訪れ、挙げ句の果てには数々のクソゲープレイヤー達より「クソゲーハンター」なる泥色の称号を拝領した俺ではあるが、NPCに二度見ならぬ四度見される経験は流石になかった。
「次の……人? いや、なんで半裸? そ、その痣は! 足にも!?」
と、まぁ一度にサンラクの頭おかしい点を全て指摘してくれた門番……もしゲーム内NPC人気投票とかあったら俺はお前に投票するぜベイベー、リアクション面白すぎ。バグで「歩くと首が横軸で回る」キャラを見て爆笑したこともあったが、少なくともそれよりは数倍健全な笑いを彼は提供してくれた。
見るからに不審者オーラ全開な俺をどうしたものかと唸っていた門番だったが、ここでただの変態を連れにした女、というレッテルを回避するべくエムルの舌がフル回転する。
「いやいや待ってくださいな門番サン、彼にはそれは……っっっもう! 大変な過去があるんですわ……っ!」
いやもう、俺は大層驚いたよ。NPCが「嘘をでっち上げる」という人と遜色ないAIにもだが、エムルの弁舌によってサンラクというキャラクターが
「運命神の導きにより前世から夜襲のリュカオーンと戦う宿命の聖戦士が転生してリュカオーンに挑んだはいいが力及ばず呪いを刻まれ、運命に導かれ呪いを解く巡礼の旅を続けるさすらいの戦士」
とかいう設定過多で破裂しそうな何かにでっち上げられたことがな。
「なんか俺、めっちゃ応援されたんだけど……」
「そんだけの力がその呪いにはあるんですわ、サンラクサンはもっと自慢してもいいくらいですわ!」
そういうものなのかねぇ……まぁ、NPCに尊敬や畏怖の眼差しで見られるのはむず痒いが悪い気はしない。プレイヤーに見せびらかしたらどうなんだろう、「そのタトゥーはどこでアバターに付けれるんですか!?」と訊かれるのが関の山かな。
「問題なく街の中に入れるならまぁいいか、行こうエムル」
「はいな!」
例えるならそう、防御貫通効果のある超火力攻撃を頭にモロに食らったような。
いや、これは最早ゲーム内の現象では例えようがない。まさに脳天に破城槌が激突したかのような衝撃に、
(あ、あの、あの女の子………誰?)
胴と脚が無装備で、凝視の鳥面を装備したサンラクというプレイヤー、まず間違いなく彼だろう。
全く同時期に同じプレイヤーネームの別人がいたとしたら非常に困ったことになるが、少なくとも「何をしでかすか分からないサンラクというプレイヤー」は彼くらいのものだろう。
だが、聞いた話では
まさか
(いや……落ち着いて、冷静に……姉さんも初見の事態には冷静な観察が大事と言ってました……)
視線の先、始めたばかりの初心者である彼に手取り足取り……というサイガ-0の初期目標を見事に裏切り、破竹の勢いで突っ走っていった彼と、それなりにこのゲーム内の多くを見てきたサイガ-0をして見たことのない装備に身を包んだ
(確か喋るヴォーパルバニーと一緒にいる、という話でしたが……人、ですよね? あれ……)
人に化けるモンスターに心当たりがないわけではないが、それらはもっと
(そうか……プレイヤーネームが表示されていないんですね)
つまりあの少女はNPCのようだ……と、サイガ-0は突如として出現した「ゲームの先輩として彼に話しかけよう作戦」最大の障壁が自分の早とちりであったことに安堵する。
それ以外の問題は解決するどころかさらに謎が深まっているのだが、私情八割で動いているサイガ-0にとっては瑣末な問題である。
(サードレマの中に……追わなくては……あっ)
話は変わるが、シャングリラ・フロンティアではNPCも
ちなみにここでNPCを押しのけたり危害を加えたりすれば、最悪サードレマのみならず前後二つの街にプレイヤーの手配書が配られNPCの衛兵や賞金稼ぎに、場合によっては懸賞金目当てのプレイヤーに追われる羽目になる。
サイガ-0からすればサードレマに存在するあらゆるMobなど敵ではないのだが、NPCの好感度が下がると様々なことに響くため、白金の騎士は門の先へと歩いていく半裸の鳥頭と何故か尻を抑えている白髪の少女をただ見ていることしかできなかった。
ちなみにNPCの中には現時点でLv.100を突破している人物もいます