セツナノコウサ
301話のネタバレあとがき対策の連続更新
「………」
「こ、なくそぁ!」
くるり、と鋒の向きを
「………」
「クソッ、只でさえ集中力が削れるってのに……!」
周囲で野次を飛ばしていたプレイヤー達も諦めムードが漂っている。クソが、こんな……こんな意味のわからない理由でキルされてたまるか!
守りに回ったら死ぬ、攻めながら受け流す。畜生カフェインが足りてないんだよ頑張れアドレナリン!
飛び抜けて速いわけではない、だが武器にとっての理想的最適解を常になぞり続ける姿はまさしくTASと言うべき鬼挙動で俺を仕留めんと閃きが舞う。
くるり、と鋒を後ろへ。トンファー型に戻った事でパンチという選択肢を増やした敵の攻撃がより多彩になる。
だがそっちは実質拳射程……ありがたい、まだ活路は途切れちゃいないようだ。
「立て直した!」
「うぉー、すげー」
ガヤガヤうるさい、BGMならもう少し旋律に気を配れ。気分的にはロックな感じの音楽を聴きたい……あぁダメだ、聴覚封じたら多分死ぬ。
「つーかっ……俺っ……なんか悪い事っ……したかぁっ!?」
泣き言で気が緩んだか、不覚にも弾かれ吹き飛ぶ傑剣への憧刃。
ならばと強制的に空けさせられた手でウィンドウを操作しつつ、片手の一本でこちらを刈り取りにくる乱舞へと対処する。
普段は気にもしていない武器の展開速度、今は怒りすら感じる遅さにしか思えない。
七日経過していないので超過機構は使えないがそれでも有能な冥王の鏡盾でトンファーエッジの攻撃を迎撃しながら前へと踏み出す。喰らえ一人ファランクス!
「………っ」
目深に被ったフードに口元を隠すマフラー、表情を伺うことは出来ないがこれだけ持ちこたえて尚その動きに焦燥などの感情は見られない。
文字通りAIってわけかい、ますます俺が集中的に狙われてる理由が分からないのだがここまで持ち堪えて「しゃーない勝てそうにないから負けるか」というのはなんだか無性に悔しい。
それはここがシャンフロを始めたプレイヤーのうち殆どが一番最初に降り立つことになるであろう街……ファステイアであり、今死ぬと別の街でリスポーンする事になるからか。
それとも初心者の街であるが故に大量の新規が観客として俺を見ている中で負けるのがなんだか気に食わないからか。
発端なんぞ何でもいい、兎にも角にも今の俺の中で燃えるこの衝動は「負けたくない」と叫んでいるのだ。
「うおおお意地でも五秒くらい時間を貰うぞぉぉお!」
元よりユニークでもなし、隠す理由ももはや無し! 押し込まれる一方であった戦局を死を覚悟した力技で無理矢理押し返た空白の一瞬、手袋に包まれた右手をきつく握りしめて拳を胸に叩きつける。
「そっちが先に喧嘩を売ったんだ、ぶっ飛ばされてもキルペナつけるんじゃねーぞオラァ!」
「…………っ!」
黒雷を纏い、最適最速の攻撃すら上回った俺の挙動に敵は……
何故俺が執拗なまでに狙われるのか、何故観衆の中で突っ立っているゴズマンドラ氏を放置してまで俺を狙うのか、その理由を話せと叫びたいが賞金狩人はただ無言のまま襲いかかってくるだけだろう、であればこちらも全力全開だ。
「フルスロットルだ、
スタミナがあっても精神的な疲労はごまかせない、カフェインによるブーストがない以上より短期の決着で決めなければ削り潰される。故にこそ短期決戦、一秒を限界まで引き伸ばして一瞬に全てを賭ける。
「ブッこ、ろ……」
だが逆に言えばそれは、考える時間をも削った諸刃の剣ということ。だからこそあまりに単純な「事実」に俺は今気づいた。
「…………」
目が、合った。
加速する思考、スローモーションになった世界の中で賞金狩人の目が確かに俺の動きを捉えていた。
フードとマフラーの隙間、サファイアを思わせる蒼い「目」がまるで自ら輝く恒星のように光を宿している。きっと俺の目も同様のエフェクトが発生している。
それは瞬間を刻む世界を捉える目、フレームを見逃さない眼差し。
NPCとて魔法やスキルを使うという簡単な事実、俺と同様に「
こちらの攻撃が届く……寸前。
「───「
黒い電光石火、と、音速の衝撃波、が、交差して…………頭の中で火花が散った。
「……………っ!!?」
嘘だろ意識トンでた!? ていうかリスポーン……してない! 生きてる!?
「っ……ぶはぁ!!」
ダメだ、完全に緊張の糸が切れた。
かろうじて動く右手で胸を叩いて
あまりに隙だらけな、緩慢な動きで振り返るとそこには必殺の一撃を振り抜いた姿勢で止まる賞金狩人と……
「我ながら、よくやった………か」
あの一瞬で、直感と無意識が選んだ選択肢は全ての速度を注ぎ込んでのヘイト分離、すなわち「責任転嫁」であった。
スキルなのか魔法なのかは知らないが、瞬間速度だけなら
「あーダメだ、もう動けん」
エンストだ、再起動までに三十回は死ねるな。それとも幸運の食いしばり乱数を信じてクソロシアンルーレットでもやるか? 女神様に媚び売らなきゃ。
「…………」
「……あー、示談金で許して?」
最近の死神は鎌じゃなくてトンファーを使うらしい。あんだけの速度を出していたというのにピンピンした様子の賞金狩人はじっと俺を見つめ……
ヒュンッ!
「うぇぽぁっ!?」
目にも留まらぬ速さで投擲されたナイフは俺……ではなく、間抜けな顔をして俺と賞金狩人ルティアの戦いを見ていたゴズマンドラ氏の喉に命中。体力を回復することを忘れていたのか、投げナイフの一撃で体力がゼロになったゴズマンドラ氏が爆散エフェクトと共に消滅した。
ばら撒かれたゴズマンドラ氏のアイテムを一瞥し、舌打ちした……うん、今確かに舌打ちしたな。「時化たアイテムだなオイ」とでも言いたげな舌打ちだった。
「…………」
迅速かつ鮮やかにターゲットを始末したルティアはロングコートの中から何か……カード? のようなものを取り出すと尻餅をついてへたれる俺へと投げつけた。
そして顔を俺の耳元に近付けると……
「……カフェ「蛇の林檎」、合言葉は「林檎の花に誘われて」。」
「あ、そこ割と常連だわ……」
化けの皮を何枚も被ったペンシルゴンのような背筋に電流を走らせる囁きを残し、賞金狩人はコートの裾を翻した。
ツカツカと歩いたルティアは地面に散らばった故ゴズマンドラ氏のアイテムを指パッチン一つで回収すると、颯爽と去って行った………
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
沈黙。
この場の状況を知らぬ喧騒は遠く、この場で起きたことを目撃した者達はただ言葉もなく静まり返る。
さて、どう動く? 俺の一挙一動、それこそ「トイレ」と呟いただけでもこの静寂は崩れ去るだろう。
「………(スッ)」
俺は立ち上がりつつも「まぁ落ち着け」とゼスチャーを行う。そして先程までの引き気味な視線などどこかにすっ飛んだ様子のタンゴ君からマフラー(擬態解けかけ)を受け取り、フッと笑い……
「あーっ! あんなところに夜襲のリュカオーンがぁあっ!!」
全力で逃げた。
アイニード女子力ぅぅぅぅぅぅ!!!
スキル「
加速と認識、二種類のスキルを複数連結した超加速スキル。圧倒的な速さを実現する代わりに、使用後は一定時間「疲労硬直」状態となる。
尤も、音速の世界から帰還した者に追いつける者はそうはいないであろう。
なおルティアさんは賞金狩人の中では二番目の速さ、一位? そりゃあ勿論……
スキル「
賞金狩人「ルティア」の切り札、かの絶技「
対象が「無防備(文字通り防御を備えているかどうかを参照する)」である程装甲貫通力が増す為、前述の「