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初心者視点から痛感する自身の限界

某アメコミヒーローのゲームが予想以上に面白そうで作品の参考になったので連続投稿です。

某石像に登るデンジャラスなクライミングゲームが新しくなったことを祝って連続投稿です。

「エッジクライム!」


 実際のところ、魔法ならともかくスキルを宣言する必要性は薄い。だがより確実に発動させるのならば音声認証でスキルを発動させた方が良い。

 ネットでシャンフロについて調べた時に得た知識で俺は沈没する船のように直立するような形となった泥掘り(マッドディグ)の腹に湖沼の短剣を突き立て、言葉通り刃で泥掘り(マッドディグ)の身体を登っていく。実際スキルが無くても出来そうな芸当ではあるが、今の(サンラク)はSTRを完全に捨てているのでスキルの補正がなければ同じ芸当はできないだろう。

 夜襲のリュカオーンの足に張り付く(・・・・)ために致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)を壁を登るピッケル宜しく突き刺そうとしたことが習得の切っ掛けだ。致命の包丁の耐久が削れるだけだった忌々しい黒狼と違い、泥掘り(マッドディグ)の腹は柔らかく、STRの低い俺でもスキルの補正でスイスイと登ることができた。

やっぱりこういう明らかに物理法則無視した動きをしているときが一番ゲームをしていると実感できる、物理法則に忠実すぎてもそれはそれでつまらない。


「うひゃあ!凄いですわぁ!」


「とりあえず登ってみたが……さてどうしよう」


「ぎゃああこの人無策でしたわぁ!」


 仕方がないだろう、大局的な作戦を考えても咄嗟の判断はどうやったって脊髄反射だ。まぁいい……今の俺は効率厨、ソロだのなんだのプライドは泥の中に捨てたんだ、後で拾わないとな。ホオジロザメに近い泥掘り(マッドディグ)の頭は足場としては下の中程度、だがゲーム内なら綱渡りを全力疾走だって出来る俺にとってはそう難易度の高いものではない。


「俺がこいつの上でバランスとってるから、魔法攻撃連射頼む」


「れ、連射!?い、一撃の威力を高める方針とかは……」


「威力で考える!ゴー!」


「や、やーってやりますわぁ!【加算詠唱(アッド・スペル)】!」


 魔法を唱え始めたエムルから意識を外し、足元の泥掘り(マッドディグ)の口唇の上で俺は曲芸師よろしく立ち続ける。

 だがモンスター側がわざわざ不安定な状態を維持する理由もない。怯みが解除されたのか猛然と暴れ始めた泥掘り(マッドディグ)だったが、すぐに体勢を正すのではなく無理矢理俺に噛み付こうとするその行動は、俺にとっては「当たり」行動だ……!!


「燃えるワイヤーの上を走らされるよりはよっぽど安定した足場だぜ!」


 そんなゲームがあるのかって?あるんだなそれが。

 牙、鼻先、口唇……足場にできる場所はいくらでもある。頭だけで軽自動車並の大きさの鮫頭と、リアルよりも数倍優れた身体能力、そしてなによりこれが遊び(ゲーム)だからこそこんな無茶を通すことができる。


「行けますわサンラクサン!」


「鼻っ面に叩き込め!」


「無茶言いますわ……っ!【マジックエッジ】!」


 暴れに暴れてついに体勢を崩した泥掘り(マッドディグ)の顔を踏んづけて離脱したため、空中に投げ飛ばされた状態で魔法を撃て、というのが無茶なことは承知の上だ。だがここで追い討ちをかけられなければまた最初からやり直し、正直言って同じ結果を出す自信はない。

 エムルの悲鳴混じりの魔法が発動し、先ほどのものよりも倍の大きさを誇る魔力の刃が泥堀りの顔面……ではなく右目に命中する。


「シギィィィィィィィァァァァァァア!?」


 それでも威力の上がったマジックエッジは相当のダメージを叩き出したのか、絶叫を上げた泥掘り(マッドディグ)はのたうちながら沼に沈……むことなく、浅い沼で一度バウンドするとそのまま横たわった。ふと俺の脳裏に小さな違和感が生まれたが、それはすぐさまかき消されることになる。


「やった!やりましたわサンラクサわぶぅ」


「まぁこうなるわべぇ」


 倒れた泥掘り(マッドディグ)に続くように俺とエムルが沼へと落下、落下ダメージ自体は紙装甲にしては体力の三分の一と然程でもないが、全身泥パックを強制的に体験させられる。


「あきゃぁぁぁぁぁアタシの服ぅぅぅぅぅぅぅ!!!?!?」


「あー……濡れたティッシュを全身に貼り付けたような感覚だぁ……」


 しかも全身泥まみれで身体の動きが酷く重い。貧弱なサーバーしかないオンラインゲームでサーバーが悲鳴をあげてる時みたいだ。泥塗れにはなったが、あの様子からして倒せたと…………………………


「待て待て待て待て……!!」


 泥掘り(マッドディグ)がいない。いや、明らかに何か大質量が沼に沈んだ波紋はある、つまりまだ終わってない。違和感の正体は、そう言えばエムルが言ってた「ズドーン」らしき行動を見てない、特殊行動? HPの残量がフラグ? 削りきれなかった、発動した? 沼全体が揺れてる、全体攻撃、死………


「エムルっ!!」


「わにょっ!?」


 バラバラに散った情報を纏めるために思考以外のすべての動きを止めようとした体を無理やり動かし、多少雑だがエムルの耳を掴んで沼から引っこ抜きながら沼の外へと放り投げる。次の瞬間、広い沼全域が突如として震えだし、俺の動きがシステムじみた強制力によって鎖で縛り付けられたかのようにその場から一歩も動けなくなる。

 くそ、もしかしなくても発動した時点で確定で食らうタイプの特殊行動か………ちょっと待てAGIメタに加えてソロもメタってんのかこれ!?


「身体……動………!」


「サ、サンラクサン!下!下から来ますわーーーっ!!」


「下………!?」


 走馬灯……とは少し違うが、身動きの取れない中で様々な情報がパズルのように組み上がっていく。


 ズドーン、なる攻撃。

 泥の中を水の中を泳ぐように潜行するモンスター。

 数秒間とは言え沼から直立する(・・・・・・・)事が可能である(・・・・・・・)ということ。

 動きを止めて、下から……


「あー……モグラ叩きかよ。」


 次の瞬間、足元が感覚が消失し、上から叩くハンマーの存在しない泥掘り(マッドディグ)のモグラ叩きによって俺が泥掘り(マッドディグ)にした数倍の威力のかち上げで俺は宙高く吹き飛ばされたのだった。












泥掘り(マッドディグ)

 鮫の頭、四肢が異様に発達した土竜の胴体、そして鯰の髭(・・・)を持つ広義のキメラに分類されるこのエリアボス最大の特徴は体力が20%を切ることで発動する特殊行動である。

 地中深くに潜行し、沼を震動させる事で沼に足を踏み入れたプレイヤーの動きを強制的に止め、そして沼の中にいる者達からランダムに一人を真下から鼻先で思い切り吹き飛ばす。

 一人で挑戦した場合、沼の中にいると確定で攻撃を受ける上にかち上げられた高さから落ちる事でほぼ確実に落下ダメージでHPを全損させられること、沼に入っていなければソロでもこの攻撃を不発させることはできるが動きが制限されたこのエリアでダメージ調整と沼からの離脱を両立させることの困難さから、このモンスターはプレイヤー達から二つの名を渾されている。


 地形によるAGIへの露骨なメタっぷりと薄い装甲程度では難なく押し切ってしまうことから「軽戦士殺し」。

そしてもう一つが、一人で挑めばほぼ確定で即死攻撃を受ける事から……



 「ソロ殺し」と呼ばれる。

実のところ初見だとほぼ確実に1名はHP全損にさせるため、蘇生要員がいないと野良パーティの場合は経験値やドロップアイテム関連で盛大にモメる、という点からプレイヤー達の間では「ギスギスをもたらすもの」とか言われたり言われなかったり

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