人は飛び、兎は跳ぶ
「ぐぉ………おわぁぁぁぁぁ!?」
人に翼は無く、故に人は様々な手段を用いて空を飛ぶ。そして
(HPは……うおお殆ど減ってない!)
てっきりかち上げられた時点で死んだものだと思っていたが、どうもこの攻撃の本命は落下ダメージによる……落下死。
(悪趣味過ぎる……!!)
あの牙に噛まれて死ぬより悪意があるぞこの攻撃! このボス作ったやつは絶対に性格が悪い、断言できる。というかどうする、高くかち上げられすぎて考える時間があるものの、次に地面と接触した地点が俺の死に場所だ。
(考えろ……どうする!? 落下死は普通に嫌だ! いや、だがプレイスキルとか魔法とかでどうにかなる問題では………)
魔法。
この場におけるもう一匹、ついに重力への反逆の限界に到達した俺の身体が落ちる寸前に下へ視線を向ければ、小さく見える白と、茶色と、鮮やかな服の色………エムルは無事だ、あのまま連続攻撃をやるような畜生ボスではないらしい。
ああくそ余計な思考はシャットアウトしろ、最短最速最適な行動を……どうする、ダメージ判定受けたら瞬間ポリゴン爆散だ、検証はしてないが流石に何の対策もなしに四、五階の高さから落ちた落下ダメージなど考えるまでもない。これは無理ゲー……いや、反省と後悔はやるならリスポーンしてからだ、今はとにかく足掻く!
無駄にリアルな落下の感触を考えないようにしながら必死に考えを巡らせる。対処すべきは落下ダメージ、地面に叩きつけられることを回避する? 地面に叩きつけられてもダメージを軽減する? くそ、どっちも無理だ。
エムルの力を借りる? 座標転移がどれくらい汎用性があるのか俺には分からない、前準備が必要なら詰み、最悪エムルの上に落ちることになる。落ちる俺の身体にマジックエッジをぶつけて真横からぶっ飛ばしてもらうのはどうだろう。
……普通に魔法のダメージと落下のダメージで爆散だろうな、却下!
(あ、これは詰んだか)
流石にこれはどうしようもない。次トライする時は落下対策か攻撃の対策を練らないと。時間にして十秒もない落下の中であるが、俺が考えつく対処法は存在しないと結論が出てしまった。せめて出来ることといえば落下の衝撃に覚悟を決めるくらいか…………
「………………ぁぁぁ」
昔からゲームでの落下死だけは慣れないんだよなぁ。
フルダイブだと落ち続ける中で視界がブラックアウトとかならまだ優しい、全身に電流が走る感覚と同時に感覚全消失……そしてリスポン、なんてものもあった。そういえばあのゲーム発禁にされてたな、俺の家の棚に眠ってるが。
「……わぁぁぁぁぁぁぁ………!」
とりあえずあの攻撃、泥沼から出れば食らわない気がする。やっぱ効率厨とか言っておいて中途半端に出しゃばった俺が戦犯か、次は遠慮容赦なく遠距離からエムルの魔法でハメ殺そう。
「見さらせ
「んお!?」
「
切り替わる景色、数秒の落下のそれとは違う浮遊感と、腰に感じるモコモコとした暖かさ。
次の瞬間、見上げた先に流れる雲の位置が
「ギシャァァァァァァァァァァア!!!?」
泥飛沫が波のように沼を荒らす。プレイヤーが上から下に落ちる落下
この時の俺は知る由もなかったが、今の俺のような状態で発動する「
そしてこれは俺の個人的見解ではあるが、プレイヤーたる俺に即死攻撃を当てて余裕の遊泳をしていた泥掘り。やつはエムルによって落下地点に設定されてしまった為にロクな回避もできずに俺の「なんちゃってメテオ・フォール」が命中、互いのHPが削れてポリゴンが派手に飛び散る。
攻撃の反転、ダメージの切り替わり、幸運の発動判定………何もかもが複雑に混ざって解けて整理されて、そして結論が出て。
「……なぁエムル」
「うひゃあ……死ぬかと思いましたわぁ……何ですわ?」
「お前最高ですわ。」
「こ、言葉の真似っこはやめるんですわぁ!?」
あの黒狼と戦った時と同じく、
これはもうエムルさんに足向けて寝れませんわぁ。
使い捨て魔術媒体【瞬間転移】は発動した瞬間に発動者から半径5メートル以内の座標を指定し、発動地点から指定座標へ瞬間移動する魔法です。