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就職活動は波乱の連続

「クソが……っ! よく分からんが喧嘩を売るなら買ってやるよオラァ!」


PKなんてしてないからペナルティはないよな? ないですよね? ないと言ってくれ。

とはいえ賞金狩人と戦えるというのなら、せっかくの機会を逃すのも惜しい。ペナルティがあるかもしれない懸念は未だ拭えないがやってやろうじゃないか!


「おいタンゴ、ちょっとこれ持っててくれ」


「え? お、おう……なんか妙に暖かいなこのマフラー」


タンゴの手に乗せたマフラー(エムル)がびくりと一瞬動いたが頑張って擬態していてくれ、流石にエムルを庇いながら戦うのはキツイだろうし。

傑剣への憧刃(デュクスラム)を構え、人の囲いが形成するリングの真ん中へと静かに移動する。


突然のターゲット変更、それもPKとは無関係のプレイヤー。想定外の展開故か、クラン「ティーアスちゃん着せ替え隊」の連中が突然の闖入者たる俺を咎めたりするような事はなかった。

つまりこの瞬間、俺とルティアのタイマンは成立したと言っていいだろう。互いに無言のトンファーエッジと片手剣二刀流が対峙、数多の視線が向けられる中で俺と賞金狩人ルティアによる相対が静かに始まった。









「…………」


「…………」


さぁどうしたものか。互いに二刀、恐らくルティアはTECが高い近距離戦士だ。トンファーエッジは切っ先の向きで間合いが切り替わる、TAS性能ともなれば戦闘中に目まぐるしく切り替わると見て間違いない。


対するこちらは機動力特化、一発でも喰らえば瀕死間違いなしだがそれ故に回避系の性能が高まっている。

ヒットアンドアウェイで確実にダメージを稼ぐかそれとも一気呵成に攻めて攻めての押し切りで行くか……おっと向こうが先手を取ったか。


「………!」


「うおっと!」


的確に首を狙った横薙ぎ。拳を掠らせるようなインファイトによる先制攻撃に対してこちらは身体を屈めての回避で応える。

首狙いの最速攻撃と言えばウェザエモンの「断風(たちかぜ)」を思い出すがあれは速度が極まった単一の奥義だったが、こちらはすぐさま次の技に繋がるコンボの一部だ。


「それは読めてた……ぜっ!」


横薙ぎの勢いをそのまま維持し、むしろさらに加速することで放たれたもう一方のトンファーエッジによる回転斬りが襲い来る。

それに対してこちらも負けじと傑剣への憧刃を叩きつけての鍔迫り合い。若干対応が遅れたのかクリティカルの手応えはなく、STRのぶつかり合いによる拮抗はこちらの力負けという形で崩れる。


「ぐ、く……こなくそっ!」


パラパラ漫画のような、1ページ1ページがが連続することで一つの動きとなるようなモーションコンボが流れるように俺を襲う。

単一の攻撃で迎撃を終わらせるな、奴の武器はトンファーエッジだけではない。武器の振り終わりに生じる隙を潰すかのような脚技は喰らえばコンボの起点にされるだろう。


無理にクリティカルを狙えばそこを起点としてつけ込まれかねない、故に傑剣への憧刃の消耗を覚悟の上でルティアの猛攻を受け止め流す。

ダメだな、足を止めたらジリ貧だ。一瞬の隙を逃さずスキルを起動し、攻撃のターンをなんとか奪い取る事に成功した。


「っしゃオラァ!」


スキル起動、一気に速度を上げた一撃をルティアへと叩きつける。防がれこそしたが攻撃主導権を握っている限りはまだ動ける、叩きつけた傑剣への憧刃を逆手に持ち替え縷々閃舞を起動し多段ヒットでルティアの攻勢を押し止める。

だが流石は賞金狩人と言うべきか、果たして奴が選んだ選択肢はダメージをある程度許容した上での主導権奪取であった。


「………」


「ぐ、ぬぉ……っ!?」


二刀流は即ち「剣」の間合いだ、だがルティアはさらに距離を詰めることでトンファーエッジによる「打撃」の間合い……即ち超至近距離(インファイト)に持ち込んできた。

脇腹に一閃を掠らせつつも肉薄した鳩尾狙いの左打撃を回避、避けた先に置くように放たれた顎を揺らさんと放たれるフックを仰け反るように避ける。

あぶねえ、仰け反りが足りなかったら文字通り顎を割られて(・・・・)いた。


「んの……っ!」


本来であれば勢いが足りずに青天井に倒れるところを、スキル補正による補強で無理矢理のバク転。サマーソルトキックでルティアに無理矢理距離を取らせる。

派手な動きの応酬に周囲からおぉっ! と声が聞こえるが応える暇はない。

四つん這いに近い前傾姿勢のまま、クラウチン��スタートを切るように前へと飛び出す。


「正当防衛!」


「………っ!」


腹狙いの突きをトンファーエッジが払いのける。だがそれはブラフだ、フォーミュラドリフト起動と同時に攻撃的転用!

独楽のような回転を伴った鋭い回り込み、加速した足払いがルティアの足に命中し、そのバランスを崩……していない! 跳んで避けた!? 嘘だろやっべぇ!


「のぉぉおお!!?」


フリットフロートによる、まるで平泳ぎのような超低空での虚空蹴り(・・・・)、プールで壁を蹴って加速するようにその場から跳び退いた俺がいた場所にトンファーエッジが突き立てられる。


「………!」


ザリザリと地面に線を引きながら俺を追う刃、喰らえばブツ斬りにされるだろう。


一回転目は地べたを転がるように。


二回転目は肘を立てて身体を浮かし。


三回転目で剣を握った拳を支えに勢いをつけ。


そして四回転目で勢いよく回転しながら起き上がる。


「うおおおお頑張れ俺の三半規管んんん!!」


グラつく視界、ふらつく足を叱咤して地面に二本の線を描いて放たれた斬り上げを二刀の交差で受け止めた。

膂力に劣る俺では受け止めきれない、だが遮那王憑きはまだ継続している。ギャリギャリと刃物同士が火花を散らしつつも、同時に行ったバックジャンプでかろうじて致死圏内からの離脱に成功する。


「………」


「………」


互いに無理な挙動のツケを支払った事による硬直、息つく暇なく繰り広げられた怒涛の応酬に僅かながら休止符が打たれる。


「……ふはぁ」


緊張の糸が緩んでしまわないよう、わずかに吐き出した吐息。ふと周囲に耳をすませば同様に息を吐く音がいくつも聞こえる。


「……ちょっとタンマとか」


「………!」


「だよなぁ! クソがっ、死ねオラァ!」














賞金狩人と、突然の指名により相対の舞台へ登った謎の半裸の激突。

予想外という言葉では足りない応酬に、この場にルティアを呼び込んだ張本人たる「ティーアスちゃんを着せ替え隊」のメンバー達もまた固唾を飲んでいた。


「うっわあんだけ動いてほぼノーダメかよ……」


「サバさん並に強くね?」


ファステイアは一番最初の街であり、つまりはスポーン地点でもある。故にキャラメイク時点で装備を売り払った無装備状態のキャラを見かける事はそれなりに多く、半裸にキャラメイク時点で選択可能な覆面を被ったそのプレイヤーは「始めたばかりの新規である」と誤認していた者達も一連の動きでそれが間違いであると気付いていた。


「どういう事だ、初心者に擬態してた?」


「意味がわからん、ファステイアでハイレベルなプレイヤーが擬態するメリットとかないだろ」


「てかルティアさんの鬼コンボ対処しきる奴サバさん以外で初めて見たわ」


「おう、呼んだかよ」


「あ、サバさん(・・・・)インしてたんすね!」


挙げた名前に対しての返答、着せ替え隊のメンバーが振り向いた先には状況を掴めていない表情で立つ一人のプレイヤー。


「リアルのゴタゴタがようやく片付いてな……ってアレ誰だ?」


「いやそれが、ルティアさん呼べたのはいいんスけど……なんでか関係ないプレイヤーにヘイトが切り替わりまして」


「は? あれウチのメンバーじゃねーの? 誰だよ」


至極もっともな疑問、故に問われたプレイヤーは当たり前のように答えを返す。


「さっきちらっと見ましたけど……確か「サンラク」って名前の……」


「今何つった?」


「え?」


だからこそ、少々粗野ではあるが兄貴肌なその人物の気配がガラリと変わった事に呆けてしまった。


サンラク(・・・・)……だぁ?」


まるで獣のような尖った、それでいて不思議なことに喜びの気配も入り混じっているように思える眼差しで鳥頭の半裸を見つめる女キャラ(中身は男)のプレイヤー……「サバイバアル」

そして、恐らく問われたプレイヤーだけが聞き取れた、サバイバアルがポツリと呟いた言葉。しかしてその意味を理解することはできなかった。


「まさか……μ(ミュー)鯖の?」


それがどんな意味かを問うよりも先に半裸の鳥頭と賞金狩人ルティアが再び激突、疑問は熱狂に押し流されて消えた。


300話記念設定吐き出しコーナー、お口チャックがゆるゆるガバガバなので今回は割と核心的ネタです、一応無粋なネタバレを好まない方はお手数ですがスクロールせずにページを閉じるか次の話に行っていただきますよう、よろしくお願いします


実は感想欄で当ててる人結構いましたね







































狂える大群青:白血球

貪る大赤依:赤血球

?てる大白?:血小板

??????:血漿


つまりそういうこと

ぶっちゃけますが色自体は特に関係ないです、あとブロッコリーさんはカテゴリ的には同じだけど仕組みが違います。あっちは足し算系、こっちは掛け算系


含有するマナの多寡で活性化or非活性化する為、「────」達とマナとの間に割り込んだ菌糸類(スポンジ)が消えたなら、マナを集めて燃やす生きた焼却炉(神代の切り札)が弱体化したなら………それが第四段階





以前言った気もしますが拙作は某異質な剣の物語の影響を受けまくりなので……丸パクリにならないようオリジナリティを出していく所存です。

気づけば話数は三百を超えてまだ予定の半分にも至らず、文字数も百万を超えており編集画面を開く間にティアマグ殴り倒せるくらいですが、頑張ってペースを維持したい所存です。


これからも拙作をどうかよろしくお願いいたします。

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