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受け継がれる夢

後書きが長くなったので300話記念の設定吐き出しコーナーは次話で

分からなかったら聞くに限る。


「なぁ、あれ何やってんだ?」


「うわ、ネタ装備だ」


おうテメーの貧相な装備よか防御力上だぞ。とはいえ嵩張って邪魔、という理由で星外套を外している今の俺は頭だけネタ装備にして初期装備を売り払ったニュービーに見えないこともないだろう。


まるで「端金のために半裸でゲーム始めるとかないわぁ……」とでも言いたげな視線を向けてくる新規プレイヤー……名前は「タンゴ」な、覚えたからなテメェ。こちとらほぼこの状態で狼やらタコやらを殴り倒してんだよ舐めん……いやそれはいいとして、恐らく大剣使いの傭兵と思しきタンゴは若干引いたような視線を向けつつも俺の質問に答える。


「あれって……えーと? 「なんとかちゃんを着せ替えたい」ってネタ連中だろ?」


「……あー、どっかで聞いた事あるかも」


ペンシルゴンがいつだったかに話してたような、確か幼女にビキニアーマーを着せて喜ぶ変態集団だっけか。

度し難いがゲーム故そういう手合いもいるよね、と軽く流していたがそうかあいつらがそうなのか……元々は賞金狩人? とかいうシステムが実装された事で結成されたクランらしいが中核にいるのが元PKなんだっけか?


「確か意図的に街中でのPKを起こして賞金狩人を呼ぶ、だったか……」


「なんだ、知ってるじゃん」


「それを思い出すかどうかはまた別問題なんだよ、歴史のテストみたいなもんだ」


「ゲームの中でまで勉強の話はやめろよ……」


あーなるほど、こいつ「没入タイプ」か。ゲームとしてではなく本当に異世界の一員であるかのように楽しむプレイスタイルだ、無論否定する理由など存在しないが向こうから見れば半裸に覆面とかふざけているようにしか見えないわけだ。


「ははは、細かいこと気にしてると禿げるぞ若者よ。それより見ろよ、連中やっぱり対人上手いな」


賞金狩人って確かガチTASみたいな性能のNPCだと聞いた、そんな奴をわざと呼び込む連中だ。当然対人に特化しているようだな、装備こそ貧弱だが動きは完全に廃人のそれだ。


木の棒と大差なさげな頼りない武器も、熟練の使い手が握れば立派に武器として輝く。

片手剣と盾、というシンプルスタイルなプレイヤーが相対する槍使いの猛攻を盾で対処し、的確に間合いを詰めて攻撃を加える。だが槍使いとて己の長所と相手の短所が噛み合わないことは承知の上、互いに武器をぶつける以上に有利な間合いを確保する戦いと言えるだろう。


「なんでスキルとか使わないんだ?」


「あいつらにとっちゃ前哨戦だからだろ、本命相手に温存してるんじゃね?」


間合いは槍使いに有利、だが満を辞して放たれた必殺の一突きは真正面から攻撃を盾で受け止める、という中々に無茶な対処によって受け止められた。

片や覚悟を決めた上での受け止め、片や必殺の一撃を防がれた空白。決着は必然であり、片手剣の刃が槍使いの首に深々と突き刺さり、派手なダメージエフェクトと共に勝敗が決した。


「くっ……裸エプロンの夢、が……」


強敵(とも)よ、裸エプロンはむしろルティアさんに似合うと思う」


「俺的にはティーアスちゃんでもルティアさんでも大勝利なんだなこれが…………夢を託すぞ……っ!」


そして砕け散る槍使い、片手剣使いのネームが赤に染まりPKの烙印が押される。

シャンフロに搭載された「カルマ値」システム、それは街中でのPKにおいては非常に高いペナルティが下される。


「おっ、一人抜きで出て来るか運が良いな……おい来るぞ!」


「トゥールはやめろトゥールはやめろトゥールはやめ………」


何故か祈り始めた片手剣使い、トゥールとやらが誰だかは知らないが果たしてそれ(・・)はまるで空から降って来たかのように片手剣使いの前へと着地した。

トッ、と降り立つ音は軽く、細身であろうその狩人はまるで素肌を晒すことを禁忌としているかのように、分厚いロングコートにフードを目深に被った上でマフラーで口元を隠す徹底ぶりだ。暑くないかそれ?

だが確か……そう「ティーアスちゃんを着せ替え隊」のメンバーとしては現れた人物は歓喜に値する存在であったらしい。


「ルッ………」


「「ルティアだぁぁぁぁぁ!!」」


「おいゴズマンドラって何持ってた」


「馬鹿野郎ルティアさんにはメイド服だって語り合ったじゃねーか!」


「まだ間に合う! 交換するぞオイ!」


「ごめん皆、俺はルティアさんにスク水着せてもいいと思う!!」


「貴様ァーッ!?」


あー…………クソ、楽しそうだなぁ。PKペナルティがメリットでしかない以上あいつら無敵じゃん……

とはいえ俺の場合PKペナルティはペナルティのままなので観戦することしかできない、ので現れた賞金狩人とやらの実力を見せてもらおうか。


「…………」


無言を貫く賞金狩人(バウンティハンター)ルティア、その両手に持っている物はなんだろうか? トンファーの棍部分を刃物に変えたトンファーエッジ? ブレード? とでも言うべき代物か。

カテゴリは双剣か? いや属性的には斬撃で武器種的には打撃って可能性もあるか?

静かに構えを取るその姿に未知の武器を持て余しているような気配はない、まるで己の一部であるかのようにトンファーエッジを構えたルティアが片手剣使い……ゴズマンドラへと襲いかかった。


「くっ……!」


「オラッ! さっさとくたばれ!」


「うるせー! 挑戦くらいさせろよ!」


「俺もルティアさんにスク水はいいと思う!」


無装備状態、つまり俺より装備品が少ないゴズマンドラが消耗した盾を取り替えてルティアの強襲に立ち向かう。

だがTASみたいな性能、という表現は誇張でもなんでもないらしい。左右一振りずつのトンファーエッジ、その切っ先をくるりと回せば刺突武器となる。またその逆として柄尻を叩きつければ打撃武器となる。

精神的なブレが一切存在しない、常にタイプ変更し続けるシルヴィア・ゴールドバーグとでも形容するしかないバトルスタイルを常に最適解で維持し続ける。


「運営からのPKを絶対に処理するという固い意志を感じるな……」


「あの武器強そうだな……」


おぉタンゴよ、目標を作るのは良い事だぞ。モチベーションは大事だ、それを達成するまでは大抵のクソゲー要素にも耐えられる。

やっぱりメイスからトンファーに派生してトンファーエッジになるのか? 明らかに双剣っぽい対刃剣が短剣二本からの派生だからなぁ……うーん、ビィラックに聞いてみるかな。


「くっ……やっぱつえぇ……ぐわっ!?」


「スクショオ!」


「今の美脚撮影したかスクショ担当!」


三機体制(バッチリ)だ」


「流石はローアングラーだ……」


「ゴズマンドラが思いっきり吹っ飛ばされたことに誰か突っ込んでやれよ」


そうだな、ゴズマンドラ氏は派手に吹っ飛んだな……俺たちの方に(・・・・・・)


「あぶねっ」


「蹴りいっ!?」


「うわっ!」


ルティアとやらは恐らく女キャラなんだろうが、見た目と実際のSTRは別物であるらしい。いきなりの事に声を上げて硬直したタンゴ君をよそに、中々の速度でこちらへ吹っ飛んで来たゴズマンドラ氏を足裏で受け止める。


「Heyミスター、リングアウト的なルールはあるのかい?」


「すまん助かっ……てねぇ!」


「ん?」


おや、見上げた先に上空からトンファーエッジをクロスさせてトドメを狙う賞金狩人の姿が。

あれ? これ軌道的に下に落ちて、刃を振って、慣性が働いて……うん、俺とタンゴ君が巻き込まれるな。


「なぁマンドラゴラ」


「あ、うんゴズマンドラな?」


「このゲームって正当防衛的な処理ってある?」


「は?」


傑剣への憧刃(デュクスラム)を取り出し、真上からの「死」に対して迎撃を選択。

トンファーエッジは切っ先を前へ向けた斬撃モード。物理演算に従い致命傷を齎すに足りうる重量の振り下ろしを、二の足踏み締め真っ向から受け止めて弾き飛ばす。

うーん、重い。というか少し体力が削れたわSTRがもう少しあったら耐えきれたかな?


「観客巻き込んで場外乱闘は良くないぞ、リングに戻って戦え」


TAS故の理想的斬撃で助かった、こちらも受け止めやすいからな。

さて、状況だけ見ればPKを庇った形になってしまうわけだが正当防衛だし大丈夫だろう。ほら、タンゴ君という庇われた証人もいるわけだし。


………うん。


「…………」


「…………ちょっと待て、俺は一度だって殺しはやってないぞ。誓ってもいい」


突きつけられたトンファーエッジの切っ先は、真っ直ぐ俺を指し示していた。

まるで「構えろ」と言わんばかりの様子に俺の周りにいたプレイヤー達は距離を離し、ぽっかりと開けた人を輪郭とする円は新たなリングを作り出した。


「いやなんで俺が狙われて……」


「なぁあんた……」


「ん?」


そうだよなゴズマンドラ氏、君はルティアをスク水にするという大切な使命があるのだからさっさと立ち上がって……アイテム譲渡申請?


「よく分からんが……俺たちの夢を、叶えてくれ……っ!」




隔て刃の撥水着(すくぅるみずぎ)

ゴンブトリオン作、高い防水性能を持つ胴装備。

製作者コメント:装備した者の名前が名札に平仮名で表示される機能の搭載に成功しました! どうか俺たちの夢を叶えてくれ……! Byゴンブトリオン












こんなクソみたいなバトンタッチ、中々経験できませんよこれは……

・隠し職業「???」取得条件

条件1:隠しパラメータ「歴戦度」が一定以上であること(ヴォーパル魂の人間版みたいなパラメータ)

条件2:組織的なしがらみのない「無所属」であること

条件3:NPC職業「賞金狩人(バウンティハンター)」との対戦で一定以上の結果を出す事

条件4:カルマ値が10以下である事(ちなみにエリアPKでカルマ値+50、街中PKでカルマ値+100)



ちなみに条件2は後天的に達成する事は可能です。通常、ギルドから脱退する為には他のギルドに所属してメインジョブを変える必要があります。つまりメイン職業を変えることこそ容易いものの、後天的な「無職」になる事は結構難しいのです。


ですが、ジョブを維持したまま無所属になる方法もあります。

各街に存在する自身が所属する組合(ギルド)NPC(ギルドマスター)を全員殴り飛ばせば素行不良として除籍処分になれます。ただそれだとカルマ値が結構溜まるので教会で懺悔連打すればジョブを維持したまま無職になれるのです。

カルマ値100以上だと教会から門前払いされるのでPKの常習犯が懺悔で罪を軽減させる、的な事は出来ません。PKerが行くのは懺悔室ではなくブタ箱ということです


つまりRe():ストラから始まる裏稼業生活……!




尚、ゴズマンドラが嫌だ嫌だと言っていた「トゥール」さんは呼び出し事故の結果、メイド服を着せられたゴリゴリマッチョの渋いオッサン賞金狩人です。VITオバケなので軽戦士だとカスダメすら怪しい物理耐久仕様

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